何故そっち側?

「全員揃ってるみたいだな」


リアルスさんたちが訓練場に入ってきたことで、リーベたちの表情に緊張が走る。


俺からすれば先日の件もあって、良い人達って印象が強いけど、学生からすれば緊張して当然の相手。

柄じゃないだろって思ってしまうが、イーリスもリーベたちと同じく緊張した様子。


「まっ、言ってしまえばお前らが参加する国際大会は、お祭りだ」


お祭り……それはそれで間違ってないな。


「とはいえ、お前らの中に……負けてもいいや、って思ってる奴はいないだろ?」


リアルスさんから、脅迫的なオーラは漏れていない。


ただ、チラッと参加者の表情を見る限り、全員がリアルスさんの言う通り、微塵もそんな気持ちはない。

勿論、俺もアルガ王国の学生たちに負けても良いか、なんて思ってない。


やるからには、絶対に勝つ。


「良い眼をしてるな。それじゃ、接近戦メイン組と遠距離戦メイン組に別れて訓練を始めるぞ」


それぞれの得意分野を伸ばす為、大体半々の人数になった。


国際大会では生徒、そしてその生徒に仕えるメイド、執事の三人セットで戦うトーナメントもあるので、かなり人数が多い。

その為、コーチ陣の騎士たちもそこそこ多いのだが……俺は自分の現状に対し、少々困惑していた。


「あの、リアルスさん。何故、俺はこっち側なんですか?」


「ラガスの実力を考えれば、当然こっち側に決まってるだろ」


俺は今、コーチ陣側に立たされていた。


その現状に、シュラは満足げにうんうんと頷いてやがる。

リーベやスレイドたちも……なんで反対してくれないんだよ。


「ラガス、お前には魔弾を使った手伝いをしてもらいたい」


「魔弾ですか? 分かりました」


とりあえず、ここで何を言っても仕方ないと思い、コーチ陣の手伝いを行う。


そして最初の仕事は、複数の魔弾を使って生徒たちの虐め抜くことだった。


「もっと反応を研ぎ澄ませ!!! 視覚だけに頼るんじゃないぞ!!」


最初は一つの魔弾操るが、そこは国際大会へ出場を決めた生徒や従者たち。

一個だけでは対応してきたので、直ぐに二つ目を追加。


同時に攻撃することはなく、必ず緩急を付けて攻撃する。

途中で軌道を変更することはないので、二つ目でも対応出来る者が多い。


そして、ちょっと負担が増えるが、魔弾の数を三つに増やす。

そうなると、さすがに対応出来ずに被弾する者が多くなる。


魔弾は殺傷性を抑えているので、被弾しても体を貫いたりはしない。

それでも、多少のダメージはあるので、食らい続ければ打撲程度の怪我は負う。

傍に王城に属する回復魔法の使い手がいるから、あっさり治りはするけど……十分程度で直ぐに順番が回ってくる。


「よし、次だ!!!」


誰がそれくらいの数を耐えられるかは覚えているので、くるくると順番が回ってきても問題無い。

リーベとか四つでも上手く対応して来るので、さすがにこっちも頭が痛くなってくる。


「ラガス君、そろそろ休憩を入れるか?」


「……後二回回ったら、お願いします」


「うむ、分かった」


生徒や従者たちを鍛えてる側かもしれないが、これはこれで並列思考の訓練になる。

そこまで複雑な動きで操ってないが、それでも数が増えれば少しずつ脳が疲労する。


その辛さを考えると、やっぱり魔弾のアビリティを持ってるだけあって、ちょっとは楽なんだろうな。

割と器用なメリルも、十以上は操れない。


「よし、一旦こっちは休憩だ!!」


俺は純粋に休憩……とは言っても、うっかりミスらないように座禅しながら集中力を消さないようにする。


ちなみに、俺の複数の魔弾対処訓練を終えた生徒たちは、丁寧な……そして渾身の素振りを行い、その動きに現役騎士たちがアドバイスを加えていく。


まっ、ハッキリ言って超ハードだな。

それを考えると……生き生きしてるシュラを除けば、俺の脳疲労の頭痛なんて大したことないか。


なんて考えてると休憩時間が終了し、まだ数十以上の魔弾を操り、生徒や従者たちを虐め抜く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る