夕紅とレモン味ー滅び行く人々達のとある物語ー

大月クマ

第1話 日常業務

 俺達はいつも背中合わせの関係だった。


「アタシさあ。お金貯めて――

 バババババババババっ!

 ――したいと思っているのよ」


「えっ、何だって!?」


 背中で彼女が叫んでいたようだが、サブマシンガンの唸り声がみんなかき消してしまった。


「……だからさ――

 ズドーンっ!

 ――したいって言ってるの!」


 今度は俺の放ったグレネードランチャーが、敵のど真ん中で炸裂したらしい。


「話している余裕があるのか!」

「予備の弾倉マガジンがなくなりそう……ちょっと、分けなよ!」

「マガジン1つにつき、一回――グッフッ!」

「ひとりで、その小型拳銃デリンジャー頑張○コってろッ!」


 こんな時に後頭部を殴りつけるなんて、自殺でもしたいのか?

 俺が戦闘不可能になれば、この戦闘で生き残れないはずだ。

 強がっていてこんな『G』どもの群れにひとりで勝てるはずがない。


 それでは仕事は失敗、金を貯めるとか言う前に、自分の身体が一編でも残っているか心配したらどうだ!


 左右、前後から這いずり襲いかかるのは、4、50センチはあるかと思えるコーヒー色の昆虫……通称『G』だ。

 こんなのを対決した後は、高級天然であろうがコーヒーなんて数日は見たくはない。ましては口にしたくはない――この女は平気で口にしているが、どうかしている。

 あのギラつく外骨格と6本の脚、鞭のような触角。撃ち抜かれて飛び散る体液……説明しているだけでも気持ち悪い。

 今回の『G』タイプは重たすぎて、飛行能力が無いのが救いだ――雄だけ飛行能力があるそうだが、知ったことちゃない!

 しかも、ふたりで商品を積んだトラックを守りながらなど、対応するのは辛い。

 弾薬も心許ない。応援は呼んであるが、いつ到着するか……。


「ボーッとしている場合じゃないわよ!」

「お前が殴ったんだろ!」

「木偶の坊が何言っているッ!」


 バババババババババっ!

 ズドーンっ! ズドーンっ!


 数が多すぎる。

 今回の仕事はA地点からB地点へ荷物を運ぶのを、護衛する簡単な仕事。

 口だけで言えば簡単だが、その道のりは……危険だから、俺達みたいな用心棒が必要なのだ。

 そして、待ち伏せに遭った……いや、近くに『G』の巣があった!

 このルートは安全です、と言った情報屋の馬鹿野郎!


 そもそも『G』何かと対決などせず、全速力でぶっ飛ばせば良かったのだ。だが、下手くその運転手が、瓦礫の上に乗り上げて燃料タンクに大穴を開けてしまった。

 燃料が無ければ、ただの鉄の塊だ。

 すでに荷物の現場責任者は「命あっての物種」と、荷物を置き去りに逃走したが……数十メートル先で、解体採取されている。運転手も同様に……。

 ご愁傷様――。


 ズドーンっ!

 バババババババババっ!

 ズドーンっ!


 ふたりともすでにいつもの得物武器お気に入りの弾薬はそこをついた。

 俺がショットガン。彼女がハンドバルカン。後はサブで使っている小銃とサブマシンガンに切り換えた。だが、倒しても倒してもそれは沸いてくる。


「ホント『G』は嫌いだ!」

「アタシも大っ嫌いだ!!」


 用心棒として荷物は守らなければならない。だが、逃げることも出来ず、ただ弾薬を消耗しているだけ……。

 ふと気が付くと、彼女の軽快なマシンガン音が止まった。


「畜生ッ!」


 背中に付けている鉄の槍――多分、車の板バネを叩いて造った粗悪品――を取り出すと、トラックの荷台から近づく『G』を刺し殺す。だが、一匹刺したところで刃が抜けないようだ。


「この虫けらが!?」


 もう最後の腰の拳銃――武器の種類では最後の、それでも6つほどぶら下げているが――を取り出し、抜けない槍の刃に目がけてぶっ放した。『G』の外殻を吹き飛ばし、ようやく刃が外れる。

 最初から拳銃を使えば、と思ったがそれの弾丸が高いから、使うのを嫌がったか……。


「関節を狙わないと、刃が持ってかれるぞ!」

「五月蠅い! もっと早く言え!!」

「マガジン1つにつき、今晩のお供1回」

「判ったよ! 生きていたら、考えて――」


 俺はあまっていたマガジンを数個放り投げた。

 受け取る彼女の顔を来たら……今晩が楽しみだ!


 バババババババババっ!

 ガガガガガガガガガっ!


 再び、警戒に鳴りだした彼女のマシンガン。だが、その中に別のものが混じってくる。


「ようやく応援に来たか!」


 応援を呼んでいた街の警備隊の装甲車が履帯を軋ませながら現れた。

 勿論、有料だが命には代えられない。商品も俺や彼女の命も……。

 榴弾砲よりも車体に添え付けられたバルカン砲が吠え、『G』の群れを一時的に一掃してくれた。

 装甲車が動かなくなった俺たちのトラックに横付けされる。と、上半身を砲塔から出していた車長が声をかけてくる。


「トラックは動かないのか?」

「燃料タンクをやられた」

「牽引するしかないか」

「頼む!」


 すぐに駆けつけた装甲車の後方のフックを、トラックの正面の牽引ポイントにかけた。

 もたもたしていたら、折角一掃した『G』が舞い戻ってくる。


「どっ、どういうことだ?」

「無線で応援を呼んでいただけだが?」


 俺の言葉に彼女はキョトンとしながら手にした未使用のマガジンを見ると……すぐに突っ返そうとしてくる。


返品クーリングオフは対応していない」


 装甲車はトラックを引きずるように進む。

 気が付くと、トラックがあった場所には燃料タンクから漏れ出したガソリンがこぼれていた。

 それに彼女は目を付けたらしい……また『G』が集まってきていた。

 よく見れば、それを舐め取っているものもいる。


「畜生ッ!」


 彼女は、俺が騙したとでも思っているのか?

 怒りをぶつけるかのように、荷台に転がっていた不発の手榴弾をそれに向かって投げつけた。

 と、どうだ。


 ズドーンっ!


 今度は爆発したじゃないか!? 集まっていた『G』達を巻き込んで、ガソリンが大爆発を起こしている。

 不発弾と思っていたが、粗悪品だったようだ。


 足下で爆発しなくて良かった……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る