満月の夜とオムライス

あいる

第1話~蓮と真理亜~出会い

 限りある命を大切にしなさいだって?


 もう何回も聞いたよ

 聞き飽きちゃったよ


 私の命なんだもん

 どうしようと勝手じゃない…


 そう思っていた…彼にあうまでは…


 踏み切りで飛び出そうとした彼をなぜ止めたのか自分でもわからなかった。


「どうして?どうして止めたの?」


 私を見つめる彼の瞳に映る自分の姿をぼんやり見ていた。


「君…だれ?」


 じっと見つめる私から目を逸らした彼はうつむきながらつぶやいた


「どうして止めたの?」


「あ…ごめんなさい」


 止めた理由なんて自分にもわからない、死にたい自分自身に見えたの?ならどうして止めた?


「なんでだろ、わからないです」


 小さくため息をついた彼はゆっくりと歩き始めた…

 後ろ姿に声を掛けた


「ごめんなさい、もう止めないから」


 

 立ち止まり振り向いた彼が何故か微笑んでいることに戸惑った。


「もういいよ、とりあえずはいいよ」


 秋の始まりの満月の夜に彼と出会った

 月明かりの中でみた彼の瞳は眩しい光に触れると壊れてしまいそうな危うさがあった。

 

 学生なのだろうか?

 背中に背負ってるリュックは今年も流行っているあるアウトドアメーカーのものだった。


「町田 れん……俺の名前」

 名乗られた私は咄嗟に慌てて返事をした「川上


 彼は『マリアさまか…』そう言いながら声を上げて笑った


「なんか可笑しいですか?」


 道の横にあるガードレールにもたれて彼は笑った


「死を選んだ俺を止めてくださってありがとうございました、マリアさま」


「ごめんなさい、だって私が飛び込もうとしてた電車を先に取られちゃったんだもん」


「そっか…」蓮は小さく呟いた


 その時彼のお腹が鳴った

「腹減った、俺の自殺を止めた罰だよ、なんか奢って!」

 

 死にたがってたはずの彼は笑いながら私にそう声を掛けた


「いいよ、わかりました」


「よろしくねマリアさま」

 彼は右手を前に出した


 そっと彼の手を取ると指先から冷たさが伝わって来た


 きっと長い時間この場所にいたのだろう


 こんなに綺麗な月夜にひとりぼっちで…


 月はまん丸で無邪気に空に浮かんでいて悪意とはずっと遠いところにあるみたいに静かに二人を照らしていた。




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