8 幸福な子
幸福な子
幸せの正体は?
……僕の(私の)求めていた、幸せってなんだっけ?
「命は祝福されてこの世界に生まれ落ちてくるの」
古い神社の祭壇の前にある木の階段に座って、霞が幸多にそう言った。
「確かにそうかもしれない」
霞の横に立ったままで、幸多は言う。
「幸多さん。あなたもそうなのよ」
「僕も?」
「そう。あなたはもう覚えていないかもしれないけれど、あなたもちゃんと『いろんな人に祝福されて』この世界に生まれ落ちてきたのよ」
相変わらず、幸多の瞳の奥をじっと見つめるようにして、霞は言った。
「ありがとう」幸多は言う。
「嘘でも嬉しいよ」
そう言って、幸多はにっこりと霞に笑いかけた。
霞は幸多の言葉を聞いて、小さくため息をついた。
「幸多さん」
「なに?」
幸多は言う。たばこが吸いたかったけど、神様(霞)の前なのでやめることにした。
「幸多さんはこの先に進まないほうがいい。ここならまだ、ぎりぎり『現世の世界』に帰ることができる」
真剣な顔をして霞は言う。
「ありがとう」
幸多は言う。
「でも、それはできない。僕はもう『現世の世界』に引き返すつもりはない」幸多はそう言い切った。
二人はしばらくの間、じっとお互いの目を見つめ合う。
「……そう」
しばらくして、なにかを諦めるような表情をして霞が言った。
「ごめん」
幸多は言う。
「ううん。幸多さんが謝ることじゃない。幸多さんがそう心に決めたのなら、そうすればいい。あなたの人生はあなた自身のものなのだから」
小さく笑って霞は言う。
神様にそう言われると心強いな、と幸多は思った。
「ありがとう」
と、もう一度、幸多は霞にお礼を言った。
すると霞は木の階段のところから立ち上がって、幸多の横にまで移動をする。そして、霞はそのまま少しだけ背伸びをして、幸多の頬に、そっと小さな『口づけ』をした。
幸多は突然の霞の行動に驚いた。
驚いた顔をしている幸多の顔を見て、霞はくすっと笑って、「幸福のおまじないだよ」といたずらっ子の顔をして、幸多に言った。
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