世界平和の作り方

屋本こなり

プロローグ

 薄汚れた布からにゅっと出た腕は青く、生えっぱなしの長い髪の隙間からは鋭い牙が覗き見えた。こちらを睨む目はぎょろりと大きく、どこまでも闇を映している。

 何重にも厳重な拘束をされてオークション会場の床に跪いたその化け物は人ではなかった。


「三百万」

「三百万!」


 叫ばれた金額をオークショニアが復唱する。三百万。ただの魔物につけられる金額にしては、あまりにもそれは高すぎる。


「五百万」

「五百万!」


 少しの沈黙の後、まだ若い青年が金額を吊り上げた。

 それきり周囲はざわめくばかりで、他に競り合う人間が現れることもなかった。


「本当によろしいのですね?」


 舞台上から確認の言葉が投げられる。青年は悠長に足を組み替えると、目の前のテーブルに金貨が大量に入った麻袋を置いた。


「つい先日まで我らが世界を恐怖に陥れていた魔王、五百万ヴルムで落札です!」


 オークショニアの言葉と同時に、魔王は舞台上から下げられ、新たな商品が運ばれてくる。青年は立ち上がり、競りに白熱し始めた会場を後にした。

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