SS60 罪の告白

 とある夜、伊織の部屋にて。


「だ、第九回、小桜姉妹緊急特別会議ー!」


 少し緊張の面持ちで、伊織が会議の開幕を宣言した。


「や、お姉。今回が第十四回目だから」

「ねぇ、前回は第八回だったよね!? どうしてそんなに増えてるの!?」

「ゲストがいない回で進んでいくのは仕方のないこと」

「だからなんで小桜姉妹の会議なのに私がゲスト扱いなの!?」


 そして、初っ端からグダグダとなった。


「ま、まぁそれはともかく……」


 伊織もそれを自覚してか、コホンと咳払いして仕切り直す。


「今日は……二人に、謝らないといけないことがあります」


 そして、悲痛な面持ちでそう切り出した。


「ごめんなさいっ! 私、二人を出し抜きましたっ!」


 次いで、深く頭を下げる。


「ふーん?」

「イオ姉、続けて?」


 他方、露華と白亜は大して興味のなさそうな表情だった。


「うん……さっき、夕飯の後のことなんだけど……」


 一人真剣な態度で、自らの胸を押さえながら伊織は先程の出来事を語る。



   ◆   ◆   ◆



「あの、春輝さん……」


 キョロキョロと周囲を見回しながらリビングに足を踏み入れ、伊織は慎重に春輝へと話しかけた。

 大丈夫、妹たちは二人とも自分の部屋に戻っている。


 あとは、自分が覚悟を決める・・・・・・だけだ。


「……どうかした? 何か問題でも発生したの?」


 伊織のただならぬ気配を察してか、読んでいた本を閉じた春輝は真剣な表情で応じた。


「あっあっ、すみません! 全然そんな深刻な話ではなくて!」


 慌てて伊織は首を横に振る。

 無駄に心配をかけることは、もちろん本意ではない。


「むしろ真逆と申しますか!」

「真逆……?」


 その言葉の意味はわかっていなそうだが、問題が発生しているわけではないことは伝わったらしく春輝の纏う雰囲気も緩んだ。


 伊織も、ホッと胸を撫で下ろす。


「あのですね……」


 とはいえ、これが伊織にとって重大事であることに変わりはない。

 緊張と照れで、胸がドキドキと大きく高鳴っていた。


「今度の、日曜なんですけど」

「うん」

「わ、わた、わた、わたわたわた……!」

「綿……?」


 吃る伊織に、春輝が首を捻る。


「す、すみません! ちょっとタイムいただいてよろしいでしょうかっ!?」

「う、うん、もちろんいいけど……」


 戸惑った様子の春輝に申し訳なく思いつつも、緊張は緩むどころか高まるばかりだ。


「すぅ……はぁ……」


 クルリと春輝に背を向け、伊織は大きく深呼吸する。


(よし……振り向くと同時に、勢いで言う!)


 そう心に決めながら、振り返り。


「今度の日曜、私とお出掛けしませんかっ!?」


 思ったよりスムーズに、その言葉を紡ぐことが出来た。


 意外な言葉だったのか、春輝はパチクリと目を瞬かせている。


「珍しいね、伊織ちゃんからそんなこと言い出すなんて」


 次いで、クスリと笑った。


「や、やっぱり駄目でしたか……!?」


 居候の身で何を図々しいことをと思われたかと、伊織は顔を青くする。


「や、逆だよ逆。伊織ちゃんから言い出してくれて嬉しいなって。普段から、もっと遠慮なく色々言ってくれていいんだからね?」


 言葉通り春輝の表情は嬉しげなもので、伊織は再びホッと胸をなでおろした。


 と同時に、自省する。


(居候の身で……なんて、春輝さんがそんなこと思うわけないじゃない!)


 一瞬でもそんなことを考えてしまった自分を叱りつけたい気分だった。


 だが、今は後回し。


「日曜ね、もちろんいいよ」

「ありがとうございますっ!」


 まずは第一段階・・・・のクリアに、心の中でガッツポーズ。


 だが、まだ油断は出来ない。


「そういや、最近あんまり皆で出掛けたりしてないもんな。どこに……」

「ち、違うんです!」


 ほら来た、第二段階・・・・


 伊織とて、春輝とは既に浅い付き合いではない。

 こう言い出すことなど、予想済みだ。


「そうじゃなくて……」


 言う言葉は、最初から決めていた。

 だが、それを実際に口にするのは非道く躊躇われる。


 なにせこれは、妹たちを裏切る行為・・・・・・・・・なのだから。


 それでも。


(負けないって、決めたから……!)


 自身を奮い立たせる。


「そうじゃなくて?」


 いつまでも続きを言わない伊織に、春輝は疑問符を浮かべていた。


「すぅ……はぁ……」


 伊織は顔を俯けて、もう一度深呼吸。


「私と、二人でお出掛けしてほしんですっ!」


 顔を上げると同時、今度もちゃんと言うことが出来た。


 叫びに近い声量だったこともあってか、春輝は少し驚いている様子だ。


「あぁ、もちろんいいよ」


 けれど、すぐに微笑んで頷いてくれた。


「ホントですかっ!?」

「ははっ、こんなことで嘘言ってどうするのさ」

「あ、ありがとうございますっ!」

「お礼を言われるようなことでもないって」


 春輝と二人、微笑み合う。


 伊織は、天にも登りそうな気持ちで……同時に、罪悪感で胸が張り裂けそうだった。


   ◆   ◆   ◆



「……というわけなの」


 を告白し終えて、伊織は首を差し出すかのように頭を垂れる。


 妹たちからの、どんな罵詈雑言をも受け入れる覚悟だった。


「へぇー? 話がそれで終わりなんだったら、ウチらもう帰っていい?」

「一から十まで予想通り過ぎて、完全に無駄な時間だった」


 にも拘らず、露華と白亜は怒りどころか興味さえも抱いていない様子で。


「……へ?」


 予想外の反応に、伊織は目をパチクリと瞬かせるのだった。

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