して良いのは心配まで
「全く……シュラ。あなたはなんてアドバイスを」
メリルはヴェルデ、ファールナと別れてからもシュラにぐちぐちと文句を言い続けていた。
「そんな気にすることじゃねぇだろ。何もがっつり殴り合える様にトレーニングしろって言ったわけじゃねぇんだしよ」
「そういう問題じゃないのよ」
「……何がそんなに問題無いんだ? レグディス程じゃないにしろ、あいつは速い方だからそう簡単に捕まったり打ちのめされたりしねぇだろ」
シュラはシュラで冷静にヴェルデの事を評価しているからこそ、貫通力のあるパンチと蹴りだけでも会得したらどうだとアドバイスを送った。
「シュラ……ここがどこだが忘れたのかしら」
「何処って、未開拓地の最寄り街だろ」
「未開拓地のモンスターが、他の地域に生息する同じモンスターよりも強いってこと、忘れたのかしら」
「あぁ~~~~~~…………うん、悪い。忘れたたわ」
未開拓地で活動するようになってから既に一か月ほど経過しており、シュラの中で未開拓地に生息しているモンスターの強さが、スタンダードに変わりつつあった。
「けどよ、ぶっちゃけ未開拓地に生息してるモンスターを相手にするのなら、俺らよりも長い間この街で活動してるヴェルデたちの方が慣れてるだろ」
「慣れていたとしても、また前回遭遇したエルダーリッチの様なモンスターと遭遇した際、無事に生き残れると思ってるの」
「……あの戦いで一皮むけた感じがするし、大丈夫なんじゃないか。それに、ちょっと前までは確かに俺らはあいつら……保護者? 的な立場だったけど、今はもう違ぇだろ」
「っ!!!!!」
エスエールからの依頼は既に終了しており、ラガスたちとヴェルデたちは同僚であり、友人といった関係になった。
決して、ラガスたちにヴェルデたちの今後を保証しなければならない義務はない。
「あいつらにはあいつらの冒険がある。んで、ヴェルデたちは今よりも上を目指してる訳だろ。だったら、咄嗟に得意な得物が使えなくなった時に代用できる武器は必要だろ」
「…………そう、ね」
「だろだろ。そりゃあれだぜ、俺だって友人としてはあいつらがあのエルダーリッチとか、この前戦った刺青コボルトみてぇなヤバいモンスターに遭遇しねぇか心配に思うところはあるけど、出来るのは……いや、して良いのは心配までなんじゃねぇの?」
口に出して伝えた通り、シュラも友人であるヴェルデたちになるべく死に直結するほどの危険が降り注がないでほしいという思いはある。
また一緒に酒を呑み、飯を食って笑い合いたい。
ただ……同じハンターとして、彼らのハンターとしての誇りに泥を掛けてはならない。
「………………私の、良くないところね」
「良くないところつーか、そうなっちまうのは仕方ない部分なんじゃないか? だって、俺は執事でお前はメイドだろ。元々心配しない時が少ない人が主人なんだぜ」
心配しない時の方が少ない主人。
人によっては、主人にとって不敬では? と思うかもしれない言葉だが……その通り過ぎるため、メリルは思わず小さく笑ってしまった。
「ふっふっふ……確かに、安心出来る時の方が少ないわね。そうね…………メイドとしての感覚、感情が大きくなってたみたいね」
「まっ、元々保護者みてぇなことをしてたんだし、マジで仕方ないって思って良いんじゃないか? 実際にあいつらの不快感を買っちまって衝突したわけじゃないんだしよ」
「本当にその通りね……それにしても、シュラにこうも上手く諭されるなんて……なんかちょっとあれね」
「はっはっは!!!! いつもと逆ではあるな」
シュラはラガスの従者、執事ではあるものの、互いに友人という感覚の方が近い。
対してメリルにとってラガスは心配が絶えない坊ちゃま。
どちらかが悪いわけではない。
ただ、今回は偶々メリルのメイドとしての……過保護な部分が出てしまった。
本人もそれを認め、改めるようと決めた。
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