一応念の為
「あの……仮にですけど、第三王子と決闘……みたいな形になれば、手加減しなくても良いですよね」
「そうだな……個人的には、死ななければどう倒しても構わないと思っている」
おっ、さすが国王様。話が解る人だ。
死ななければ、どう倒しても構わない。つまり、倒し方は俺の自由にして良いってことだよな。
「ありがとうございます。しっかりとぶっ飛ばしてきます」
「うむ、まぁ……程々に頼む。さて、今回はこちらの都合でアルガ王国に行ってもらう訳だ。お主の夏休みを潰してしまった礼はしっかりと払おう」
国王様がそう宣言すると、直ぐ傍に立っていたメイドさんがジャラジャラと音が鳴る袋を取り出し、俺の目の前に置いた。
「その中には黒曜金貨が二枚、白金貨が三十枚ほど入っている」
「ッ!!!!!」
はっ!!?? ……ちょっと待て、黒曜金貨が二枚と白金貨三十枚???
それは……いや、有難い。しっかりと礼と払ってくれるのはとても有難いんだが、ちょっと多過ぎないか?
「ど、どうも……ありがとうございます」
「気にすることはない。わざわざアルガ大国まで足を運び、向こうの事情に付き合う。これぐらいの礼は当然だ」
当然だ、そう言いながらまた何か出て来た。
「ラガス君は将来ハンターになるのだろう。なら、こういったマジックアイテムを持っていた方が良かろう」
机の上には複数の引き出しが付いている箱が置かれた。
マジックアイテムと言うのだから、ただの箱ではないのは解るけど……いったいどんな効果があるんだ?
「リゼード様、こちらはランク七の調理器具が入った箱になります」
メイドさんが引き出しを開いていくと、確かにそこには多くの調理器具が入っていた。
そして……これはまさか、魔導コンロじゃないか。
「既に使える物かどうかはこちらで調べ済みだ。ハンター生活中に存分に使ってくれると嬉しい」
「あ、ありがとうございます」
いやぁ~~、本当に良いマジックアイテムだ。
引き出しの広さはどう考えても見た目以上にあるし……しかも箱の中に入っている調理器具は劣化することがない。
斬り辛いモンスターの肉もスパッと斬れるようだし……でも、これは俺じゃなくてメリルに持って貰った方が良いかもな。
それなりに料理は作れるけど、やっぱりメリルには負ける。
「それは、これは報酬というか……勿論ラガス君たちの物になるのだが、今回の件を考えると一応念のためにという物だ」
国王様が机に置いたのは四つの指輪。
どうやら四つとも同じ指輪みたいだな。
それで……ランク五。うわぁ……本当に高ランクのマジックアイテムをいくつも持ってるんだな。
硬貨は状態異常無効……なるほど、確かに一応念の為のマジックアイテムだな。
四つあるってことは、一つはセルシアの分か。
「もしかしたら、第三王子以外の人物が動くかもしれない……ということですか」
「こちらも可能性がゼロとは言えない。あまりそういったことをしてくるとは思いたくないが、第三王子の意をそのままこちらに伝えて来た時点で少々不信感を持たざるを得ない」
そうなのか? 第三王子の意見というか我儘なんだから……そう簡単に抑え込めるものとは思えないけどな。
パートナー制度を考えれば、向こうがなんとか第三王子の意見を押し込もうとするか……でも、そう出来なかったってことは、もしかしてアルガ大国に借りがあったりするのか?
それならこっちがわざわざ向こうに行く理由も解るが……まっ、いっか。
黒曜金貨が二枚と白金貨が三十枚。
そしてランク七の調理器具セット。そしてランク五の状態異常から身を守ってくれる指輪。
これだけ貰えるなら、寧ろアホクソ第三王子がいちゃもん付けてくれて感謝するまである。
きっちり潰して呪うことに変わりはないけどな。
「分かりました。向こうに着いてからは周囲を警戒しながら行動します」
「うむ、あまりアルガ大国の重鎮を疑いたくはないが、警戒することに越したことはないだろう」
そこで重要な話は終わり、先日の大会について少々話してから国王様とは別れた。
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