仮に勝利を得たとしても
「んじゃ、先に武器屋を見ても良いか?」
「えぇ、良いわよ」
二人は普段の執事服、メイド服から私服に着替えて街中を歩いていた。
「……そういえばメリルよ。これからはどうすんだ?」
「次の目的地、ということね」
「そうだ。ラガスさんは今探求者や他のクランが探索している地下遺跡を探索するつもりはないんだろ」
シュラとしては非常に興味がある。
しかし、主人であるラガスにそのつもりがないのであれば、大人しく諦める。
「そうでしょうね。例の件を警戒するのであれば、あまり直ぐに戻れない場所に居るべきではない」
「……思うんだけどよ、ラガスさんはちょっと警戒し過ぎだと思わねぇか」
「………………」
ラガス坊ちゃまの考えに意見するとはどういう事なの!!!! といった怒声が飛び出すことはなく、メリルはシュラの考えを冷静に考え始めた。
「…………そうですね。対人戦に適したダンジョンを探したりあれこれしていたけれど……改めてじっくり考える、少し構え過ぎてたかもしれないわね」
「お、おぉう……なんか、珍しいな」
「何が?」
「いや、メリルならラガスさんの意見に反対するつもりかしら、的な反応をされるかと思ってたからよ」
「私は決してラガス坊ちゃまのイエスマンではないわ。備える必要はある。実際に始まれば、間違いなく私たちは参加しなければならない。ただ、私たちが知ったのは、あくまでも可能性」
そのつもりがあったとしても、バレたのであれば実行を当初の計画よりも後にする可能性は十分にある。
「つ~かよ、向こうもあれが俺たちに潰されたんだから、戦るだけ無駄って思ってくれねぇかな」
「ラガス坊ちゃまやセルシア様のようなつい最近まで学生だった、私たちの様な若造に敗れたことを考えれば……って言いたいの?」
「世間一般的な視点? ってやつで見れば、そう捉えられるだろ」
「……それはそうね」
ラガス、セルシアがどれだけぶっ飛んだ存在なのかはシュラも解っている。
ただ、重要なのは超少数精鋭で重要な施設をぶち壊したという事実。
加えてこの短期間でラガスたちは確実にハンターとしての功績を積み重ねていた。
「そもそもラガスさんを相手にするってだけでも、かなり無茶な話だろ」
「でしょうね。ラガス坊ちゃまを足止めしたいのであれば、一般的な意味での実力者が…………最低でも、十数人は必要ね」
ラガスはまだまだ成長期であり、これからまだパワーとスピードも増す。
これまで以上に戦闘経験を積み重ねていけば、備わっていた技術力に更に戦闘経験という強味が加算される。
「そこにルーフェイスがいれば、どうなる?」
「猛者であろうとも、数分と経たず消されるかもしれないわね」
「だよな~。俺、頭が良くねぇから細かいことは解らねぇけど、仮に……仮にだぞ。こっちが負けたとして、その代償に国の実力者が十数人…………最後まで止めるって考えれば何十人って単位か? それだけ死ぬと考えれば、どっちが勝ったのか解らねぇ結果だよな」
「……シュラにしては、深く考えたわね。絶対とは言えませんが……仮に、こちらの事情を深く知っていれば、それはそれで更に手を出そうという気が失せるかもしれない」
ラガスたちには……狼竜であるルーフェイスの母、フェリスという最終兵器がいる。
ルーフェイスはラガスの従魔として、必ず参戦する。
そしてフェリスがその気になった場合……二体の狼竜が参戦することとなる。
「………………向こうがこちら側でくだらない事をしてた訳だけど、いざそうなると……ほんの少し、欠片だけ不憫に感じるわね」
「おっ、やっぱりか。俺も同じこと思ったぜ。仮にあれが着々と進んでたとしても…………いや、つっても油断して良いわけじゃねぇな」
ラガスがいれば、知性と技術がない怪物など格好の獲物。
そう言おうとしたシュラだったが……何故、戦うのがラスだと仮定しているのかと、自身に問うた。
その結果、自身の向上心に火を付けることになった。
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