第六詩 世界

街角でふと見かけた君の横顔はまっすぐな瞳を夕暮れの空に、紅くなった頬を風に。


少しばかりの時の流れと君の笑顔は僕の知らない誰かに。


目を伏せた時に見えた君の姿はいつも見る服ではなく。


そのまま袖先に見た手を見ればやっぱり誰かの手につながっていて。



気持ちを伝えることを諦めたその人を街角で見かけて、ほんの少し見とれて。


これがギャップ萌えなのかな、なんて自分に言い聞かせて、だまして。



情けなくなってきて、吐き気がして。


何もしてない癖に期待して、期待してないのに裏切られた気がして、ああ、馬鹿だなって。


馬鹿だなって自分を貶めてその場をやり過ごそうとして。


井の中の蛙大海を知らず、だって。


僕の知らない世界を知ってる君がいて、それが悔しくて。


僕は視界を濁らせながら靴を見て歩いた。歩いて、言った。


「好きってなんだろな」


そんなことをつぶやきながら。

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