逃げたとしても

リーベの恋愛惨劇はあまり細かく説明せず、いったいどういった流れでリーベがとある少年とアザルトさんの人生を懸けて戦うことになり、どのような強さを身に着けたのかを説明した。


「まさか羅門を使えるようになっているとは……なるほど、確かにラガス君が猛者だと断言するのも納得出来る」


「正直、自分もリーベと一緒に訓練をするようになったばかりの頃は、羅門を習得出来るとは思っていませんでした」


羅門という名の限界突破アビリティは誰でも習得出来るものではなく、肉体的な強さにプラスして優れた体術を会得している者しか身に付けられない。


まさに才ある者が努力を積み重ねた先に得られるアビリティ。


……と言ってしまうと、羅門を習得している自分が体術の才能がある断言するようで恥ずかしいが、間違っていない筈。


とにかく、そんなアビリティを短期間で習得したリーベは間違いなく才能を開花させ、学生の中では強者と呼べる部類に至っている。


「ラガス君の指導が良かったから、という考えはまた別かな」


「別ですね。自分の訓練内容が他の生徒たちと比べてハードかもしれませんが、それに付いて来れるかどうかは本人次第です」


個人的な感想だが、本当に俺の指導の是非は関係無い。

どう考えてもリーベのライド君には負けたくないという強い思いが原動力となり、ハードな訓練にも付いてきた。


その結果、今まで眼を向けていなかった才能が開花して学生の中ではトップクラスの力を手に入れた。

とはいっても、主体にしていた剣術の腕がしょぼいのかと言われれば、そんなことはないんだよな。


「ただ、お話しした通り……リーベと戦った相手側の生徒は平民という出自から考えると、飛び抜けた力を持っていました」


「ふむ、そうだな。話を聞く限り……セルシアと同等の実力を持っていると考えて良さそうだ」


「そう、かもしれません」


親であるロウレット公爵様の前で絶対にそうだと断言は出来ないが、才能という点であれば……僅かに上回っているかもしれない。


限界突破のアビリティなんて、俺だけでなくシュラやメリルも習得出来ていない。


それに加えて珍しい光魔法を、戦闘用にがっつり使えてた。

剣術の腕も並ではなく……オールマイティなメリルより上だったか?


とにかく、貴族からすれば「なんなんだこいつは!!!」と思われる存在ではあるな。


「ラガス君なら、彼に勝てるかな」


「……はい、勝てます」


どっからどう見ても物語の主人公みたいな奴だが、それでも現時点では負けない。

というか、よっぽどのことがない限りこれからも負けないと思う。


潜在能力は高いだろうけど、手札の数なら負けない自信がある。


「ただ、ライド君はこれからまだまだ強くなると思いますし、ロウレット公爵様の頭の片隅に入れておいて損はない人物かと」


「ふっふっふ、そうだな……有益な情報を聞かせてもらったよ」


ライド君が将来ハンターになるなら、ロウレット公爵様が彼を使う可能性はゼロではない。


彼にとっても、リーベ家に返さなければいけない金を稼ぐ良い機会になるだろう。


それにしても……多分、リーベ君は戦闘のこと以外に関して凄いバカ、って雰囲気ではなかったんだよな。

三年生になる頃には自分が置かれた現実に気付くと思うんだけど……どうするんだろ?


「しかし、将来有望なハンター君は出発そうそう借金まみれ、ということになるね」


「は、ははは。そ、そうなんですよね~~~~。その……あれですよね、人の婚約者を奪った代償といったところですね」


俺もジークからセルシアを奪った人だからあんまり大声で言えないけど、結果的にライド君も借金まみれの道を選んだわけだから……仕方ない結果ではあるよな。


「……私としては、そこから逃げても仕方ないと思えてしまうがね」


「ッ!!!」


おっと…………ロウレット公爵様がそうおっしゃるのは全く予想してなかった。


「勿論、アザルト家のご令嬢は逃げては駄目だがね。だが、そのライド君はそこまで大きな借金を背負う事になるとは知らなかったのだろう」


「……そうですね。リーベとの決闘が終わるまで知らなかったかと」


「それならば、男として情けないと思われるかもしれないが、同情する者の方が多いかもしれぬ」


ライドが平民、あまり貴族の事情について知らないという点を考慮すれば……やっぱりそうなのかな。

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