礼はまた今度

一日休息を取り、次の日にはまたワクワクしながら森の中へ入る。


休日の間にセルシアと二人で行動してたメリルがまた新しいナンパ男に絡まれたみたいだけど、とりあえず玉を片方潰してついでに片腕を斬り落としたらしい。


おそろしいなぁ~って思ったけど、復讐とか後々起こりそうな面倒事を考えれば、妥当と言えなくもなかった。


というか、あの一般人をナンパしてた男……マジで俺たちに絡んで来ないな。

ってことは……本当に死んだか? それはそれで良いんだけど。


「何を考えてるのですか?」


「一般人をナンパしてた男、本当に死んだのかと思ってな」


「復讐できるなら絡んで来そうですが、まだ絡んで来ないことを考えると、本当に死んだかもしれませんね。素晴らしいことです」


「……うん、そうだね」


割り切ってるな~~~。


まっ、メリルの場合は相手が平民だからとかじゃなくて、単に屑男だからこういった態度なんだろうけど。


「森の中に投げ飛ばされたってことを考えれば、がっつり死んでてもおかしくないっすよ。ほんのちょっとしか見てないからあんまり覚えてないっすけど、多分サファイヤランクぐらいじゃないっすか?」


「戦闘力が評価されてそのランク帯なら、確かに死んでてもおかしくないな」


ゴブリンやスライム、コボルトとかキャタピラーとか低ランクのモンスターもいるけど、ランクCのモンスターとか普通にごろごろいるからな~。


運が悪くなくても、普通より強いCランクのモンスターと遭遇したら死んでもおかしくないか。


「もしかして、法的な問題によって裁かれる、とか考えてますか?」


「いや、別に。俺たちの立場的にやるだけ無駄って思うだろうし、領主もそんな小さ過ぎる件に時間と脳を使いたくないだろ」


「ふふ、それもそうですね」


冒険者同士の喧嘩なんて日常茶飯事の出来事だしな。

今回は偶々死んじまったってだけだし、な…………っ!!??


「シュラ!!!!」


「任せてくださいっす!! おら待てやっ!!!!」


「ッ!!??」


視界に……冒険者の女性を抱えて走るコボルトが移った。

コボルトが女性を攫うことは……あるにはあるけど、珍しいっちゃ珍しい。


ただ、それよりも気になるところがあった。


コボルトの体に、刺青があった。


「ぅおらっ!!!!」


「ボガっ!!!??? ァ……」


「よぅ、生きてるか?」


「え、えぇ。ありがとう。本当に、助かったわ」


「どういたしまして」


「シュラ、どうだった」


「ん~~~……普通のコボルト比べて、二回りぐらいは強かったっすね」


「そうか…………あの、動けますか?」


色々と考えたいことはあるが、連れ去られそうだった怪我人をなんとかしないと。


「ポーションがあるから大丈夫よ。それに…………追って来てくれてたわ」


「おい、生きてるか!!!!」


パーティーメンバーは死んでいなかったようで、直ぐに到着。

これなら、後は任せておいても大丈夫そうだな。


「ちゃんと生きてるわ。この人たちが助けてくれたの」


「そうだったか。仲間を助けてくれて、ありがとう」


「どうも……それじゃ、大丈夫そうなんでもう行きますね」


「え、あっ!!! まだ礼、を……」


なんか言いかけてるのが聞こえたけど、後で街で会えたら聞こう。


今はそれよりも、あの刺青が入っていたコボルトについて気になる。


『ルーフェイス、あいつの匂いを『もう追ってるから任せて!!』……サンキュー。相変わらず頼りになるな』


刺青を持つコボルトってのは聞いたことがない。

毛の色が違う個体とかがいるって話は聞いたことがあるけど、刺青を持つ個体の話はマジで聞いたことがない……ただ、ゴブリンやコボルトの上位種の中で、シャーマンとかは偶に刺青を持ってることがある。


けど、シュラが十秒程度で倒したコボルトは、明らかにシャーマンの類ではなく、刺青と身体能力以外は普通のコボルトだった。


どう考えても、通常種を強化した特別な上位種がいる筈だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る