捨てる訳にはいかない

「この前ぶりですね」


「えぇ、そうですね」


……うん、やっぱり体から闘志が溢れ出ている。

絶対に俺に勝つ気満々じゃん。


このチーム戦自体は負けが決まってるから手を抜こう、とか全然考えて無さそうだよ。


「イーリスの件ですが、セルシアさんに感謝していると伝えておいてください」


「えっと……自分に嫉妬とか黒い感情を向けていた件についてですか?」


「はい、その件についてです。控室に戻ってきた時のイーリスは試合に向かう時と比べてとても柔らかいものになっていました。その……完全にあなたへの黒い感情が消えたとは思えませんが」


「あ、なるほど。まぁ、やっぱりそうですよね」


だよな、ある程度は俺に対する嫉妬や殺意? 的な感情は収まったかなぁ~って思ってたけど、そう簡単に完全に消えることは無いよな。


でも、薄まっているだけ良かったってもんだ。

これで街中を歩いている時に後ろから刺されることは無い……筈だ。


「それにしても……気合十分って感じですね」


「大将の私が情けない姿をみせる訳にはいかないでしょう。もしかして、チームの負けが決まっているから次に繋げる為に手を抜いて戦うと思っていたのかしら?」


「まぁ……その可能性は無きにしも非ずかと思って」


九割ぐらいはそんな事無いだろうと、全力で挑んでくると思っていた。

でも、残りの一割はチームの今後の戦いを考えて最小限の怪我で済むようにこの試合を終わらせると思っていた部分があった。


「ふふ、確かにそう思われても仕方ない状況よね。あなたが勝てばパーフェクトゲーム。こちらは私が勝ったとしても四敗一勝でチームとしては負け。それは解っています……でも」


っ、ラージュさんの体から一気に魔力が溢れた。というか風強っ!?

あとちょっとのところでスカートがめくれそうになってますよ! もしかして気付いていない!?


「力の限り戦ったチームメイト達の思いに応える為に……私は全力であなたに挑みます」


……う、うん。それは解った。よく解かった。

だからそのスカートの微妙なチラリズムは止めて欲しい。色々と毒だ。


「わ、分かりました。でも……俺も負ける気は一切無いんで」


ラージュさんが持っている杖は武器としても扱える。

接近戦でも気を抜かないように臨もう。


お互いに開始線まで戻り、構える。


その頃には観客達も静まっていた。


「それでは……始め!!!!」


審判の試合開始の合図と共に無数のウィンドボールが俺に向かってきた。


「魔弾」


それに対して俺は両手から魔弾を連射して対処。

中堅の人と比べて明らか風魔法のレベルが高い。


いや、それは元も解っていた事だけど改めて認識させられる。

本当に魔法の才ならイーリスに届くか届かないレベル、って感じか?


それに加えて接近戦が出来るんだ。総合的な実力なら絶対に上だろうな。


「……本当に魔弾の扱いが上手いですね」


「それが俺の取り柄ですから」


「そうだとしても、全て潰されるとは思っていませんでした」


確かに数は十半ばぐらいあって多かった……でも、対処しきれない数じゃない。

普通の一年生ならそれだけでどう対処すれば良いか解らず、ボロボロにされた可能性はあるかもしれないけど。


「それじゃ……次はこっちの番で」


片手にはアブストラクトを持ち、片手はいつでも魔弾を放てるようにして突っ込む。

というか駆ける途中でどんどん魔弾を撃ちこんでいく。


しかし全部ウィンドバリアで弾かれてしまった。

貫通力強化を使ってないとはいえ……まぁまぁ堅いな。


でも、お陰で罅はたくさん入った。


「よっと」


刃に魔力を纏い、アブストラクトでウィンドバリアを叩き割る。


「くっ!! ウィンドステップ!!!」


おっ、風のステップ……それ意外と厄介なんだよな。

脚力さえあれば空中を跳ぶことも出来るし。

ラージュさんにそこまでの脚力があるかどうかは知らないけど……とりあえずウィンドアクセルとは違うからちょっと厄介だ。


「結構反応良いですね」


「それなりに接近戦の訓練は積んでいるの……正直、リゼード君との接近戦に付いていけるかは不安だけど」


「……ふふ、表情と気持ちは一致させた方が良いですよ」


まだまだ全然諦めていない表情だ。もう少しギアを上げていくか。

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