まだチャンスはある……筈
「ただ、その……彼女の実家に遊びに行った時に色々とあってな」
「色々と、か」
なんだろうな? 苦い顔をしているから決して良い内容ではない。
彼女に実家に遊びに行って宜しくないことを知ってしまった……もしかしてだが、そういう事か?
「彼女には好きな人がいた、って感じか」
「……その通りだ。なんだ、バレていたのか」
「いや、咄嗟に思い付いただけだ。家が男爵家なら……好きな相手は家に使えている使用人か、毎日一緒に遊んでいる平民の子供ってところかな」
「ラガスは読心術でも使えるのか? まさにその通りだ」
「そんなスキルは持っていないぞ」
でも、まさか回答がドンピシャで正解だったのはちょっと驚きだ。
「それで、どっちなんだ?」
「普段一緒に遊んでいる男子に好意を抱いている」
「子供の頃から普段一緒に……幼馴染ってやつか。それは強敵か」
「きょ、強敵と呼ぶ存在なのか?」
「俺の中では強敵と呼べる存在だと思うぞ。幼馴染同士ってのはお互いに自分の思いを伝え、関係を持つまでの時間が長いが、関係を持ってからの結束力というか絆は強い」
勿論実体験ではない。だが、前世で読んでいた漫画やラノベではそんな感じだった気がする。
一緒に居すぎて異性として見れないってパターンもあるが、リーベの焦り様からして幼馴染君もアザルトに好意を持っている筈。
「ただ、こうやって相談に来てるってことはまだその二人は付き合っていないんだろ」
「……そう、だと思う」
「?? ど、どうしたんだよ。ちょっと顔色が悪いぞ」
も、もしかして既に二人は付き合ってるのか?
それとも駆け落ちの準備とかしちゃってるのか???
侯爵家からの提案を男爵が一度受けたのに、それを破ったら……どうなるんだ?
リーベの意志から始まった婚約とはいえ、アザルト家は侯爵家の後ろ盾を得て色々と良くして貰っていただろう……にも関わらず当主の意志ではなく婚約者が無理矢理破ったとなったら争いに発展するかもしれないよな。
「その……大会が始まる前に、次の休みの日に二人で街を散策しないかと誘ったんだ」
「デートだな。やっぱり仲を深めるには大事な行為だと思うぞ。それで……えっと、もしかして断られたのか??」
「そうなのだ。友達との用事があると言われてしまった」
と、友達との用事か……それっとあんまり詳しくはないが、女子が興味が無い男の誘いを断る時に使う決まり文句じゃないのか?
今のところリーベが腐った貴族には思えないし……性癖が曲がっているとも思えないんだけどな。
「俺としては自分とのデートを優先して欲しかったがその、あまりパートナーを束縛するのは良くないと知人から言われたのだ」
「……そりゃそうだな。友人との遊びぐらい許容してやらないと駄目っていう考えには一理あるだろう」
俺もそれは許せる。友人より恋人、婚約者を優先してくれよって思いは絶対にあるけど。
「誘うと思っていた日はがっつりと予定を空けていたのだ。しかし予定がなくなたので街を一人で散策していた」
うっ! 悲しい現実だな。
しっかし少々堅物っぽいが理解のあるイケメンに好かれて何が不満があるのか……いや、この世界は前世と比べてイケメンは多いか。
でも人格者だし優良物件に思えるんだがな。
「そしたら、あれだ……フィーラがその幼馴染と一緒に歩いていたのだ」
「ぶーーーーッ!!!!!!」
やば、お茶がのどに詰まった!!
はぁ、はぁ、はぁ……えっ、普通にヤバくないか!?
「だ、大丈夫か?」
「お、おう。大丈夫だ、お茶が気管に入って咽ただけだ」
リーベの顔面に吹かずに済んで良かった。
だが……それって不倫、ではないか。まだ結婚はしてないんだしな。
でも浮気にはなりそうだよな。
「因みにだが、二人でいたのか? それとも友人達と一緒だったのか」
「…………二人だけで歩いていた」
やばい、リーベの表情が死にそうになっている。
いらん事を訊くんじゃなかった。
「それで一応気になって最後までその……二人の後を追ったんだ。男らしくない行為だと解っているが、真意を確かめたかった」
「……いや、恥じる行為じゃないと思うぞ。本当に友達なのかそれともって気になるからな」
女子からすればそれって信用してないってことじゃんとか言いそうだが、そもそも信用されない態度を取ってるからそういった流れになるってだけだ。
「そ、そうだよな。それで最後まであとを追って二人はキスするどころか手も握っていなかった」
「おぉう!! そうか、それは良かったじゃないか!!!」
まだ二人が友人ラインで留まっている良い証拠だ。
これから逆転出来るチャンスはまだまだある!!
「そ、それは良かったのだが、その……フィーラの表情が俺とデートしていた時よりも楽しそうにしているように見えたんだ」
……そ、それはそれで心にグサッと来るな。
話を聞いてる俺までちょっと辛くなってきた。
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