教師だけど相談とかマジ勘弁。

宜野座

桜木くん

 俺はそれなりに高校教師という仕事を全うしてきたつもりだが、未だにどうしても苦手なことがある。

 生徒達からの様々な相談に乗ることだ。

 正直なところ、俺は生徒の相談に対して明確な道筋を示す自信がないし、方法も分からない。だから普段、相談を受けたときには、なんかそれっぽいことを言って苦し紛れに誤魔化している。

「失礼します。先生、ちょっと相談したいことがあるんですけど……」

 ほら、言ったそばから男子生徒が相談に来た。はあ~もうマジ勘弁。でもこれも仕事だ、やるしかない。

「おお、桜木さくらぎくんか。どうした」

 進路や人間関係の悩みなら、似たようなパターンが多いので幾分やりやすいのだが……さて、今回はどんな悩みだろう。


「実は俺、最近ストーカーに狙われてるような気がするんです……」

 ふむ、なかなかスパイスの効いた相談だな。まさかゴリゴリマッチョ系の桜木くんからストーカー被害の相談をされるとは。


「ストーカーって、あのストーカーか?」

「はい……。ハァハァ言いながら帰宅途中の俺の後ろをつけ回すあのストーカーです」

「そうか、それは大変だな」

「昨日は普段と違う道で帰ったんですけど、やっぱり誰かに見られてる気がして……」

「そうか、それは怖いな」

「このままだといつか襲われるんじゃないかと不安で、夜も眠れないんです……」

「そうか、疲れるな」

 どうしよう。「君はマッチョなんだから返り討ちにしちゃえよ」と言いたいところだが、何を隠そう桜木くんは暴力を心から嫌うハートフルゴリマッチョなのだ。


「先生、俺はどうすれば……」

 桜木くん、チワワみたいな潤んだ眼差しをこちらに向けるのはやめてくれ。なんか絵面がすごいことになってるから。

「うーん、そうだなあ。……あ、もしかしたら、そいつはストーカーじゃないのかもしれないぞ」

「ストーカーじゃないって、つまりどういうことですか?」

「ほら、あれだよ。なんていうか、そう、君はいい筋肉を持ってるだろう? きっと筋肉マニアな人間が君の筋肉に注目していて、遠くから観察してるんだよ」

「そ、そうか! なるほど。確かにこれほど美しい筋肉であれば、憧れを抱く人の一人や二人はいてもおかしくないですもんね」

 うん、自分で言っちゃうんだそれ。しかもこんなにあっさり俺の意見を信用しちゃうなんて、君は本当に純粋なマッチョだな桜木くん。

「そうだよ、だから桜木くんはもっと堂々として、筋肉を見せびらかすようにしながら帰ればいいんだよ」

「分かりました! やっぱり先生に相談して良かったです! ありがとうございましたっ」

 桜木くんはそのまま勢いよく職員室から退室していった。


 ……余計なことを吹き込んでしまった気がするが、これで良かったのだろうか。

 まあ、苦し紛れの答えではあったけど生徒は納得してくれたし、今回は結果オーライってやつだ。

 だけどやっぱり、相談とかマジ勘弁。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る