嫌いオーラ全開

「イギラス国王様、一つよろしいでしょうか」


「うむ、何か他に欲しい物があるのか?」


いや、そういう訳ではない。

空間魔法のスキル結晶が手に入るなら、他には……まぁ、特にいらないかな」


「その、今回は第三王子……ブリット様の意見で起こった件ですよね。であれば、いったいブリット様は何をお望みなのでしょうか?」


なんとなく予想は付くが、一応訊いておきたい。


「先に行っておきますが、無茶苦茶な理由でセルシアを奪うようであれば……申し訳ありませんが牙をむかせて頂きます。それに関してはご了承ください」


「あぁ、勿論だ。この一件を飲んでこちらに来てもらったことに関しては感謝している」


後ろの騎士二人が少し申し訳なさそうな表情をしてるし、本当に悪いと思ってるんだろうな。


「さて、ブリットが何を考えているかだったな。簡単に言えば、ラガス君がセルシア嬢の隣に立つ人物として相応しいかどうかを見極めたいと言っていた」


「つまり、何かしらの試練を用意している……ということですね」


手紙に書いてあった通りか……つか、本当にどんな試練を用意するつもりなんだ?

一対一の勝負であれば本当に楽だ。


開幕速攻でボコボコにすれば良いだけだからな。


「イギラス国王様、一つよろしいでしょうか」


セルシアの申し出にイギラス国王が頷く。

もしかしてそんな試練やる意味無いとか言い出すのか?


それはちょっと無理だと思うぞ。

俺もそんな試練やる意味無いと思ってるけど、一応この国の第三王子が要望してるわけだし。


「私は、学園を卒業したらラガスと一緒にハンターになります」


「……そのようだな」


おっと、今のイギラス国王の様子を察するに、その噂を聞いていたけど半信半疑だったみたいだな。


ただ、こうして目の前で宣言されたことで確信したってところか。

普通に考えて公爵家の令嬢がハンターになるなんて、あり得ないって思うよな。


でも、元々セルシアの性格からして大人しく誰かの嫁になる気はなかったと思う。


「なので、私の隣に立つのに礼儀作法や貴族界の知識、そういったどうでも良い部分は必要ありません」


「…………」


「「…………」」


せ、セルシアさん。

それってそんなに言い切っていい内容なの?


イギラス国王だけじゃなくて、後ろの騎士二人もびっくりし過ぎちゃって表情が変な形で固まってるよ。

基本的に公爵家の令嬢がそんなこと言っちゃダメな気がするけど……ハンターとしての道を進むというなら、そういった答えを出してもおかしくはない……のかな?


「そ、そうか……確かにハンターとしての人生を歩むならば、あまり必要ない内容ではある」


ハンターになれば貴族からの依頼を受け、実際に会うこともあるから全く必要ないってわけじゃないけどな。


ただ、あんまり細かい部分が必要ないってのは事実だ。


「私の隣に立つのに必要なものは、強さと人格、です。ラガスと戦う、というのは良いことだと思います。ただ、本人が戦わなければ、意味がないということだけ、お伝えしてください」


…………セルシアさん、それってもう第三王子に可能性は一ミリも無いって言ってるようなものだよね。

いや、パートナーである俺としてはそこまで言い切ってくれるのは凄く嬉しいんだけどさ。


というか、俺たちを無理矢理この国に連れてきた時点で人格という点は完全にアウトなんじゃないか?


「うむ、承知した」


「……それと、申し訳ありませんが最後に一つだけ。私は第三王子、ブリット様と基本的に顔を合わせたくないので、滞在中に私に近づかないようにとも、伝えてください」


「…………う、うむ。しっかりと伝えておこう」


なんか……あれだな。

ここまでくるとちょっと笑えてきた。


セルシアは無表情を貫いてるけど、体から第三王子嫌いオーラが溢れてる。

本来ならイギラス国王もその態度に少しムッとするだろうけど、事情が事情なだけにそんな態度は取らない。


寧ろ本当に愚息が迷惑を掛けたって顔してる。

この人ならしっかり息子に言い聞かせるだろうけど……今回みたいな件を起こした第三王子自体は今のところ全く信用出来ないからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る