その人次第だよな

国際大会が無事に終了すると、本当に大きなイベントはなく、平穏な日々を過ごしていた。


とはいっても、貴族や騎士から魔靴を造って欲しいという依頼は来るから、学生という立場を考えると、割と忙しいかもしれない。


「始め!!!」


そして今は、レアードとセリスの二人と模擬戦を行っている。

二人が入学してきたことで、身内での模擬戦は賑やかになっていた。


二人の従者であるニルナとエルシャも鍛錬を怠っておらず、二人の横に立てる実力を有している。


「ほい、っと」


「うっ」


「ま、参りました」


二人のコンビネーションは日々向上しているが、俺も一対二という戦況に慣れてきたこともあり、そうそう一本取らせない。


この後もセルシアやシュラ、キリアさんたちと模擬戦を続けていく。

そんな平穏な日々が続く中、一人の同級生が俺の元を訪れた。


「何か用か? 魔靴の制作なら引き受けるぞ」


「はは、それは是非とも卒業するまでには注文しておきたいね」


その同級生とは、ジーク・ナーガルス。


セルシアの元婚約者であり、相変わらず優男なイケメン。

国際大会では、これといって大きな成績は残していないが、確か一回戦か二回戦は突破している。

入学時と比べれば影が薄くなったかもしれないが、それでも学生の中では実力者。そこは変わっていない。


「……卒業までの間、僕とも模擬戦してほしいんだ」


「そうか……って、そんな真剣な表情で言うことか?」


普段は人の良さそうな面をしているが、裏ではクソヤバい束縛男、みたいな面だけ良い野郎ではない。


最初の出会いこそあれだったが、今では普通に日常会話をする友人と言える。


「僕にとっては、真剣に頼みたい内容さ。出来れば、騎士が使わないような戦闘スタイルで模擬戦をしてほしいんだ」


「騎士が使わないような、ねぇ……なるほど」


一年生の頃と比べて、戦闘スタイルや思考の固さは良い感じに崩れてきたけど、自分ではまだまだって思ってるわけだ。


個人的には新卒の騎士の中では、十分に前線で通用する実力と思考力があるとは思うけど……今のままじゃ、目指す場所には届かないってことか?


「でも、良いのか? 滅茶苦茶転ぶことになると思うけど」


「勿論だよ。君との実力差は理解しているからね」


……相変わらず良い笑みで返すな。


セルシアの強さや美しさを忘れられないから、未だに新しい婚約者を迎え入れてないって聞くけど、あのバカ王子もジークぐらい前を見てればな……まっ、前を向けるか否かなんて、基本的にその人次第だよな。


という訳で、翌日からジークとの模擬戦が追加。


きっちり指導料金? を払ってきたので、模擬戦の回数を多めにした。

金を貰ったのであれば、しっかり働かないとな。


「事前に伝えたが、もう一度言うぞ」


「ぬっ、ぐっ! はっ!!」


「刃の長さに惑わされるなよ」


刃の長さが違う長剣の二刀流。

勿論、パワーやスピードはギリギジークが反応出来る範囲で抑えている。


一戦目はなす術なし、二戦目は多少慣れてきた。

三戦目ともなれば、良い一撃を返してくるようになる。


という訳で、四戦目からスイッチを行う。

簡単に言えば、手に持っている剣を途中で交換する。


「はっ!」


「っ!!! 参った」


「はは、流石に反応出来なかったか」


「負け惜しみになるけど、初見で対応出来る人はいないんじゃないかな」


どうだろうな?


まぁ、少なくとも学生だと対応が困難かもな。

一歩間違えれば武器を一つ失う訳だし、あんまり実戦でやる人はいないかもだけど。


「でも、実戦だとその一撃が強力な武器になるね」


「上手く出来るとな。なんだ、二刀流に興味があるのか?」


「興味があるどころか、こっそり練習してるよ」


はっはっは!! 解ってるな。

やっぱりイケメンで優男でも、ロマンに関しては共通みたいだな。

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