零してないからセーフ

「んじゃ、またな」


「はい。ごちそうさまでした」


ちょっと不穏な情報も聞いてしまったけど、楽しい食事だったことに変わりはない。

割と酒の匂いが付いてる気がするけど……美味い料理の匂いが付いてしまってる時点で、どうしようもないよな。


何か言われたら、また良い店に連れて行けばいい話だ。



「おかえりなさい、ラガス坊ちゃま」


「ただいま…………もしかして、呑んでたのか?」


宿に戻ると、何故かメリルからもワインの匂いが漂ってきた。


「えぇ、そうですよ。レグディスさんたちが、上の人たちから渡すように頼まれたと言われたようで、高級ワインを何本も持ってきてくれました」


なるほど、そういう事だったか。

俺だけ良い思いをしてると感じさせるのではなく、メリル達にも良い物を送ってくれたみたいだな。


それは本当に有難い……有難いことなんだが、一つ言いたい。


「メリル、お前……そのワイン、俺が一緒にいる時に呑むって選択肢はなかったのかよ」


「あら、ラガス坊ちゃまはエスエールさんと高級なワインだけではなく、超上等な料理を食べていたのでしょう。であれば、お礼の品であるワインは私たちだけで呑んでも良いのでは?」


ちっ、そこまでバレてたのか。


つか…………マジでべろんべろんだな、こいつ。

顔を赤くしやがって……って、多分俺も人のこと言えないぐらい、それなりに赤さが残ってるだろうな。


「いや~~、すんませんラガスさん。あんまり高い云々は興味なかったんすけど、肉と一緒に食ったら予想以上に上手くて」


「美味しかった、よ」


「……ふふ、そうだな。確かに上手い肉と一緒に食べれば、より美味しく感じるもんな」


「まだ、残ってる。一緒に、呑む?」


店でも割と呑んだんだよな~。

そんなに度数は高くないからってエスエールさんに言われたから、結構ぐびぐびと…………あれ、結局俺何杯ぐらい吞んだんだっけ。


「…………そうだな。一緒に呑むか」


おそらく……というか、どう考えても明日、二日酔いに悩まされる気がするが……そんな事を考えながら呑むのも、無粋というものか。



「………………っ、ぅ………………はぁ~~~~。全員、同じ部屋で寝てしまったみたいだな」


周辺を見ると、空になったボトルが転がっている。


どうやら……ベッドに零れてはいないようだ。

それは良いんだが、やはり俺たちだけじゃなくて、部屋中がワインの匂いで充満してる。


「う、っ……はっ!!!!????」


「よぅ、おはようさん、メリル」


「お、おはようございます、ラガス坊ちゃま…………先日、クラン探求者から貰ったワインを呑んでいた……最後は、ラガス坊ちゃまも共に呑んだ……そこまでは、覚えてます」


「そうだな。俺がエスエールさんと食事してる間に、レグディスたちの面倒を見た礼として、高級ワインをくれたらしいな」


この感じ、もしかして昨日の出来事を断片的にしか覚えてないのか?


「後はメリルが覚えてる通り、俺も戻ってきた後、お前たちと一緒にワインを呑んだ……まっ、どうやらその日のうちに呑み尽くしてしまったみたいだけどな」


「………………申し訳、ございません」


「? なんでだよ。俺は俺でエスエールさんに誘われた店でワイン以外にも美味い飯を食ってたし、別にお前らが俺抜きで吞んでても問題無いだろ」


「それはそうかもしれませんが、ラガス坊ちゃまより後に起きるなど、メイドとして……」


あぁ~~~、気にしてたのはそっちか。


俺としては全く気にしないけど、メイドのメリルとしては、色々と気にしてしまうのかもしれないな。


「メリル、俺らは……これだけ呑んでたんだぜ」


「……本当に、呑み過ぎてしまいました」


床に転がっているワインのボトルを指さすと、なぜか更に絶望顔になるメリル。


「だから、それは別に良いっての。最低限、ベッドにワインが零れてはいないんだし、これ以上気にしても仕方ないだろ」


「…………ラガス坊ちゃまが、そうおっしゃるなら」


この後、シュラとセルシアが起きるまで待ち、もれなく全員二日酔い状態だった。

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