もっと頼るべき
「ふぅーーー……憂鬱だな」
「明日のことですか?」
「それ以外に何かあると思うか」
「リーベさんのライバルがザックス達の友人だったことが憂鬱なのかと」
「……それはちょっと思うが、今俺を苦しめている種は明日の件だ」
リーベとライド君が決闘を行う前に俺がリザード公爵家当主に会食を行う。
クソ面倒だが、今更バックレる訳にはいかないからな……自分からオーケーしたとはいえ、やっぱり憂鬱だ。
「そこまで憂鬱ですか? 美味しいご飯を食べてお話をして、婚約の話が来たら断るだけじゃないですか」
「簡単に言ってくれるな。勿論断るつもりだが、言葉をミスったら厄介な問題に発展するかもしれないだろ」
「そうかもしれませんね。しかしラガスさんには黒い切り札があるじゃありませんか。向こうが物理的にではなく、権力を利用してきたのであればそれ相応の方法で返せば良いじゃありませんか」
そりゃそうかもしれねぇけど、公爵家に害を与えるのはなぁ……今後のハンター生活とか考えるとやっぱり遠慮したい。
「いざとなったらセルシア様のご実家が助けてくれるかもしれませんよ」
「それは嬉しい。嬉しいが……個人的な事情で迷惑を掛けるのは申し訳なく思う」
当主様は文句一つ言うことなく助けてくれるかもしれないが、それはそれでこれはこれという話だ。
「……やっぱりラガス坊ちゃまはちょっと面倒な性格をしてますね」
「おい、もうちょい言葉をオブラートに包めよ」
「これは失礼しました。ただ、頼れる相手は頼るべきですよ。それに……今ラガス坊ちゃまは超有名人です。公爵家の当主であろうと、下手なことは出来ませんよ」
超有名人ねぇ……前世の自分からすればあり得ない状況だよな。
そうだなぁ、もう少し周りに頼った方が良いか……超有名人だから相手が下手な手を使ってこないとは断言出来ないけど。
てか、そもそも大会を観ていたのなら俺とイーリスが合わないのは解かるよな?
確かに俺は今超有名人かもしれないけど、実家は男爵家だ。
セルシアの時みたいにパートナーに選ばれたという例外がある訳ではない。
貴族と貴族の結婚に子供の意志は関係無いのは解ってるが……いや、まず絶対に婚約しなければならない訳じゃなく、とりあえず婚約してみないかっていう相談みたいな感じだよな。
うん、もう少し気持ちを楽にしよう。
深く考えすぎだ。
それが悪いとは思わないけど、考え過ぎるのは良くない。
「そうだな。何かあったら頼れる手札を使うよ」
「それが一番です。それに……ロウレット公爵家の当主様は絶対にラガス坊ちゃまの味方をしてくれる筈ですよ」
「やけに自信満々に言うな。そりゃ一応将来的に義理の息子になるかもしれないから助けてくれるとは思うけどさ」
「それが理由ではなく、ラガス坊ちゃまは当主様に魔靴をプレゼントしたではありませんか」
「あぁ……懐かしいな。確かに超良い出来の魔靴をプレゼントしたな」
でも、あれは当主様が質の高い素材を用意してくれたからなんだよな。
俺もそれなりに腕があるけど、あの魔靴は七割方素材のお陰で造れた魔靴。
間違いなく、俺が今まで造ってきた魔靴の中で最高傑作だ。
「あの魔靴は素材は当主様が用意したとしても、かなりの高値が付く傑作です。当主様も絶対に満足している筈です」
「その一件があったから、絶対に一回は本気で助けてくれるという事か?」
「そういう事です。あのような傑作品を貰ったのにも拘わらず、製作者のピンチを助けない者が公爵家の当主を継ぐことはないでしょう」
「そ、そうか……あのな、あの作品を褒めてくれるのは嬉しいが、あんまり外でそういう事は言うなよ」
今は学校の特別寮の自室にいるから問題無いが、面倒な連中に聞かれたら厄介事に発展しそうだ。
「勿論解っていますよ。この部屋に私とラガス坊ちゃましかいないから、こういう言葉を出せるのです」
「あっそ。でも心臓に悪いからあんまり口にしないでくれよ」
「畏まりました。そろそろ夕食の時間です。本日はどういたしますか?」
「……偶には食堂で食べようかな」
メリル達が作ってくれる料理も美味しいけど、学校の食堂の料理も美味いからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます