重ねて重ねる
何故かメイドさんと戦うことになった……いや、ちゃんとそこそこの報酬は貰うんだけどさ。
でも……なんで当主様じゃなくてメイドのオラリスさんと戦うんだ?
当主様だったらまぁ……なんとなく解らんでもないけど、メイドさんが戦う理由は全く解らん。
もしてしてあまり自分の手は使わず、駒を使って情報を得たいタイプの人なのか?
とりあえず表向きは優しい感じだったけど、当然裏はあってもおかしくないか。
なんて考えてると当主様が近くまでやって来た。
「オラリスはね、イーリスが生まれた時から世話をしているメイドなんだ」
「生まれた時から……あぁ~~~、なるほど。俺とイーリスとの戦いを観て色んな感情が溢れ出したということですか?」
「鋭いね。大体そんな感じだよ。私も妻もなるべくイーリスとの時間を取るようにして来たけど、一番長く一緒にいたのはオラリスかもしれない」
一番長く成長を見てきた……それだけイーリスのことを良く知っている。
俺に対して敵討ちとかそういう感情はないだろうけど……いや、ちょっとはあるか。
結局リザード公爵が俺の技を出来る限り調べたいのかもしれない。
その相手として自ら志願した、その可能性はありそうだよな。
まぁ……そういうのって理屈じゃないんだろうな。
俺が反則を使った訳じゃない、イーリスを侮辱してもいない。それは向こうも解ってるだろ。
でも、大切に思っている人が完膚なきまでに倒された……そんな光景を見せられて黙っていられる訳がない。
そんなところだろう……自分がその立場だったら、俺も堪えられるかどうかマジで解らない。
「オラリスはまだニ十歳ぐらいで一流と呼べる実力は持っていないけど……学生と比べたらその実力は遥かに上だと思うよ」
「……そうみたいですね」
それはなんとなく解かる。
ニコニコしてて優しそうな雰囲気を醸し出してるお姉さんだが、きっと闘争本能が表に出ればヤバそうな感じだ。
……いや、決めつけは良くないか。
でも、ずっとニコニコしながら戦い続けられるのもそれはそれで怖いって話だな。
「それでも負ける気はありませんけどね」
白金貨一枚と二振りでワンセットのランク七の短剣は超欲しいし。
「そうかい……楽しみにしてるよ」
……何を楽しみにしてるのかは知らないが、あんたが欲しい情報を殆ど見せるつもりはない。
瞬で終わらせるからな。
「それでは、審判は私が務めさせてもらうよ。模擬戦……始め!!!!」
合図と共に身体強化、脚力強化のアビリティを使用。
そして魔闘気で全身を強化。
それに加え……獣魔法で重ねて強化。
「ラビットフット」
アイテムリングから取り出し、装備している武器は狼牙瞬雷。
使用者の素早さを上昇させる効果が付与されている。
そして体術技……縮地を使用。
その結果……俺は雷の様に移動し、オラリスさんの視界から消えた。
「ッ!!!!」
「予測の仕方は良かったけど……そこまでですよ」
少々強化し過ぎたのでオラリスさんの直ぐ後ろで止まることは出来なかった。
止まった位置からでは狼牙瞬雷の刃が届かない。
届かないなら……そう、伸ばせば良い。
狼牙瞬雷の刃から雷の魔力が刃となって伸び、オラリスの首筋に触れる寸前で止まった。
「あんたがそこから動くのと、俺が刃を伸ばすの……どちらが速いだろうな」
「……参りました」
「そこまでっ! いやぁ~~~……まさか本当に一瞬で終わるとは予想外だったよ」
本当にそう思ってるのか怪しいところだ。
でも、オラリスさんとしてはこの結果に対して心底驚いてるみたいだな。
ニコニコ顔じゃなくて現状を受け止められないって表情をしてる。
「魔弾を使うのかなって思ってたけど、体術とその武器だけで決着を着けるとは……うん、やっぱり君と同年代の子は可哀そうだね。全て良いところは君やパートナーさんに持っていかれてしまう」
それには完全同意だ。
他の連中がこれから努力を惜しまず訓練を続けてきたとしても……とりあえず俺の代のシングルスとダブルスは絶対に譲らないからな。
てか、こんな簡単な勝負で白金貨一枚と高品質の武器を貰っても良いものか……良いよな、向こうだって色々と調べるつもりだっただろうし。
一瞬で終わったから殆ど情報は得られなかっただろうけど。
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