SS2 露華とのJINSEI

「春輝クン、ウチ結婚するわ」

「ん、そっか。ほんじゃこれ、ご祝儀な。ちなみに俺は出世した」


 露華の報告に、春輝は札束を差し出す。


「あ、今度は男の子が産まれる」

「ほい、ご祝儀。ちなみに俺は出世した」


「おっと、女の子も産まれた」

「ご祝儀。ちなみに俺は出世した」


 なんて、会話を交わしながら。


「また一人産まれたー」

「……君は、俺にご祝儀を払わせるようルーレットを操作でもしてるのか?」

「あっはー、んなわけないじゃん」


 春輝と露華は、アナログのボードゲームに興じていた。


「んで、今回春輝クンが止まったコマは?」

「……出世した」

「ぶはっ、さっきからめっちゃ仕事人間じゃん!」


 ケラケラと笑う露華。


「春輝クンこそ、リアルを投影しながらプレイングしてんじゃないのー?」

「まぁ、現実では別にそんな出世もしてないけどな……」

「あっ……なんか、ごめん……」

「おい、マジな感じで謝るのはやめて差し上げろ。なんかホントに虚しくなってくるだろ」

「ジョーダン、ジョーダンヨー! ウチ、春輝クン出世キット出来ル信ジテルヨー! 沢山奢ッテヨー、シャッチョーサン!」

「その感じも一部の方を虚しくさせるのでやめてあげなさい」


 怪しい口調を嗜める。


「いやー、にしてもアレだね」


 そんな折、ふと露華が表情を改めた。


「こういうボードゲームって、二人でやってもあんま面白くないよね」

「今更それ言う……?」


 既に小一時間ほどガッツリ遊んだ上で、真顔でのこの発言である。

 もっとも、口に出さなかっただけで春輝も概ね同感ではあるのだが。


「せっかくだし、ウチはもっとリアルに人生なゲームしたいなー」

「何が『せっかく』なんだ……」


 ちなみに「暇ー、春輝クン構ってー」などと露華が絡んできてからのこの流れである。


「と、いうわけでー」


 ニンマリと笑う露華には、嫌な予感しかしなかった。


「春輝クン、子供は何人くらい欲しいですかー?」


 マイクを持つジェスチャーをしながら、露華が春輝の口元へと手を近づけてくる。


「……特に、考えたことはないな」

「ちなみに回答無しの場合は、デフォルトで設定されている『野球チームを作れるくらい』となります」


 露華が急に事務的な口調と表情になった。


「なぜ俺へのインタビューなのにデフォルト回答が設定されてる上に、その内容なんだ……」

「でも、男の人って野球チーム作れるくらい子供を作るのが夢なんでしょ?」


 再び、露華の表情が砕けたものとなる。


「どこ情報だよそれ……中にはそういう人もいるだろうけど、大半はそんなことないだろ……」

「だってそんなに子供を作るってことっては、それだけ奥さんと……あっ」


 途中で言葉を切って、露華は少し赤くなった顔を逸らした。


「やだ、春輝クン……ウチに何を言わそうとしてるの……?」

「俺は今、冤罪が出来上がる瞬間をこの目で目撃したようだ」


 一方の春輝が浮かべるのは半笑いである。


「………………」

「………………」


 その後、少し沈黙が挟まって。


「えっ、あれ、ちょっと待って……? 露華ちゃん、それまさかマジ照れな感じなの?」


 未だにモジモジとしている露華に、疑問の声を上げる。


「もう、当たり前っしょ! 春輝クン、ちょっとデリカシーが足りないよ!」

「うっそだろ、今の俺が配慮しないといけない案件だったの?」

「ウチの恥ずかしいところ全部見たからって、何でも言っていいわけじゃないんだからねっ!」

「この上更に冤罪を重ねてくるなよ」

「あっ、ごめん確かに……お互いに恥ずかしいところを全部見せ合った……が、正解だよ……ね……」

「この場面だけ見られたらマジで誤解されるからやめてくれる!?」

「はいっ、先に叫んだから春輝クンの負けー!」

「いつの間にそういうゲームになってたっ!?」


 恥ずかしそうに目を伏せていた露華が急にドヤ顔で指差してきたため、春輝は再び声を荒げることとなった。


(ったく……相変わらずこの子は、どこからどこまでが本気なのかイマイチ見えないな……)


 内心で両手を上げながら、微苦笑を浮かべる。


 と、そんな時であった。


 カシャン! と、金属が床に落ちたような音が聞こえてきたのは。


「そんな……春輝さん……露華……」


 そちらに目を向けると、口元を手で押さえる伊織の姿が。


「お互いに恥ずかしいところを全部見せ合ったって、二人がそんな関係だったなんて……」


 元々どういう用事だったのか、その足元にはお玉が一つだけ転がっている。


「あれっ!? もしかして、綺麗に『この場面だけ見られての誤解』が生じてる!? いや、ていうか伊織ちゃん、その後の流れは!? その時点でいたんなら聞いてたはずだろ!?」

「あっ、ダメだこれ! お姉、フリーズしちゃって外界の情報がシャットアウトされてたパターンだ!」

「人間ってそんな完全にフリーズするもんなの!?」


 なおこの後、誤解を解くのに小一時間程を要した。


 結果的に、露華の暇も十二分に潰れたらしい。






―――――――――――――――――――――

1巻の店舗購入特典公開、第2弾。

今回は、とらのあな様特典です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る