言いたい事を伝える
卒業式当日、少々緊張しながら卒業生代表として、壇上に立った。
卒業生と、希望する在校生の参加者や、親御さんたちが全員見える。
……うん、どう考えても大観衆が観ている大会の舞台に立つよりも緊張する。
とりあえず一度深呼吸をしてから、事前にこんなことを話そうと思っていた内容を喋り始めた。
内容自体はそこまで事細かく考えていない。
そこら辺をアバウトに決めている方が、俺らしいと思ったから。
「え~、こういう場所では長々と色々感謝の言葉を述べると思うが、俺らしい感じでなるべく簡潔に喋ろうと思う」
最初にそう切り出すと、若干張りつめていた空気が和らいだ。
何人かの先生は頭が痛そうな表情を浮かべているが、バッカス先生やバレント先生たちは「それで良い!」って顔してるな。
「これから先、学生という立場を終え、様々な道を歩み始める。そこでは様々な困難が訪れると思うが、そんな時は学生時代を思い出してほしい。学園ではなくとも、それぞれが歩む道はおそらく組織だ。であれば、頼れる存在の一人や二人はいるだろう」
こんな事を言っておきながら、そういった人物が居なかったらあれなので、一応この場に来ている各業界のお偉いさんに一言送っておく。
「そういった先輩や上司がいない職場は色々と終わってるので、直ぐに同系列の職場へ移動……もしくは転職を考えよう。陰湿ないじめなどがあれば、耐え抜いて話が通じる人へ証拠を見せるのもありだな」
うんうん、我ながら卒業式の日に壇上で何を話してるんだと思うが、何人かの参列者の表情が揺れた。
職場に競争環境があるのは良いことだと思うけど、だからといって虐めがあるのは良くない。
「とはいえ、どう頑張っても言い返せない、現状を覆すことが出来ない理不尽な状況に直面することもあるだろう。そんな時は、自分に害を与えてきた存在が正々堂々ではなく、理不尽な力を利用しないと自分に勝てない無能だと思うんだ。そうすれば、やけを起こして自身のこれからを潰さずに済む」
うんうん、また何人かの人の表情が青くなったり、青筋が立ったりしてるね。
お前ら……自覚があるなら、とっとと直せ。
「単純に上手くいかない日々を体験することがあるかもしれない。そんな時は、一度立ち止まり……本当の意味で、落ち着いてみよう。俺も含め、お前たちが進む道では……あまり立ち止まることを良しとしないかもしれない」
ハンター、騎士、魔術師。
そういった誰かを守るという行為に関連する職に就く者は、常に強くならなければならない。
周囲の雰囲気が常に強さを求め、自分自身も強くなり続ける……前を進み続けるのが当然と思うだろう。
「だとしても、一旦立ち止まって腰を下ろすことは、悪いことではない。人にもよるが、そこで逆に焦って進もうとすれば、折れた足に気付かず引きずり続け、取り返しのつかないことになる」
いや、全くそんな事体験したことないし、前世で周囲にそういった友人知人はいなかった。
当然だけど、今世にも周りにそういった人物は……いない。
ただの想像ではあるけど、実際に起り得る悲惨な結末の一つではある。
それは断言出来る。
「体が、心が壊れる前に、一旦止まろう。本当に強くなりたいと思うのであれば、止まることを恐れない勇気も大事だ」
俺は学園に入学するまでに、色んなことに手を出してた。
だから、ある意味休憩しまくりの日々だったと言えなくもはない、と個人的に思う。
「俺たちがこの学園で学んだことを無駄にしない様に、これからの人生を大事に生きよう……卒業式代表、ラガス・リゼード」
言い終えた瞬間、同じ卒業生たちが拍手をし……直ぐにそれは伝播した。
本当に自分が同級生たちに伝えたいことだけを伝えた感じなんだが、あいつらの顔を見る限り、とりあえず悪くはなかったみたいだな。
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