どれぐらい凄いのか解らない

ギルドを通して手紙を返信した後、了承と日程の確認に関する内容が記された手紙が返って来た。


「五日後か……んじゃ、それまではこれまで通りやってくか」


慎重に、丁寧に育てたい有望な若手が全員集合するまでに数日かかるらしい。


「あれっすよね。どうやってシバくかを考えるんすね」


「そんな訳ないだろ。ただ日帰りでいける範囲で探索して面白いモンスターと戦ってを繰り返すだけだよ」


「どうやってシバくのかは考えておかないんすか」


シュラの奴……冗談じゃなくて半分マジだったのか。


「そもそも、その若手の有望株たちが俺たちに面倒な態度を取った場合に限り、シバくってだけだろ」


「でも、これまでの経験からしても……どうしてもバカたちはラガスさんの事をバカにするじゃないっすか」


「……そこは否定出来ないな」


本当に悲しいが、真面目にそこは否定出来ないんだよな~。


「それでも、一応探求者のトップであるエスエールさんが直々に面倒を起こすなよって忠告してくれるんだ……それでも元気一杯に面倒な態度で接して来るなら……その場でなんとかするよ」


「私もそこは心配ですが、そこまで自信満々な様子であるなら、私は何も言いません」


「むっ……分かったっす。俺もこれ以上はその件に関して何も言わないっす」


「二人が俺のことを想ってくれてるのは解ってる。ただ、今回は気持ちだけ受け取っておくよ」


もしかしたら、一生見た目が理由で下に見られることがなくならないのかも不安は多少あるけど、有望な若手なら……よっぽど鈍感でなければ気付いてくれるだろ。


とりあえず、その若手たちが戻ってくる間はこれまで通り民開拓の森での探索を楽しむ。



「……先程の話の続きですが、有望な若手であれば、まずセルシア様に驚き戸惑って下手な態度を取らないようになるのではないでしょうか?」


「ならないんじゃないか?」


「セルシア様は公爵家のご令嬢ですよ」


それは確かにそうだ。

普通に考えれば驚き戸惑い、跪く存在だろうな。


「個人的な感想だけど、若くて有望なハンターほど貴族のそういう部分に対して負けてたまるか!!! って感情が強いと思うんだ」


「なるほど………………人によりますが、やはり一定数は貴族に対して良い感情を抱いていない者が多いのは事実でしょう」


「俺はまぁ、ぶっちゃけそういう気持ちは解らなくもないっすね」


「はぁ~~~……全く、あなたは……シュラ、そういう事は思っても黙っておきなさい」


別に俺は気にしてないし、セルシアも気にしてないとは思うけど、他の貴族が居る前では言わない方が良さそうな言葉だろうな。


「とりあえず、俺たちとその若手の有望株たちでは権力的な意味で立場が違うから、結果として常識が異なる。男爵家出身の俺からすれば、公爵家の権力とかマジで脅威でしかねぇって反応になるけど、平民からすれば詳しくどの辺が凄いかってのは解り辛いと思うんだ」


「……領地の、民で、なければ……多分、解らないと、思う」


「セルシア様がそう言うのであれば、間違いなさそうですね」


俺の説明より、セルシアの言葉の方に納得してるのはちょっと不満だが……まっ、いつものことか。


『…………ねぇ、ラガス』


『? どうした、ルーフェイス』


『なんか……向こうの方から、微かに甘い匂い? がする』


『甘い匂い、か』


微かにってことは、まだそれなりに離れた位置に、その匂いの発信源があるってことだよな。


……気になるっちゃ気になるな。

そんなに甘い匂いがして、匂い通り甘い果実なのか……それとも、モンスターが……人食植物? の罠なのか。


「ラガス坊ちゃま、どうかなさいましたか?」


「ルーフェイスがさ、離れた場所から僅かに甘い匂いを嗅ぎ取ったんだ……行ってみないか?」


「……ここには未知を開拓しに来たのですから、私とは特に異論はありません」


「俺もないっす」


「私も、ない」


「それじゃ、決まりだな」


それなりに離れた場所にあるようなので、走ってではなくルーフェイスの背に乗って移動を始める。

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