龍の尾を踏んだ結果

神の視点


「おい、てめぇ……調子に乗るのもいい加減にしろよ」


ティールは膝から崩れ落ちているボレアス・ドランガットと視線を合わせる為に、ヤンキー座りになって顔を合わせる。


「ひっ!!??」


さっきまでの威勢は何処にいったのやら。

ボレアス・ドランガットは小さく悲鳴を上げながら後退。


(こいつ……今すぐにでもミンチにしてやろうか)


なんて事をマジで考えているラガス。

ギリギリ理性が残っているのでそんな事はしないが、ボレアス・ドランガットを殺したい気持ちはある。


「俺はなぁ……てめぇが今までどれだけ努力してきたとか、どういう家庭で育ってきたのか、どんなプレッシャーを背負いながら育ってきたのか知らねぇよ」


そこまで他人の人生に興味が無いラガスは、当然ボレアス・ドランガットの家庭環境等は知らない。

なので背負っているプレッシャーや今までの等を知っても、大した感想は抱かない。


「でもな……今お前がこうして這いつくばってるって事は、お前が俺より弱いってことだ。それは理解出来るよな、ボレアス・ドランガット」


「ッ……う、うるせぇ!!!」


ラガスから発せられる怒気や殺気に圧され、言葉が詰まるが……なんとか振り絞って出した言葉が肯定では無く否定でも無い、回答拒否。

それが更にラガスをイラつかせる。


「お前はこの大会で優勝しなければならないのかもしれねぇ。でもな、お前が今ここで沈んでるってことは……お前の努力が足りなかったって結果だ」


「だ、黙れ!!!! お前に……お前に、俺の何が解るってんだよッ!!!!」


「何も解らないし、知らないに決まってんだろ。いちいち喚くな」


ボレアス・ドランガットがどれだけ感情を露わにしようが、ラガスの冷たい氷の様な態度は変わらない。


「お前が俺に勝てなかったって事は……お前が俺に勝てるほど努力をしていなかった、それだけだろ。強くなる事だけを望み、どうすれば強くなれるかを考え続け、勝つためだけ日々を生き続ける。そうすれば、お前が俺に勝てる望みは多少あっただろうな」


世の中には……自身の命を削り、力に変える者がいる。

命を代償にするだけあり、その効果は絶大だ。


相手を格下だと決めつけているラガスがそれをやられれば、致命傷を食らってもおかしくは無い。


(別に俺は実際に見たことがある訳じゃない。でも、それを見たことがある父さんと母さんの顔を思い出す限り、素の俺が反応出来ないのは確実だ)


それならボレアス・ドランガットがそれを行える可能性はあるのか。

答えは限りなくゼロに近い……だが、絶対に無いとも言い切れない。


今までの日々を全て強くなる為だけに費やせば……この戦いで勝利を勝ち取ることが出来たかもしれない。


ただ……ボレアス・ドランガットはそこまで自分に厳しく生きることが出来なかった。

勿論、家族からの期待に応えようと並み以上の努力は重ねてきた。


重ねてきたが……ハッキリ言うと、ラガス程の努力を重ねていない。

訓練よりも実戦経験の時間の方が多いラガスだが、錬金術を学ぶ以外の日は全て訓練と実戦に費やしていた。


「それが、現実だ。お前が行った程度の努力や覚悟じゃ……俺には敵わない」


「ッ! ……だ、黙れよ」


静かに、淡々と事実を突きつけられたボレアス・ドランガットの声は自然と小さくなる。


「ただなぁ……その甘さが、弱さが!!! 俺の家族の努力を貶して良い理由にはならねぇんだよ。なぁ……解るか? 解るよなぁ!!!!!!」


「ひぃぃいいいいいっ!!!!!!」


ラガスの怒りは全く収まっていない。

寧ろ……爆発するのはこれからだ。


「俺は見てきた! カロウス兄さんの努力を、ロウド兄さんの憧れを目指して進む姿を、クローナ姉さんの幾重にも重なる研鑽を、アリクの決して諦めない芯の強さを、クレア姉さんの前に進み続ける確かな意思を!!!! 俺は見続けてきた」


ラガスの家族に、努力をしていない者などいない。

全員が、目標に向かって努力し、歩き続けている。


それはラガスにとって誇らしかった。

本当に、胸を張って自慢出来る家族。


そんな家族の、きょうだいの努力を馬鹿にされたラガスが大人しく黙っていられ筈が無い。


「これ以上、俺の家族の……きょうだいの努力を侮辱してみろ・・・・・・ブチ殺すぞクソガキがッ!!!!!!!!」


「ひ、ひ、ひ、ああああああ・・・・・・」


殺気や怒気に敵意を全開で放出させているラガスの怒号にボレアス・ドランガットは耐え切れず……失禁しながら気絶してしまった。

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