初っ端からアクセル全開は駄目

「……もっと頑張ったらどうだ? 的なことは言ったけど、あいつらちょっとドM過ぎないか?」


「ラガス坊ちゃまが発破をかけたからでしょう」


宴会の翌日、まだ今後の予定が決まっていない俺たちの元に鬼人族の青年一派が来て、シュラに稽古を頼んできた。


ルーキーたちからの頼みに、シュラは楽しそうな笑みを浮かべて答えた。

それからささっと朝食を食べ終え、現在ハンターギルドの訓練場でボコボコにされている。


「ん~~……だとしても、あんなにボコボコにされても挑み続けるか、普通?」


「どうでしょうね。ただ、それだけ彼らも必死に強くなろうとしている、ということでしょう」


「ふ~~~ん…………」


「あら、珍しく不満気な顔をしてますね。もしや、シュラを彼らに取られたと思って嫉妬してるのですか?」


「アホか」


別に取られたとか一ミリも思ってねぇっての。


シュラやメリル、セルシアたちが他のハンターたちと交流を持つのを禁止したいとか考えてないっての。


「超頑張って、更に我武者羅に頑張るのは良いことだと思うよ。ただな……あんまり最初から気合入れすぎて飛ばし過ぎれば、直ぐに燃え尽きそうな気がしてな」


「燃え尽き症候群、というものですか?」


「違う。なんつーか……まず、本当に今よりも上を目指して強いと思ってるなら、もっと今の自分たちに何が足りなくて、どこが長所でこういうトレーニングをすれば伸びるだろうって考えなきゃダメだろ……ハンターには面倒な準備かもしれないけど」


「流石ラガス坊ちゃま。本当にそういう事に関しては考える力が凄いと言いますか……ですが、屋敷にいる間、そうやって色々と考えながら動いていましたか?」


「……………さぁ、どうだっただろうな」


そこを突かれると非常に痛い。


けど、言い訳になりそうだけど……俺は自分が転生者で、特別なアビリティを持っている自覚があった。

そりゃ結構無茶してたかもしれないけど、オーバーワークはしてなかった。

それに…………俺は、動いて動いて強くなるのが本当に楽しかった。

だからこそ、頑張り続けることが出来たんだよ……あいつらに、その楽しさはあるのか?


「とにかく、大きな目標を持つのは悪くない。ただ、その目標を叶えるために小さな目標を見つける。まずはその目標に向かって頑張る……じゃないと、どれだけ頑張っても大きな目標を叶えるまで、ふとした瞬間自分は成長出来てないんじゃなかっていう不安に駆られる……と、思う」


「なるほど……非常に、非常に本当に深く納得出来ます。それで、それを彼らに教えるのですか?」


「ん~~~……もしかしたら、既に考えてるかもしれないしな。今はただシュラにボコボコにされるために挑んでるのかもしれないし」


「ラガス坊ちゃま、彼らをなんだと思ってるのですか?」


「冗談冗談、半分は冗談だからそんな変な顔するなっての」


ったく、冗談が通じない奴だな~。


……同期に、あまり年齢が変わらないのに、自分より圧倒的に強い奴がいると身に染みて体験するのは悪くない。

でも……本当の意味で天然と言うか、自然と自分が目指すべき道が解ってる奴じゃないと、計画立てて進まないと絶対に挫折するのは間違いない。


「けど、なんかタダで教えるのもな~~~」


「強者として、未熟な彼らに教えてあげようとは思わないのですか」


「そんな上から目線になったつもりはないっての……同級生の奴らは、同級生って立場だったから色々と教えてたけど、あいつらはただの同期で……正直、他人に近いだろ」


なんて口にしたが、多少あいつらの今後が心配という思いはあったので、休憩中にシュラに色々とあいつらに

伝えた方がいいアドバイスについて教えた。


そしてらあいつ説明の前に「ラガスさんからアドバイスだ! 心して聞け!!」って言いやがった……何のために小さな声でお前に伝えたと思ってるんだよ、ったく。

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