虹色パレット
尾上智哉
第0話 色のない自分
十人十色という言葉がある。この言葉には、人それぞれ考えや好みなどが違うという意味がある。しかし、僕にはそれがわからない。考えがわからないとか好みがわからないということではなくただ単純に視覚的に色が認識できない。
そんなことを考えていると前に座っている白い服を着たおじさんが二枚の紙を出してきた。
「黒峰君、この二つの紙は何色に見えるかい?」
「どっちも白色の紙です。」
目の前のおじさんは眉をひそめた。
「目の病気とも考えられない。」
彼はそう言うが、僕はこの現象の原因を知っている。
「おそらく精神的なものです。神経内科でも無理だと思います。僕自身の問題だと思うのでもう通院は控えたいです。」
「精神的なものか…一度精神科に診てもらうのはどうかな?」
「いや、大丈夫です。自分で何とかします。」
「医者として君にはぜひ精神科に行ってもらいたいが、君の意見も優先したい。」
このおじさんは、本当に僕のことを治したいと思っていることは伝わる。しかし、この目の現象は、解決できないだろう。
「ありがとうございます。何かあったらすぐに連絡します。」
と僕は少し申し訳なさそうにして診察室を出た。
窓の外を見た時一機の飛行機が目に留まった。
病院を後にした僕はふと自分の過去のことを思い出した。それは、二年前の事故のことである。僕が中学二年生の頃であった。
「はじにぃー!ふじさんがみえるよー」
窓際に座った妹が大きな声で僕に抱き着くように言った。僕も窓の風景を一緒に見て、感動した。雲の中から顔を出すようにして富士山が見える。
「これは、すごい!家に帰ったらお兄ちゃんが絵をかいてやるよ!!」
そういうと妹がほほ笑んでぎゅっと抱き着いてきた。
「ありがとう!はじにぃー!!大好き!!!」
ふと、僕は再度窓を見た。あたりは青と白だけでなく光が差し込み虹のように綺麗な風景が目に焼き付いた。これを見たら忘れられないと感じ、必ずこれを次の絵の題材にしようと強く願った。そう思っていたらと突然、
「エンジントラブルが発生しました!!!」
耳の中に侵入してくるかのように甲高い音が聞こえた。
「紗枝!!!!」
そのアナウンスを最後に僕の意識が飛んだ。
目を開けると、何か焦げるにおいがして吐き気を催した。
僕は、軽傷で済んだようだ。しかし、あたりを見渡すと凄惨な光景が広がっていた。血がふきだしたかのように壁一面が塗られていて、床には血だまりがあり、腕と足がまるでそこにあったかのように置いてあった。
「お母さん、お父さん、紗枝!!!」
僕は、愛する家族たちを必死に探したが、周りにあるものは肉塊だけだった。三人の名前を叫んでいると足で何かを蹴ってしまった。それは、誰かの頭のように感じた。
「お…かあ…さん………」
蹴った頭はお母さんの顔をしていた。さらに、隣にはお父さんの胴体が落ちていた。僕は、そのことに信じられず絶望しあたりが見えなくなってきた。しかし、それを無視し必死に紗枝を探した。
「紗枝!!!!紗枝!!!!!いたら返事をしてくれ!!!」
数秒だろうか、叫んでから少しの時間が過ぎたところで小さな声が聞こえた。
「は…じにぃ…」
「紗枝!!!」
僕はまたその光景で絶望をした。紗枝の体に無数の窓の破片が刺さっており、先ほど見せた笑顔が嘘かのように弱々しい表情をしていた。僕はすぐに駆け付け、妹を助けて飛行機の機内らしきところから外へ出た。
飛行機が墜落したのは、どこかの山であった。外に出ていた人は僕らと一人いた。もう一人の生き残りを見つけた途端、僕の視界は閉じていった。
八月に僕は家族を失った。母と父である。妹は、何とか生き永らえたが、今もなお植物状態である。無数のガラスの破片が影響したのではなく、墜落の衝撃で脳幹を圧迫してしまったためその状態になったと医者は言っていた。もうすっかり妹と見た美しい風景を思い出せない。そう僕は、その日から色の認識を失ってしまったのだ。
病院から家に帰ると自分のアトリエに入っていった。
「また仕事は入っているかな?中村さんからメール来てないかな」
僕はプロの美術家として中学一年生の時にデビューした。中学生から仕事もらえるようになっているが事故よりモノクロの絵しか描けなくなっている。仕事の確認をすると、中村さんのメールには、
『はじめさん、絵の依頼はありませんが雑誌に、はじめさんが紹介されるらしいです。その時に掲載する自己紹介を簡単にメールで送ってほしいです。』
中村さんとは僕の仕事の仲介をやってくれている人である。僕は、このメールに対してすぐに返信をした。
『中村さんお疲れ様です。以下に自己紹介文を載せます。
僕の名前は、黒峰はじめ。私立彩虹高校一年生である。部活動で、美術部に部長をやっております。部員が一人なので募集中です。モノクロの絵しか描けないですが皆さまの心に響くような絵を描いていきたいです』
すぐに、メールが返ってきて、
『ありがとう!はじめさん頑張ってね!!』
その返信を確認すると僕は一枚の絵を描き始めた。白と黒の絵の具で自分自身を描いた。パレットには二色しかない。しかし、ふと前を見ると絵の具が収納されている棚が見えた。そこには、マゼンタ、シアンなどが書かかれている使わない絵の具たちが揃っている。
絵の具たちは、先のことを予感するかのようにほんの一瞬色を見せた。
彼は、その色の輝きに気付いていない
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