捜索願

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第1部 ~Nostalgic Fantasy~

- works.01 消えた贈り物 -

その1~3

- works.01 消えた贈り物 -


その1~3を掲載しています。




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《はじめに》


 はじめまして。


 テーブル・トークも今ではそれほど珍しい遊びではなくなり、廉価版のルールも書店に並ぶようになりました。それに伴って、このゲームに触れた方も多いのではないでしょうか。テーブル・トークで遊んだことのある人は、次の二つのタイプに分かれると思います。その楽しさにすっかり魅了されて、毎週のようにプレイしている人と、今一つ楽しめないでそれっきり、という人です。


 テーブル・トークの難しさは、まずメンバーを集めること、そしてその次の問題は、参加者全員が、楽しめるスタイルを確立することだと思います。僕たちも1989年からテーブル・トークを続けてきて、ようやく全員が積極的に楽しめるようになったと感じています。

 本リプレイは、テーブル・トークを楽しんでいる方々には、こんなプレイもあるよ、という気軽な紹介、テーブル・トークから遠ざかってしまった方には、楽しみを分かってもらいたい、そんな趣旨から作られたものです。

 もちろんテーブル・トークを全く知らない方にも脚本形式の物語として読んでいただければ幸いと考えています。


 使用しているルールはソードワールドの判定方法だけを用いた、オリジナル・ルールです。登場するスキル、魔法、そしてダメージの算出方法も全く異なっていますので、多少戸惑う方もいらっしゃるかも知れませんが、それでも充分に物語の本質は

つかんでいただけると思います。

 あと補足説明ですが、GM、プレイヤーの台詞の中で「」のついているものがノンプレイヤーキャラクター、プレイヤーキャラクターの、「」のついていないものがGM、プレイヤーの会話となっています。


 それではあまり前置きが長くなるのもなんですので。

 僕が誇りに思う4人のプレイヤー演じる冒険者たちの物語をお楽しみ下さい。


《先ずはメンバーの顔合せ》


GM:   え~、今日はみんな珍しく遅刻なしで集まってくれたねぇ。

PL A:   そりゃあ、新しいキャンペーンが始まるって聞けば、

      遅刻なんかできないでしょう。

PL B:   確かに。しかも、専用のルールブックまで作ってもらっちゃあ。

PL C:   ずいぶん時間がかかったでしょ?

GM:   まあねぇ。仕事が終ってから会社のワープロを拝借してたけど。(笑)

PL C:   大変だったんだ。

PL B:   おいおい、D。ずいぶんおとなしいな。

PL A:   こいつ、女の子が一緒だから照れてるんだよ。

PL D:   だって、ひとっ言も聞いてないですよ

      こんなお姉さんが来るなんて。

PL C:   お姉さんって、私?

GM:   そっか、Dは会うの初めてだっけ?

PL D:   お噂はかねがね。

PL C:   どーゆう噂?(GMをにらみつけています)

GM:   いや……はは。じゃ、テープも回ってることだし。

      各人、自己紹介してもらおっか。

PL A:   GM苦しい!

GM:   はははは、頼むよ。先ずはA君から。

PL A:   え? 何言うの?

GM:   歳とか、職業とか、スリーサイズとか。

PL B:   おいおい。

PL A:   え~、年齢は22歳。信用金庫勤務予定。

      スリーサイズは……。

PL D:   それはいいですって。(笑)

PL A:   じゃ、あと何だ。そうだ、テーブルトークを始めて3年目。

      趣味は旅行に刀。

PL C:   いっつも不思議なんだけど、刀って何が面白いの?

PL A:   それはね、言葉じゃ説明しにくいんだけど、先ずは輝き、それと。

GM:   ストップ。話しがぜんぜん進まなくなっちゃうよ。次、Bさん。

PL B:   吾輩か。22歳。電気工。以上。

GM:   簡単だなぁ。次はC。

PL C:   Cです。22歳。独身です。

PL A:   みんなそうだってば。

GM:   いいから言わせとこう。

PL D:   彼氏とか、いないんですか?

PL C:   D君みたいにかわいい男の子が回りにいないのよ。

PL B:   ほ~。

GM:   いいから言わせとこう。(笑)

PL C:   仕事はフツーのOL。趣味はお菓子作りと、読書。

      テーブルトークにも最近はまっちゃってるね。某GMちゃんのせいで。

GM:   某をつけてる意味がないよ。

      それと、そろそろ、GMちゃんってあだ名やめにしない?

PL C:   じゃ、さんづけで呼んでほしい?

PL B:   GMさん?(笑)

GM:   いや、ちゃんで結構。お次はD。

PL D:   Dです。18歳。仕事は大工さん。趣味はスーファミに、読書。

      読書は読書でも漫画ですけど。Aさんに会って、このメンバーに

      加えてもらって、ほんと、ラッキーでした。

PL C:   今に後悔するわよ。(笑)

GM:   年下の男の子をいじめないように。で、自己紹介はおしまいだね。

PL A:   まだ、GMちゃんが残ってる。

GM:   俺? そっか。じゃ、簡単に。

      大学在籍中のA君にテーブルトークに引きづり込まれ、

      人生を狂わされた哀れな22歳の男。(笑)

PL B:   面白けりゃいいじゃないか。

PL C:   エアブラシの仕事にテーブルトーク。充実してるじゃない。

GM:   う~ん。そうかな……。

PL C:   悩んだって仕方ないでしょ!

GM:   だね。よし、じゃ始めよう。

      先日作ってもらったキャラクター・シートを用意してくれるかな。


《キャラクターになり切っちゃえ》


GM:   次は各人の演じるキャラクターの紹介をしてもらおう。

      ゲーム中はみんな、キャラクター名で呼ぼうね。

      俺のことはGMと呼ぶように。

PL B:   OK、GMちゃん。(笑)

GM:   わざと言ってるだろ?

PL B:   だって、まだ始まってないだろ?

GM:   負けました。じゃ、ヤシュト君。

PL A:   ヤシュトは19歳の男。南トゥム出身。スキルはロードとセージ。

      冒険者と言うよりも、剣士を目指してる。でも、今のところは灯台守。

      両親はすでに天国の人。

GM:   家族にかわいい弟と、妹だね。

PL C:   弟?

PL B:   妹?

PL A:   GMの陰謀だ~。

GM:   ま、どんな弟妹かはあとのお楽しみ。はい、ジェスタル。

PL B:   ジェスタル・ダーク。18歳。

PL D:   あれ、どうして名字があるんです?

PL B:   オンディナ出身なんだよ。

      両親の都合で叔父さん夫婦にあずけられてるんだ。

      小さいときから南トゥムにいるから、両親の顔は知らない。

      精霊使いだよ。

PL C:   都合って?

GM:   それはあとのお楽しみ。はい、ケイさん。

PL C:   そればっかし~。ぜったい暴いてやるから。

      私はケイ・ハン・ショウ。名門ショウ侯爵家の令嬢よ。

PL D:   貴族! いいなぁ。

GM:   いいから。最後まで聞こう。

PL C:   でも、優雅な暮らしも父さんの代まで。

      父さんの考古学趣味が高じて、お屋敷も荘園も手放して

      王都メイラレンを後にしたの、しくしく。(一同爆笑)

PL B:   どーゆう親父だ。

PL C:   スキル的には古代魔法とセージを取りました。はい、D君。

PL D:   僕はですねぇ、ラルク・アンシェル。17歳。アガルタの神父です。

GM:   メイラレンで名字は名乗れないって。

PL D:   分かってますって。

      国で認められるか、貴族以外は名字を名乗れないんでしょ?

      いつか、立派な司祭になって名字を名乗れるようになってみせます!

      もちろん南トゥム出身でとーぜん男です。

GM:   うん。やっぱり男は男、女は女をやった方が自然でいいよ。

PL B:   だってよ。

PL C:   だから、女の子だってば!(笑)

GM:   以上の4人がメインパーティメンバーだ。みんな幼なじみでいいよ。

      だから、難しい出会いのシーンはなし。

PL A:   俺たちもその方がやりやすい。

GM:   それでは、Nostalgic Fantasy(望郷幻想) 第1話始めるよ。

PL A:   ひゅーひゅー。

PL C:   ぱちぱち。

一同:    だんだん、ぴー。(みんな机を叩いてはしゃいでいます。

      かなりハイな状態……だいじょうぶかなぁ?)


《Works.01 消えた贈り物》


~その1 始まりはお掃除から~


GM:   それでは、始めよう。

      この大陸の暦、タリア暦(以後TC)1142年6月8日からスタートだ。

      4人が住んでる南トゥムは人口200人と少しの小さな村。

      季節は初夏。止鏡湾からの西南風で涼しいけど、

      内陸ではそろそろ砂嵐の季節だね。

ケイ:   ここ、南トゥムではオレンジや、ライムが色づく季節ね。

GM:   その通り。いつもリアルなフォローをありがとう。

ヤシュト: で? 俺たちは何をしてるんだろう?

GM:   男性諸君は、ケイさんのたっての頼みで、ロン・デイ・ショウ侯爵の

      書斎兼資料室のお掃除をしている。

ケイ:   私のお父さんね。

ヤシュト: いきなりだな。

GM:   「あ、ジェスタル君。その鎧はやさしくな。止め金が錆びているから」

ジェスタル:いきなりだね。

      「はいはい、わかってま……ボキ」(笑)

ケイ:   「ほら。ぼけっとしないで。あんたたちも手を動かしなさいよ!」

ラルク:  ケ、ケイさんってそういう性格なんですか?

ヤシュト: ほんとはもっと、怖いって。

ケイ:   「あら、ごめ~ん、ヤシュト。羊皮紙の束が倒れちゃったわ」

      (近くにあった雑誌を丸めて叩いています)

ヤシュト: 「わかった、ちゃんとやるって」

ジェスタル:ところでGMちゃん、いや、GM。

GM:   なんだい、Bさん、いやジェスタル?(笑)

ジェスタル:このロンさんの書斎って、どんな感じなの?

GM:   「何? ジェスタル君。

       君は小さい時からよく、この書斎に遊びに来ていたのに、

       どんなものがあるのかも知らないのかね?」

ジェスタル:「うわ、ロ、ロンさん? ごめんなさい」(笑)

      ロンさんに聞いたんじゃないよ、GMに聞いたんだよ。

GM:   分かっててやりました。

      ロンは元々メイラレンの貴族だってのは知ってるね。

      24歳で家主になった彼は、屋敷の整理をしている最中にある古文書を

      発見したんだ。

      それも、今は水中に没しているケルト王国に関する古文書をね。

ケイ:   ははぁ。それでケルト王国について調べるうちに、どんどん財産が

      なくなっていったのね。

ヤシュト: 自分の親父だろ?

ケイ:   細かい設定は、GMにお願いしてたんだもん。

ジェスタル:だから、そこら中に羊皮紙の束とか、鎧なんかあるんだな。

GM:   その通り。

ラルク:  「何か金目の物はないかな~と」

ヤシュト: 「おい、アガルタの司祭が何を探してる!」

ラルク:  「が、学術的興味ってヤツですよ」

ケイ:   「ヤシュト、ラルク! そこの羊皮紙の染み抜きをして!」

ヤシュト: 「へいへ~い」

      染み抜き、シミヌキっと……。

      GM、そこら辺の羊皮紙を読みたいんだけど、いいかな?

GM:   ヤシュト君が古代文字を読めればね。

ヤシュト: 読めましぇん。

ケイ:   私は読めるけど。

ヤシュト: しゃくだから聞かない。(笑)

ジェスタル:「ロンさん。この書物、なんて書いてあるんですか?」

ラルク:  賢い!

ヤシュト: その手があったか!

GM:   「ああ、それかい。”五賢帝とケルト王国”についてだ。

       今の暦が始まったのがケルト島が沈んだ時からだってのは

       知ってるだろう?」

ジェスタル:「え? も、もちろんですよ」

GM:   「その時の大陸の情勢と、ケルトの王リヴァについて書いたものさ」

ジェスタル:「難しそうだから、もういいです」(笑)

ヤシュト: お~い。ちゃんと情報収集してくれよ~。

      このGMのことだから、後々の伏線に違いないんだからさ。

ケイ:   うん。それは充分にありえる。

GM:   そんなに最初から張り切らないで。第1話なんだから気楽にやってよ。

ヤシュト: その手口に何度はめられたことか。

ケイ:   ねぇ。

GM:   「うん。だいぶ綺麗になった。みんなご苦労さん。

       ケイ。これで食事でもしてきなさい。せめてものお礼がわりだ」

ジェスタル:「いやはや。遠慮なくいただきます」(笑)

ケイ:   「いいの? お父さん。家は苦しいのに」

      で、いくらくれたの?(笑)

GM:   50Goldだよ。

ケイ:   けち。(一同爆笑)

ヤシュト: おいおい、言ってることが分裂状態だぞ。

ケイ:   けちって言ったのはプレイヤーよ。

      キャラクターは家計を心配してるんだから。

      でも、うちって、どうやって生活してるんだろ?

ラルク:  やっぱ、財産を切り売りしてるんじゃないですか?

ヤシュト: お母さんはいるのか?

ケイ:   うん、いるはずだけど。ね?

GM:   もちろん。果樹園で働いてるよ。噂をすればなんとやら。

      ケイのお母さんが上がってきたよ。

      「まぁ、みんな来てたの」

ラルク:  「おじゃましてま~す」

ケイ:   「なに? お母さん」

GM:   「オレンジが余分にもらえたから、ミリアに届けてらっしゃい。

       これで少しでも元気になってもらわなきゃ」

ヤシュト: 美少女系の名前だな。

ケイ:   ミリアって誰? 知力チェックを振る?

GM:   振る必要はないよ。ミリアは村長の一人娘で17歳。みんな知ってるよ。

      なぜか2~3年前に歩けなくなって、それ以来病気がちの女の子だ。

ヤシュト: その原因は?

GM:   それが全くわからない。

ラルク:  エレミヤ神父でも?

GM:   うん。ラルクのお師匠さんにも、わからない。

ヤシュト: ふ~む。

ジェスタル:「それよりさ、早く酒場で一杯やろう」(笑)

ケイ:   「はいはい」


~その2 即席冒険者~


GM:   それでは、4人は村の唯一の酒場”ウミガメ”にやってきた。

      まだ、お昼前だよ。店内はガランとしている。

      主人のハーレだけが、暇そうにジャガイモをむいてるね。

ラルク:  「暇そうですね」

GM:   「おう、金にならないお前らか」

ジェスタル:「ケイ、見せてやれ」(笑)

ケイ:   「なに威張ってるんだか……。ハーレさん、これでみんなに

       お昼ご飯作って」(Goldを置く仕草をしています)

GM:   「わかった。

       ネジの奴がスズキを持ってきてくれたから、

       そいつを塩焼きにするか」

ケイ:   私はチーズケーキがいいなぁ。

ジェスタル:チーズケーキ? 昼飯に?

GM:   俺が昨日買っておいたTOPSのチーズケーキの事を言ってるんだよ。

      どうぞ、冷蔵庫から持ってきて食べてください。

ケイ:   「ハーレさん、紅茶もいい?」

GM:   好きなだけどうぞ。

      (ケイ役のプレイヤーは勝手に冷蔵庫からケーキを出しています)

      ジェスタルは何やってるの?

ジェスタル:エール樽から、勝手にやってます。

      「ハーレさん、いただくよ~」

GM:   「しょうがねぇな、飲み過ぎんなよ!」

ジェスタル:「ヤシュト、ラルク、お前らもどうだ?」

ヤシュト: 「俺は飲まん。昼間っから動きが鈍る」

ラルク:  「私も、神に仕える身ですので」

ジェスタル:「ちぇっ、面白くないやつら」

ラルク:  「でも神も、一杯くらい分からないでしょう」(笑)

ヤシュト: 「ほんとにこいつ、司祭か?」(笑)

GM:   一応スキルは持ってるみたいだね(笑)

      4人の食事の支度ができた頃、酒場に髭面のオヤジを先頭に、

  いかにも船乗りっぽい連中がどやどやと入ってきたよ。

ヤシュト: そっちの方を見よう。

      「南トゥムに船乗りが?」

      と思いながら。

ラルク:  何人ぐらいです?

GM:   髭の男をあわせて7人だ。

ジェスタル:南トゥムって、船がよく来るっけ?

GM:   いや、滅多にこない。王都のメイラレンと、北トゥムでは貿易が盛んだ

      けどね。

ヤシュト: 妙だな。何か聞いてない? 村の噂話とか。

GM:   そういう時はダイスを振ろう。

ヤシュト: だめ、6。

ラルク:  私もです。

ジェスタル:じゅういち~!(勝ち誇ったように)

ケイ:   (ケーキを頬張っているので、無言でダイスを指さしています。

       出目はスキルとの合計で13)

GM:   OK。10以上の人は知ってる。今朝はひどい靄が出てね。

      それでガダメスの商船が南トゥムの近くの海岸で座礁したらしい。

      たぶん、その船の乗組員だろうね。

ヤシュト: じゃあ、みんなカリカリしてるんじゃないか?

GM:   うん、そうだね。みんな大声でエールを注文してる。座礁した船の

      後始末で忙しかったんだろう。チュニックは汗まみれだ。

ケイ:   「ほら、例の座礁した船の連中よ、きっと」

      (ようやく飲み込みました)

ヤシュト: 「座礁した船なんてあったのか?」

ジェスタル:「灯台守だろう、お前は!」

ヤシュト: ダイスが知らないと言ってるんだ!(笑)

      とにかく、ハーレさんとのやり取りを聞いていよう。

GM:   どうやら、髭の男とハーレは知り合いらしい。

      ハーレは彼のことをザニアと呼んでるよ。

      話しの内容は、積荷は全部下ろしたのとか、

      迎えの船がいつ来るかとか。

      でも、ザニアには他にも心配事があるらしく、

      眉をしかめながらエールをちびちびやってるよ。

ラルク:  困っている人をほっとけませんね。

      「何か困ったことでも?」

      と、いいながらザニアさんに近付きます。

GM:   「あぁ? 司祭さんかい。

       いや、神様の力に頼るようなことじゃないんでね」

      と、ザニアはそっけない返事だよ。

ヤシュト: よく司祭だって分かったな。

ラルク:  ラルクは純白の司祭服を来てるんですよ。

      ほら、キャラクター・シートにも描いてあるでしょ。

ジェスタル:ザニアさんには見事にあしらわれてるようだけど。

GM:   やっぱり、若年の司祭さん相手じゃね。

      ザニアはラルクを無視して、ハーレと話しを続けようとしてる。

      でも、そこはハーレさんが助け舟を出してくれるね。

      「ザニア。この南トゥムにはギルドはない。

       だがよ、若いからって馬鹿にできないできない連中がいるんだ。

       例の件、話してみたらどうだ?」

ケイ:   例の件?

ヤシュト: 俺もザニアさんの所に行こう。

      「確かに俺たちは若いけど、この辺りの事ならあなたよりも詳しい。

       よかったら話しだけでも聞かせてくれませんかね。

       力になれるかも知れない」

GM:   ザニアはヤシュトの毅然とした態度に、真顔になると君達を自室に

      案内するよ。

      この”ウミガメ”は2階が宿屋になってるんだ。その一室だね。

ケイ:   なんだか、面白くなりそ。

ジェスタル:やっと冒険者らしくなってきたな。

ヤシュト: 仕事にありつければな。(笑)


~その3 カットバレーの麗人~


GM:   室内はビジネスホテルの中世版って感じの、こじんまりした一室だ。

      窓からは清々しい風がそよいでくる。

      だけど、そんな気持ちよさとは裏腹にザニアの表情は曇ってるね。

      「今朝方、私たちの商船が座礁したのは知ってますよね」

ヤシュト: 「もちろん」(笑)

GM:   「私たちの船”リーフ・グリーン号”は北トゥムに向かう途中でした」

ジェスタル:(地図を身ながら)

      「北トゥム? アイアン・ロックを挟んで北側の?」

ケイ:   「ずいぶん離れてるわね」

GM:   「ええ。本来ならガダメスから北トゥムまでの航路で、座礁するような

       海域は全くと言っていいほどないんです」

      と、ここまで言って、ザニアはこの先を話していいかどうか迷っている

      ようで、額の前で両手を合わせて考え込んでいる。

ヤシュト: なんで南トゥムの岸で座礁するんだぁ~?

ジェスタル:なあ。

ラルク:  じゃあ、司祭らしく親身になって聞きます。

      「何でも話して下さい。

       私たちは若い分、むやみに人の話を疑ったりはしません」と。

ヤシュト: おおっ。司祭してるなぁ。

GM:   ラルクの言葉に勇気づけられたように、ザニアは再び口を開いたね。

      「座礁した原因は、船乗りが眠ってしまったからなんです」

ヤシュト: なんだ。職務怠慢か。

      あ、今のはプレイヤーの発言ね。

ケイ:   「それで南トゥムまで流されてしまったんですね?」

GM:   「ええ。まさか、私も含めて全員が寝込んでしまうとは……」

ラルク:  「え?」

ジェスタル:「全員?」

ケイ:   「どういうことなの?」

GM:   「信じられないことですが、アイアン・ロックが右手に見え始めた

       辺りで、全員が次々に眠ってしまったのです」

ヤシュト: 「そりゃ、座礁するわなぁ」

ジェスタル:「簡単に納得するなぁ~! 変だろうが!」

ヤシュト: これから聞くって。

      「時間は、どの位でした?」

GM:   「日没間近の夕食を交替で食べた後でした。

       かなり行程に無理があったので、船乗りたちは疲れていましたが、

       全員が寝込んでしまうなど……」

ケイ:   「船員の中に座礁を計画した者がいると?」

GM:   「それは考えにくいんです。船長のサムディは信用のおける人物です。

       乗組員は彼自身が目をかけて、家族同様接している連中です。

       私に恨みを抱いても、船長の持ち船を台無しにするようなクルーが

       いるとは思えません」

ジェスタル:「そうだよな。船がなくなったら、船乗りも仕事にあぶれるもんな」

ヤシュト: 「じゃあ、なぜ座礁したかを調べてほしいと」

GM:   「いえ。お願いしたいのはなくなった積荷を探してほしいのです」

ラルク:  「積荷?」

ケイ:   「座礁したんでしょう? 海に投げ出されたんじゃない?」

GM:   「いえ。

       その積み荷は一般の荷とは別に、私の船室に保管してあったんです。

       気付いた時にはすでに船は座礁し、その荷は棚から消えていました」

ヤシュト: 「ん~……。貴重な物なんですか?」

GM:   「ええ。これから言うことは他言してほしくないんですが……」

ラルク:  「アガルタの名にかけてお約束しましょう」

GM:   ラルク君、いいね。その調子だぞ。

      ザニアはラルクの言葉に軽く頷くと

      「その荷物とはガダメスの有力者に頼まれて、

       カットバレーに届けなくてはならないものなんです」

ケイ:   「どんな物なんですか?」

GM:   「掌に乗る程の大きさの宝石箱で、銀にビロードを被せた物です。

       正面の黄金のプレートに“ディア・ルスエラ”とレリーフが施されて

       います。中身は分かりませんが、その箱だけでも

       7000Goldは下らないでしょう」

ジェスタル:「ななせん!」

      こりゃ、見つけてネコババするしかないよ。(笑)

ヤシュト: だぁ~! 何言ってんだ!

ジェスタル:今のはプレイヤーでっす。

ケイ:   12!

GM:   へ? 何をチェックしたの?

ケイ:   ”愛しいルスエラへ”のルスエラちゃん。

ヤシュト: あ、俺も振ろっと。(みんな一斉に知力チェックを行なっています)

GM:   8以上の人は知っている。けっこう有名な人だよ。

      ルスエラと言えば”カットバレーの麗人”と評される美女だ。

      平民の出だけど、各国の有力者から求婚の引き手あまた。

      中でもオルドスの貴族の一人が求婚したのは特に知られてるね。

      でも、本人に結婚の意志はないらしい。

ケイ:   財産がなくても美貌があればいいのよね。まるで私みたい。

ヤシュト: 山田君、座布団もってけ!(一同爆笑)

ケイ:   なによ~。

ジェスタル:要するに、気を惹こうという贈り物だね。

GM:   その通り。もうみんな分かってると思うけど、そんな高価な品物は

      無くしたじゃ済まない。

      保険もないこの時代、とても弁償できないしね。

      何よりも貿易商は信用第一。次から仕事がなくなっちゃうんだ。

ケイ:   残るのは、莫大な借金よね。

ヤシュト: まるで誰かの家みたいだな。(笑)

ケイ:   うちは借金ないもん! のはず……。(笑)

ヤシュト: 「今、船はどうなってるんです?」

GM:   「この村の漁師さんたちにも手伝ってもらって、

       座礁した場所にロープで固定してあります。

       ほっとくと、沈んじまうんで。

       竜骨が折れちまってて、もう修理もできません。」

ラルク:  りゅうこつってなんです?

GM:   船底を縦に走ってる中心の材木のことだよ。

      大工さんの君なら家の大黒柱と考えてくれればいいや。

ヤシュト: 「船を調べさせてもらって構いませんか?」

GM:   「ええ、もちろんですよ。

       荷物は村の倉庫に移させてもらったし、何もありませんがね」

ケイ:   「どうしても、全員が一辺に寝ちゃったのが気になるんだけどな」

ジェスタル:「なぁ……。寝る直前はどんなでした? ザニアさん」

GM:   「う~ん。まるで上等のエールを5杯も、

       あおった後のように突然意識がなくなったんですよ」

ジェスタル:気持ちよさそうだな。(笑)

ケイ:   「船乗りさんたちにも話しを聞いて構わないのかしら?」

GM:   「必要なら。でも、あくまで私が船乗りを疑っているように取られない

       ようにしてください。あまり、連中とはうまくいってないんで」

ヤシュト: 「わっかりました。ところでザニアさん。成功した場合の報酬ですが」

GM:   ザニアはちょっと、君たちを値踏みするように見てから

      「1000でどうでしょう?」

ケイ:   ひとり?

GM:   まさか。4人でだよ。

ラルク:  この世界の通貨単位は、現代の1/100でしたよね?

      すると、10万円くらいか……一人2万5千円。

      安いのか、高いのか分かりませんね。

GM:   どんな仕事になるか分からないから、安いと思うよ。

      でも、現代の日本より物価はすごく安いし、住む家さえあれば

      1日10Goldくらいで生活できるからね。

ヤシュト: まぁ、初めての仕事だからな。そんなもんじゃないの。

ケイ:   しょうがない。4、2、2、2で手を打つか。(笑)

ジェスタル:誰が4だ、誰が。(笑)

GM:   最後にザニアさんは

      「4日後くらいに迎えの船が来るはずです。

       それまでにお願いしたいんですが」

ラルク:  「けっこう、差し迫ってますね」

ヤシュト: 「どうにかなるでしょ。じゃ、商談成立。外に出ようぜ」

      外、つうか下に降りるよ。船乗りたちはまだいるのかな。

GM:   うん。夏場の冷えたエールはうまいからね。

      みんな入って来たときの不機嫌さも嘘のように上機嫌で飲んでる。

      みんなが降りてくるとハーレが物問いたげな視線を投げてくるけど。

ケイ:   ひょい。(笑)

ジェスタル:よけるな!

ラルク:  ブイサインを送ります。

GM:   ハーレはニカっと笑顔を見せると、船乗りたちの注文にかかる。

      すると、二人の冒険者風の男、20台後半くらいかな、が、

      酒場に入ってくるなりカウンターに座ってエールを注文してるね。

ケイ:   冒険者? 南トゥムの人じゃないの?

GM:   見たこともない二人連れだよ。

      それに南トゥムに冒険者は君たち以外いない。

ヤシュト: う~ん、どんな感じのやつら?

GM:   一人はハードレザーにブロード・ソード、

      一人は薄手のマントにシャムシール。

      二人とも、疲れたような顔をしてる。

ラルク:  話しかけてみましょうか。

      「あの~、ちょっといいですか~」(笑)

ジェスタル:怪しいぞ。(笑)

ラルク:  ははは、自分で笑っちゃいましたよ。

      「見たところ、冒険者のようですが、どちらから?」

GM:   二人はそろってラルクを見上げるようにしてから、戦士風の方が黙った

      まま掌であっちへ行け、といったようなジェスチャーをするよ。

ヤシュト: む、嫌なやつら。

ケイ:   「ラルク、ラルク。行きましょ」

ジェスタル:「そうそう。ほっとこうぜ。感じわりぃよ」

GM:   するとジェスタルの方を戦士風の男がギロリと睨むけど、

      そのままエールを飲み始める。

ヤシュト: なんなんだ、こいつらは。

GM:   で、どうする?

ヤシュト: こいつらは後回し。船乗り連中もできあがっちまってるから、

      取り合えず船でも見に行く。

ジェスタル:そうだな。まだ、時間は早いでしょ?

GM:   2時過ぎくらいかな。

ヤシュト: おし。岩場へ行こう。

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