悪くない感覚

「そんじゃ……そろそろやろっか」


「あぁ……戦おう」


アブストラクトを抜き、構える。

クロウザ・バレアントも槍を構える。おそらく風の魔力を補助する効果とかが付与されてるんだろうな。


向こうは既に魔闘気を纏っている。それだけでもクロウザがどれだけ鍛えてきたのか解る、感じる。

だから、俺も同様に魔闘気を纏って応える。


「ハァ……いくぞ」


普段、まずは相手の攻撃を避けて防いで手札を確認している俺だが、今回は珍しく初手から攻勢に出る。

殺す気は無い。でも、クロウザを倒す意志は込めている。


だから現状で手加減しているつもりは無かった。

だが、俺の斬撃は見事に受け止められてしまった。


「ぐっ、その体からは……考えられない程の力だな」


「魔弾ばかりに注目がいってるかもしれないけど、これでもしっかりと体は鍛えているからな」


「それは、こうして武器をぶつけ合うことで解かる。だが、まだまだっ!!!」


おっ、急激に腕力が上がった。

剣が押し返され、そのままバックステップで跳んで一旦距離を取る。


腕力を強化するタイプのアビリティを使ったか。それとも槍の……魔槍の効果か?

まぁ……とりあえず楽しめるって事だよな。


「我儘を言って良いか?」


「……言ってみろよ」


「俺と斬り合って欲しい……力尽きるまでな」


「・・・・・・ハッハッハ!!! お前……本当にバトルジャンキーだな」


確かに魔闘気は維持出来る時間がそう長く無い。

俺の場合は魔力量が多いからあれだが、普通の前衛タイプはそこまで魔力量が多く無い。

貴族の子息だからそこら辺は一般的な前衛と違うかもしれないが、俺よりは少ないだろう。


だから全力で戦って欲しいってのが我儘、か……良いぜ。乗ってやる。


「お前のその闘志、気持ち……本当に真っすぐだな。乗ってやるよ、その挑戦」


「そうか……感謝する」


もう一度お互いに構える……その瞬間、音が消えた。

セルシアと女の子が戦っている姿も視界から消えた。


目の前の、熱い闘志が迸っているクロウザ・バレアントだけが確認できる。

なんだろうな、この感覚。


言葉では簡単に言い表せない。でも、悪くない感覚。

なんて考えている間にお互い飛び出していた。


お互いの斬撃がぶつかり、空気を揺らす金属音が響き渡る。

力と力のぶつかり合い。


だが、その均衡はクロウザの技で終わる。

刹那の一瞬に押し合っていた筈の力が消えた。


その瞬間に危険を察知し、俺も剣を引いた。

おそらく矛先を巻き上げて武器を弾き飛ばすつもりだったのか?


まぁ、そんなのはどうでも良い。

望み通り……もっと斬り合おうぜ!!!!


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……お前は、スタミナも……半端では無いん、だな」


「まぁ、な……お前こそ、随分と持ったじゃないか」


魔闘気を纏い、補助アビリティを使いながらクロウザとどれぐらい斬り合った?

一分、三分、五分? 分からないな。ただ、充実した時間だったのは覚えている。


お互いにアビリティの技を使用し、ぶっちゃけ命に刃がギリギリ届く試合をしていた。

魔弾、音魔法に獣、鬼、竜魔法を除いた俺の手札を大体は使った。

というか……単純に速いな。セルシアには及ばないが、それでも速い。


でも、どちらかと言えば力の方がメインか。

力に関しては……セルシアより上か? 多分上だろうな。

それに、こいつの今までの経験は俺やセルシア寄りな気がする……実際話を聞いた訳じゃ無いから断定は出来ないけど。


ちなみにセルシアとクロウザ・バレアントの相棒の戦いは随分と前に終わっている。

まぁ……見た目だけを考えると接近戦は出来なさそうだったし、実際そうだったんだろうな。


「それで、まだ……一撃は残っているか?」


「……勿論、だ。お前の……あの一撃を、絶対に破る」


あの一撃ってどの一撃……あ~~~、あれの事か。

なるほどねぇ……かなり熱い斬り合いができた訳だし、その挑戦にも乗ってやるか。


「そうか。なら、まだまだ絞り出せるよな。俺も、お前の一撃に応える」


「光栄だな……今俺の中に残っている全てを放つ」


はっはっは、ここにきて闘志が衰えるどころか更に増すって……こいつ本当に振り切ってやがるな。

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