Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜
@rink758
第1話 ヌゥとアグ
「ねぇ、アグ。今は一体何時だと思う? 俺の中では早朝かなぁ〜、うん、大体5時すぎくらい。たまに早起きしちゃう日ってあるでしょ。絶対まだ寝てていい時間のはずなんだけど、なんだか目が覚めてきちゃったな。うーん起きるか、目もばっちり開く。今日はいい朝だな〜って、そんな気分なんだよね」
アグと呼ばれた男は、横になって後ろを向いたまま、反応がない。いや、反応しないのだ。理由は2つ。アグは眠くて仕方がないことと、彼と話すことが非常に面倒くさいからだ。
「というかさ、今は何月なのかな? 肌寒いし、もう秋頃? なんだか涼しくなってきたと思わない? そろそろさ、長袖にしてもいいよね? 今日カンちゃんにお願いしようかなぁ〜」
彼はどんなに無視しても、気にもとめずに話を続ける。答えもしないのに質問ばっかりだし、内容もどうでもいいことばかりだった。
「そういやさ、アグはここから出たら、何かしたいことあるの?」
したいことね、あるよ。もちろん。でもな、ヌゥ、お前に話すことじゃあない。そもそも、ここから出られる日なんて来ない。それはお前もわかってるだろう?
そう思って、俺はだんまりを続ける。俺はな、まだ眠いんだ。まだ寝てるんだ。お前の声なんて聞こえちゃいない。話しかけても無駄だ。はぁ…こいつのせいで何か目が覚めてきちまったな…クソ…。今何時だって? 絶対まだ深夜の3時とかだろ? 俺はそのくらいの気分なんだよ。起きて、時計見て、まだ寝れる!って安堵して、もう一眠りする気分なんだよ。
「俺はね、そうだなあ…。リアナに会いたいかな」
「…?! なんでリアナをお前が知って…?」
しまった…と思った時にはもう遅かった。体操座りをしていたヌゥは、顔が見えないくらい伸びたボサボサの黒髪をめくりあげて、ニヤっと笑った。
「なんだ、起きてるじゃないか、アグ」
「お前がうるさくしつこく話しかけるからだろ」
「ひどい言い草だなあ」
「で、なんでお前がリアナを知ってるんだ?」
「知らないよ。そんな人」
「はぁ?! じゃあなんで…」
ヌゥは透き通るような水色の瞳をしていて、いつも真っ直ぐに俺の目を見てくる。なんだか呪いでもかけられそうで、あるいは心の中が読まれてるようで、俺はいつも目をそらしていた。
「アグがね、寝言で言っていたんだよ。リアナって。1回じゃないよ。何回も聞いたよ。アグの大切な人なんだろうなって。だからさ、会ってみたいなって」
「なんだそれ…」
クソ…よりによってこいつの前で。そんなに夢みたっけ?はぁ…別に俺は会いたくねえよ。もう、一生、会うことなんてないんだよ。
「あとは、バッサリ切りたいかな、この髪を」
「それだけかよ…それこそカンちゃんに頼めよ」
「うん、まあそうなんだけどさ」
ほんとにくだらねえよ、こいつと話をするのは。何を考えているのか、さっぱりわからないし。
「お前が会いたいやつはいねえのかよ。俺の知り合いなんかじゃなくてさ」
「いないよ」
考えるどころか即答しやがったな、こいつ。
まあ確かにそうか。家族も死んだ。村も壊滅した。ていうか、その犯人がお前なんじゃなかった? 大量殺人鬼さんよ。
当時の年齢のおかげで死刑にはならなかったが、無期懲役。だったっけ?
失礼な質問しちゃったな、なんて微塵も思わねえけど。
「俺の知り合いはアグだけ。他にはだーれもいないの」
ヌゥはニヤニヤしながら言った。こいつはいつもニヤニヤ、ヘラヘラしている。最初は不気味なやつだって思っていたし、殺されるんじゃないかなんて無駄に怯えていた日々もあったが、こいつと牢獄を共にしてもう10年あまり。こいつは俺を殺さないし、むしろ大切な話し相手だ。俺を殺してしまったら、次に誰かがここに入ってくるのに何年かかるか。さすがにこいつでもわかるんだろう。
ここは無期懲役を言い渡された極悪犯罪者だけが入る、たった1つの特別な独房だ。基本的に大量殺人を犯せば即刻死刑となる。でも俺たちが殺されないのは、罪を犯した年齢があまりに低すぎたから。10歳以下ならば、死刑レベルの犯罪を犯しても無期懲役以上の刑にはならない。
「何言ってんだ、カンちゃんもいるだろ」
「あぁ、確かに」
ヌゥは笑った。
そして大きく両腕をあげ、うーんと伸びをした。
「あー、腹減ってきたな。でも朝飯まであと2時間くらいあるでしょ。早く起きすぎちゃったなあ」
「いや、あと4時間はある」
「ええ?! だって今は5時でしょ。朝飯は7時でしょ?」
「5時はお前の体内時計での話だろ。絶対まだ3時くらいだろ」
「そんなはずないよ。もう太陽が差し込んでる時間だって」
「いや、この部屋窓がないからわかんねえし。いいからもう一回寝ろ」
「ええ〜! 今から寝たら絶対寝過ごしちゃうよ。寝過ごしたら朝飯もらえないじゃん」
「うるさいな。起こしてやるから黙って寝ろ」
アグはそのままヌゥが見えないように横になり、再び寝ようとこころみた。
「はぁ〜。今から寝るのって結構至難の業だよ。全然眠くないしさ。眠くなってきた時、絶対朝飯の時間でしょ。俺、ほんとにそれ嫌なんだよね〜」
あぁ、うるさい。
カンちゃんに耳栓お願いしよう。そうだ、それがいい。
ブツブツ話し続けるヌゥを無視して、何とかもう一度アグは眠りについた。
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