学生にしては中々だが……

「ふざけないで、まだ終わりな訳無いでしょう」


ラガスの事を完全に自分の敵だと認めたイーリスは詠唱しなければ発動出来ない中級魔法の詠唱に入る。


「俺相手に詠唱なんて余裕だな」


その隙を見逃す様なラガスでは無く、直ぐにその場から駆け出してイーリスに接近する。

しかしその行動を読んでいたイーリスは思わず口端が上がってしまう。


「それはどうかしら。アイスシールド」


初級魔法であるアイスシールドを無詠唱で発動したイーリスは氷の盾でラガスの視界を塞ぎ、その場から大きく跳躍する。


そして空中から着地するまでに何度もアイスボールを放つ。

その数は結果二十程放たれ、ラガスは集中砲火を浴びる事になった。


だが、数は多くても所詮は初級魔法であり、そこまでの攻撃力は無い。

アイスボールはラガスに直撃する前に全て砕かれ、氷の霧が晴れるとそこには無傷のラガスが立っていた。


「それで終わりって訳じゃ無いだろ」


「ッ! あなた、人を煽るのが本当に上手いわね」


「そりゃどうも」


そう言いながら今度はラガスの方からゆっくりと歩きながら距離を詰めていく。

何故自分のアイスボールが全て粉々にされたのか解らないが、それでも勝つためにわざとゆっくりと距離を詰めるラガスの隙を突いて高速詠唱のアビリティを使用しながらアイスランスを三本生み出し、時間差で放つ。


アイスランスが三本。氷の槍三本に対してそこまでビビる必要があるのかと思ってしまう者もいるが、氷系の魔法には厄介な特徴がある。


それは触れた部分から一定範囲を凍らすことが出来る能力だ。

その効果があるので基本的に氷系の魔法を紙一重で躱す様な真似をしてはならない。


それなら何故ラガスは触れることが出来たのかと、イーリスの心の中でずっと疑問に残っている。


(素手でアイスボールに触れれば絶対に手を凍らせるはず。腰に差している剣以外に装備している武器は見当たらない……本当に謎だわ)


その理由はラガスの魔弾というアビリティにあった。

ラガスはセルシアとクレアから事前にイーリスが氷魔法を得意としていると聞いており、イーリスとの試合が開始すると同時に氷耐性の効果を持つ魔弾を自身に付与していた。


時間制限はあるものの、ラガスの魔力量を考えればこの試合が終わるまでは余裕で持つ。

しかし氷耐性の効果を得たとしても完全に防げるわけでは無く、ラガスが後三秒ほどアイスボールから手を離すのが遅ければ氷の浸食が始まっていた。


因みに二十程のアイスボールに関しては魔弾一つを操り、全てを砕いてしまった。


「……まぁ、良いんじゃないのか?」


中級魔法であるランス系の魔法を複数発動するのは魔法職の間では高等技術であり、そう簡単にできるものでは無い。

ラガスもメイドと執事の大会をしっかりと見ており、そのなかでも魔法職の執事やメイドが中級魔法を複数発動している者はあまり見なかった。


(主人のメンツも懸かっているあの大会で実力を出し惜しむような奴はシュラとメリル以外にいないだろう。イーリスの歳も考えれば相当凄いんだろう)


観客の歓声、遠めだが少し見えた貴族たちの驚いた表情。

中には属性魔法が使えないにも関わらず、魔法に関しては同年代の者達より何歩も先に行っているイーリスと互角に戦うラガスに対して驚いている者もいる。


だが大半はイーリスの魔法の腕に対して驚いていた。

国の魔法師団の中にはイーリスを早速スカウトしようと考えている者もいる。


そんな中、ラガスは非常に冷静な表情で三つのアイスランスに対して対処した。


「拳弾」


拳に魔力を纏い、そのままパンチの勢いを乗せて放つ魔弾。

ラガスの拳から放たれた拳弾は三発。そのすべてがアイスランスに直撃し……ラガスの意志によって加えられた回転の効果で槍の部分を殆ど削ってしまう。


そしてアイスランスは元の姿からは考えられない程削られ、爪楊枝の様なサイズになってしまった。

体をほとんど失ったアイスランスは制御を失い……ラガスに当たることなく地面に激突する。


「なっ、あっ……なん、なのよ。その魔弾の威力は」


「別に大したことはして無いぞ」


アイスランスはイーリスの中で最も強い攻撃魔法という訳では無い。

だが、それでも威力には自信を持っている攻撃の一つだった。

にも拘らず、ラガスはそれを一瞬で原型が殆ど無い程に削ってしまった。


「……こんなもんか? まぁ、相性の差ってのもあるとは思うけど……それでも足りないな。アイスボールやアイスフロア、アイスシールドを無詠唱で発動するのはそれなりと凄いとは思うが、別に俺にとっては驚く内容じゃ無い」


ラガスはイーリスとの戦いで感じた事を素直に喋った。

一切悪気など無い。ただ……イーリスにとって自分の技量を大したことは無いと評価する事は、自分に氷魔法を教えてくれた人達を馬鹿にしている様に感じた。

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