第26話 謝罪と宿題と

 露華と白亜が会社に襲来……もとい、お弁当を届けてくれた日の夜。

 春輝がリビングに顔を出すと。


「いやぁはっはぁ、今日のあの流れは正直予想外だったよねー」

「迷惑かけて、ごめんなさい」


 軽い調子で笑う露華と共に、白亜がペコリと頭を下げて謝罪してきた。


「まぁ、結局誤魔化せたんでいいけど……弁当持ってきてくれたのはありがたかったし」


 春輝も、苦笑気味にそれを受け入れる。


「お姉が上手く誤魔化すと思ったんだけどねぇ。まさかあんなテンパるとはさぁ」

「あの子は、普段から割とあんなだけどな……」

「そなの? へぇ、お姉って会社じゃそんななんだ」

「むしろ家じゃ違うのか?」

「まぁ確かに、春輝クン関連では家でもちょいちょいあんな感じにはなってるけどさ。基本はしっかりしてるってこと、春輝クンも知ってるっしょ」

「そういえば、そう……か?」


 同居を始めてからの日々を思い出しながら、首を傾げる春輝。

 テンパる姿が印象強く残りすぎていたが、そういえば家では割とまともなことが多いような気がしてきた。

 もっともそれを言えば、会社でも大部分の時間はまともではあるのだが。


「お姉は、ウチらの前じゃ『お姉』になっちゃうからねぇ」


 と、露華は苦笑を浮かべた。


「ある意味、会社ってお姉にとってありのままの自分でいられるとこなのかも」


 それを、いつものイタズラっぽいものに変える。


「春輝クンもいるし、ね?」

「俺は関係ないだろ……」


 意味がわからずそう答えると、今度は露華の表情が呆れ気味のものとなった。


「春輝クンさ、鈍いって言われない?」

「不本意ながら、言われることは多いな。自分ではむしろ鋭い方だと思うんだけど……レビューでの指摘とかエラー解決とか、チーム内じゃ俺が一番多いしさ」

「ここでそんなこと言っちゃうとこが、まさに鈍さを端的に表してんだよねぇ……」


 再び露華の顔に浮かぶ苦笑。


「つーかこれ、何の話?」

「さて、何の話だろね? そこも含めて、宿題ってことで。女心の、ね」


 挑発的な露華の笑みに、春輝の疑問はますます深まった。


「ほんじゃウチ、先お風呂に入ってきまー」


 答えを言うつもりもないらしく、露華はひらひらと手を振って去っていく。


「春輝クン、覗いちゃダメだよ?」


 かと思えば、振り返ってニマッと笑ってきた。


「覗いたことなんてないだろ……覗かれたことはあっても……」

「あ、ははっ! 覗いたとは失礼な! 大事なとこは見えなかったからセーフっしょ!」


 春輝の返しに、少し露華の顔が赤くなる。

 どうやら例の件については、未だに多少引きずっているらしい。


「まったく、とんだ濡れ衣だよ春輝クン」

「びっちょびちょの濡れ衣を着せられたのはこっちの方なんだが」

「やだ、春輝クン……びちょびちょとか、いやらしい……」

「おっ、日本語が通じないタイプの女子高生かな?」

「通じ……通じ……お通じ? やだ、いやらしい……」

「ちょっと今日はネタのキレが悪すぎないか?」

「もう、春輝クンが例の話を蒸し返すからっしょ……!」


 結局赤い顔のまま、露華は逃げるようにリビングを出ていく。


「自分から振ってきておいて……」


 その背を見送って、春輝は半笑いを浮かべた。

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