一投一殺
「あれは……グレーグリズリーですね」
木々の奥から現れたモンスターはDランクの熊系モンスター、グレーグリズリー。
体が大きく、パワーのある一撃が厄介なモンスター……いや、この面子を考えれば別に厄介ではないか。
数は二体だが、それでも全く問題無い。
「一体は俺がやります」
「……それじゃあ、もう一体は私が、やる」
「ふむ。二人の戦いっぷりを見せてもらおう」
こっちには狼竜のルーフェイスがいるんだが、そんなの関係無しに狩る気満々って面だな。
「ガァァアアアアッ!!!!」
「よっと!」
ダッシュからの振り下ろしは確かに危ないが、懐に入って止めてしまえば爪による斬撃を無効。
手のひらはやっぱり柔らかいな。
「ッ!? ッ!!!!!」
ムキになって俺を圧し潰したようだが、パワーには少し自信がある。
「グゥアアアアッ!!!!」
どうやら本気で俺を片腕で潰そうとしてるのか……まぁ、身体強化のアビリティを使い始めたし、体に魔力も纏ってる。
本当の本当に俺を潰したいみたいだが、俺が小さいからってちょっと油断し過ぎじゃないか。
「よ、ほッ!!!!!」
「グァ!!!!????」
グレーグリズリーの攻撃を支えていた左手で右腕を弾き、懐に潜りながら跳んで腕をガッチリ掴み、そのまま一本背負いを決めた。
体格的にはあり得ないかもしれないが、腕の根元を持ってしまえば後は力次第で投げられる。
ただ…………命を懸けた殺し合いなんだから、情けをかける必要はない。
それが分かっているからこそ、つい頭を地面に落とすように投げてしまった。
「はぁ~~~、汚くしてしまったな」
「何言ってるんすか。力強い投げだったっすよ」
「そうか? まぁ、倒せたから良いっちゃ良いんだろうけどさ」
頭から勢い良く地面に落としたことで、グレーグリズリーの頭部は潰れたというか、崩壊してるというか……とにかくグロ映像って感じだ。
子供の頃から何度もモンスターの解体をやってるから、今更この程度の光景で吐いたりしないけどさ。
「やっぱり、ラガスは倒すのが、早い」
「いや、セルシアこそ十分早いと思うけど」
セルシアが倒したグレーグリズリーは首を綺麗に斬り裂いている。
首以外の部分には全く斬り傷がない。
「はっはっは!! 十分凄かったぞ、セルシア!!! ラガス君の言う通り、今の年齢を考えれば十分過ぎる討伐スピードだ。なぁ、アリスタ」
「えぇ、全くその通りかと。攻撃の見切り、間合いの把握、最後のグレーグリズリーを読んだ上での一閃。セルシア様の成長を感じる戦いぶりでした」
「そう? ……それは、良かった」
おっと、これは多分ちょっと照れてるな。
その気持ち、分かる分かる。
あんまりこう、ロウレット公爵様やアリスタさんみたいにどストレートに褒められると照れるよな。
「それはそうと……ラガス君、中々面白い戦い方でした」
「え? そ、そうですか」
面白かったか? ただ普通にグレーグリズリーの懐に潜り込んで、そのまま腕を掴んで投げただけなんだが。
「一般的に、モンスターを投げて倒す。そういった戦い方をする人はいません。大男がゴブリンを掴んで投げることはあるかもしれませんが、状況は全くの逆です」
「そうかもしれませんね。けど……自分の方がスピードは上なんで、そういう戦い方も出来ると思って」
もっと言えば、モンスターに……グレーグリズリーに人間みたいに考えて戦うことが出来ないからこそ、無茶苦茶な一本背負いが決まったんだけどな。
「理論上はそうかもしれませんが、そう簡単にはモンスターとの実戦では行えません。投げる動作の時に一瞬とはいえ、敵に背を向けることになりますからね」
「……なるほど。そう言われてみると、ちょっと安易な攻撃だったかもしれませんね」
そうか……言われてみれば一瞬ではあれど、敵に背を向けてる状態か。
モンスターなんだから口からブレスを吐くかもしれないし……いや、でもグレーグリズリーはそんな攻撃しないよな?
でも人型モンスターがそういった攻撃を行う可能性がゼロではないことを考えれば、隙がある攻撃ではあるが。
「いえ、ラガス君のあの投げを貶すわけではありません。寧ろ、投げる時に頭から地面に落とすという点はとても魅力的でした」
「ど、どうも。ありがとうございます」
み、魅力的か……普通は恐ろしい投げ方だと思うんだが……とりあえず褒め言葉は受け取っておこう。
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