自信があるからこそ

「ラガス君は、本当に属性魔法が使えないのですね」


「えぇ、そうですよ。魔弾という有難いアビリティはありますけど、それでも得意なのは接近戦寄りの動きですね」


昼食中、話しかけてきた宮廷魔術師の方に、特に何かを感じることなく言葉を返す。


「そうか……惜しいな」


「何がですか?」


「ラガス君が属性魔法を使えていればと思うとな。将来的に、宮廷魔術師になるのは確実な筈だ」


……それはまぁ、なんとも嬉しいお言葉。

一応音魔法は使えるんだが、そんな尖り過ぎた属性だけ使えても、魔法師団に入団したり、宮廷魔術師になるのは難しいだろうけど。


「ありがとうございます。自分には勿体ない褒め言葉です」


「謙遜する必要はない。君の魔力操作の腕ならば、その地位まで上り詰めるのは難しくない……少しでも運命が違えば、と思ってしまうよ」


「……ありがとうございます」


心の底から伝えられた褒め言葉に、再度ありがとうと伝える。


何でかって? 


俺の方に嫉妬の目を向ける魔術師の方たちが多いからだよ。

隣で昼食を食べている方は、まさに熟練の魔術師といった見た目で、ダンディなおじ様という言葉が似合う。


当然と言えば当然だが、イーリスが本気で勝負を挑んで、この方には敵わない。


そんなおじ様が、属性魔法のアビリティが習得出来ない(一応)俺に、もし習得出来ていれば、間違いなく宮廷魔術師になれただろうと評価してくれた。


属性魔法が仕えず、ましてや騎士でもない存在。

将来はハンターの道に進むと言っている様な学生を、褒め過ぎでは? と思ってしまう程絶賛。

嫉妬や妬みの類を向けられるのも仕方ないと思えてしまう。


「どうだい、卒業後にはうちの顧問講師にでもならないかい」


「っ!!!??? えっと……なぜ、ですか?」


「はっはっは! そりゃ勿論、君ほど優れたハイバランサーはそういない。そんな君が毎日稽古を付けてくれると、と思うとね」


いやぁ~~~~……うん、本当に評価してくれるのは嬉しい。


嬉しいんだが、今のところハンター人生一択だからな。


「申し訳ありません。自分が行く道は、ハンターと決めているので」


「ふふ、そうだったね。すまない、年寄りの戯言だと思って忘れてくれ」


「いえ、自分をそこまで評価してくれている事に関しては、本当に光栄というか……嬉しいと思ってます」


ハンターとして生活する中で、一時だけ講師として働くのならまだしも、長い間別の職業に務めるのはな……もっと先の話になる。


「そうか……ところで、君が制作している魔靴、というマジックアイテムを一つ、私も購入して良いかな」


「え、えぇ。勿論です……でも、珍しいですね」


「そうか? 君が制作する魔靴というマジックアイテム、とても素晴らしい物だと良く耳にするよ」


「恐縮です。ただ、あまり魔法をメインで扱う方からは注文が来ませんので」


見栄を張りたい貴族などから依頼が来ることはある。


そういった貴族の中にはどちらかと言えば、魔法の方が得意という客がいる。

しかし、真面目に戦闘職として活動してる方からの依頼だと、あまり魔術師の方からは来ないんだよな。


「ふむ……腕が高い者ほど、自分の魔法に自信を持つ。それは決して悪いことではないが、万が一の危機を考えなくなってしまう者が多くなる」


「それは……まだハンターにもなっていない者の考えですが、少々危機感が不足していますね」


「そうであろう。自信を持つのも良いが、万が一という危機感を常に持っていないのはよろしくない」


……本当に素敵なおじ様だな。


おじ様の言葉に、魔術師の何人かがビクッと震えた。

後輩の事も思っての言葉なんだろうな。


「まぁ……最悪の場合、逃げ足は必要ですからね」


「君の魔靴の性能を考えれば、本来はそういった用途ではないのだろうが、危機を脱する力にも使える」


プライドが高そうな魔術師の方たちには殆どない考えだろうな……いや、それなりにプライドが高いのは騎士の方々も同じか。

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