第6話 大樹の魔女
◇ドームにいた頃手にした1冊の絵本。
そこに記された物語は、一国を奪われ
旅先で出逢った四人の仲間達と共に
国を取り戻す王子の物語。
王子は旅をする度心も身体も強くなり、
やがて母国へ戻り全てを奪った悪党を倒し。
王子は仲間達と国民に称えられる優しくそして強い王様となったお話。
ロウバ―の話を聞いてから木々が生い茂る森を進み続け
中心部にあった大樹の下で休む事となったが、
ノヴァの記憶の片隅に残る“王様”のイメージと、
ロウバ―から聞かされた王様のイメージが頭の中で一致せず
ノヴァの眠れずにいた。
自分の身長程の大きな葉っぱの布団に包まりながら
眠ろうと何度も目を閉じ何も考えない様にするも
初めて聞く焚火の音が眠気を遠ざけてしまう。
「なんだ?寝付けないのか?」
振り返るとロウバ―が隣に座っていた。
こくりと頷き自分を座り込みゾンビを探すと、
自分達の休んでいる大きなキノコから少し離れた場所で
必死に薪として使えそうな枝を集めていた。
「おかしいよな。あんな姿なのに。お前の身体を冷やさない為にさっきから必死で薪を集めてるんだよ。まるでお前の保護者みたいだな」
ロウバ―の表情は、先程出逢った時の強張った表情が嘘のように優しい笑みを浮かべていた。
「でもさっきまでの雨のせいで湿気て。火を付けるの大変だったんだぜ?」
ノヴァは初めて見る炎を見て不思議な気持ちになっていた。
何処か安心できて、何処か恐れてしまう。
「・・・どうやら彼の事を誤解していた様だ。」
再びロウバ―の方に目線を向けると、今度はまた悲しそうに唇を噛み
何とも言い表せない表情でゾンビを見ていた。
「さっきも言ったけれど、君が思っている程この世界は美しい物ではない。」
ロウバ―の表情から読み取れる想いと、先程目の当たりにしたロウバ―の仲間達だった無残な姿。
想い描いてた外の世界とのギャップに、まだ僕は夢を見ている様な感覚だった。
「まだでも信じられない事だらけで・・・。初めて見た空も、この火も、この森も。まるで夢の様で・・・。それにさっきロウバ―さんが言ってくれた王様も、僕が前に読んだ王様の本とは全然違うみたいで。」
ノヴァの言葉を聞いてロウバ―は、溜息を着いて答えた。
「本当は君のような子がもっと感動出来る世界にする為に。弟が平和に暮らせる世界にする為に兵士になったんだけどね・・・。実際は世界にとって自分なんてちっぽけな存在で・・・。」
話の途中で言葉を詰まらせ、ロウバ―は苦笑いをしながらまた話し始めた。
「俺が必ず君をこの森から抜け出して、もっと素敵な世界を見せてあげるよ」
「本当ですか!?」
「・・・あぁ!必ず!そうだ俺の故郷に行って弟を紹介するよ!きっとノヴァ君と仲良くなれるよ!」
「楽しみにしてます!!」
ロウバ―はニッコリと今まで見せた事のない様な優しい笑みを浮かべた。
その表情はまるでノヴァが読んだ王子のような印象だった。
「さて、休める内に休みなよ。明日にはこの森を出発しよう」
残る力を全て出し切る様にノヴァは「はいっ!」と返事して再び横になる。
目を瞑りロウバ―の弟に会った時何を喋ろうか。どんな知らない事が待っているのだろうかと期待を胸に膨らませながら身体の力は自然と抜けていった。
ギガグルル。
ズドンッ!
凄まじい銃声で一気に眠気が吹き飛び
慌てて目を開いて周囲を確認するとロウバ―が銃を構え
ゾンビがこちらを威嚇している。
何が起きたか把握出来ないまま声を出そうとした瞬間、足に何かが絡まり
あっと言う間に身体が宙に浮いた。
「うわあぁあ!!」
成す術もなく勢いのまま宙ぶらりんになった身体は、3m程宙に浮き
足元を確認すると無数のツタが左足に絡みついている。
「その子を離せーッ!!」
ロウバ―が銃を上に構え何かに向かって叫んでいる。
視線を上に向けると大樹と同化した何かがゆっくりと流れ降りてくる。
焚火の炎に照らされたその姿は、真っ白い肌に無数の花びらが描かれた着物を着ていて中でも印象的な木の枝の様に無数に飛び散っている茶色い長髪に毛先は葉の様な緑色に分かれていて、まるで木が人の姿をした様なロウバ―と同じ位に若い姿の美しい女性だった。
女性は上半身を大樹から生えている様な状態でこちらに近づいてくる。
「それ以上その子に近づくと今度は当てるぞ!!」
先程の銃声の音の様なロウバーの一声に、女性はロウバ―の方に目を向け
ふふふっと微笑み小さな口を開いた。
「まだ威勢のいい生き残りがおったのか。」
その一言にロウバ―は、時間が止まったかの様に立ち止まった。
構わず女性は見下す様に話し始めた。
「愚かな人間共よ、この周辺は童のテリトリーとも知らずに害虫の様に大勢で踏み入れおって・・・。」
ロウバ―は、仲間達とこの森に入り突然見た事もない植物の兵士や動物達に襲われた事を思い出した。
「あれは全部お前の仕業か・・・。」
ふふふっ。女性は不気味な笑みを浮かべ
右手を前に差し出すとぎゅっと拳を握った。
その瞬間大樹に絡まった無数のツタがノヴァの身体を一瞬で繭の様に包み込み
女性の隣に移動した。
「貴様ーッ!!!」
ロウバ―の咆哮と共に、銃を女性目掛け一発二発発砲し
それと同時にゾンビも女性に襲い掛かった。
しかし今度は、左手を前に伸ばしそのまま左に振りかざすと
無数の枝が盾となり弾を弾きそのままゾンビに襲い掛かり
ゾンビは吹き飛ばされてしまった。
繭をうっとりと見つめ女性は、繭を撫で始めた。
「しかしこの子からは魅力を感じる。頂いていくぞ。人間」
「待てェッ!!!」
ロウバ―の事などお構いなしに女性とノヴァを包んだ繭は、大樹の中へと溶け込んでいった。
灰になった世界で ウキイヨ @ukiyo112
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