意外な判断
殴って躱して殴って躱す。
お互いの拳速より躱す速度が上回っているので、攻撃が全く当たらない。
こいつ、単純に速いってのもあるけど、俺と同じで戦い慣れてるって部分もあるだろうな。
今のところ蹴りは使わずに拳のみでの戦い。
自分に飛んでくる攻撃が絞れるから予測もしやすいんだろう。
でも、ずっとこのまま殴って躱すのを続けるのも面倒だ。
バーナーの右ストレートを躱し、ギアを上げて腹に蹴りをぶち込む。
……本当に反応が速いな。
「がはっ、げほっ、ちっ。まだ速くなるなんてな。いったいどれだけモンスターと戦ってきたんだよ」
「特に娯楽が多い場所じゃ無かったんでな。お前こそ、結構反応出来てるな」
俺が蹴りをぶち込んだ瞬間、即座に腹筋を固めやがった。
まぁ、それだけでダメージを殺す事は出来ないと思うが、やらないよりまっしだ。
そこからは殴って蹴ってそれを躱してが殆どだった。
身体強化のアビリティを使い、バーナーは拳に火を纏わせての攻撃。
流石に火を纏った物理攻撃を紙一重で躱すわけにはいかず、余裕をもって避ける。
やっぱ見た目ちょっと不良でも、ちゃんとしっかりしてるんだな。
息が上がってきてはいるけど、それでもスタミナは多い方だ。
素手での戦い方はオーソドックスな形と喧嘩殺法? が混ざったような感じで、ちょっと自分に似てる。
魔物相手には基本的な攻撃を行っても体格差からあまり効きにくい。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……お前、どんだけスタミナあるんだよ」
「……実戦での戦いって、どれだけ長く続くのか分からないものだろ。だから長く戦える体を昔からつくっていた。まっ、お前も中々スタミナはある方だと思うぞ」
「全く息が上がっていない奴に言われても、なぁ……くそっ、俺の負けだ」
あれ、まさかの降参宣言?
俺達だけじゃなくて、連れの舎弟達? まで驚いてるんだけど。
「今お前と三分ぐらいか。戦い続けたが、俺の攻撃が全く当たる気がしない。それに、攻撃の方も全く本気じゃ無かっただろ」
「……一応な」
バーナーが身体強化を使ってくるから俺も身体強化は使って戦っていた。
時折、闘気を拳で放ってくるので、その時は同じく闘気の弾丸で相殺。
けど、バーナーはサルネ先輩やアリクと違ってまだ魔闘気使えない様なので、魔闘気を戦いの最中に使うことは無かった。
別にバーナーの事を良く知っている訳では無いのだが、てっきり勝てなくても最後まで戦い続けるタイプかと思っていたので、この冷静な判断には驚いた。
そして夕食時に約束していた料理が出る店に案内してもらい、ワイバーンのステーキを奢って貰った。
しっかりと香辛料も使っていて上手く味付けがされていて、何より肉の弾むような弾力がたまらなかった。
腹は満たされ、最高の気分になったところでバーナーから一つ宣言をされてしまう。
これからはアニキと呼ばせてもらうと。
それを聞いた俺の頭に点が三つ浮かび、何故に? と思ったがヤンキー風のバーナー達の見た目を考えれば納得がいった。
そして俺はバーナーだけでは無く、その連れ達からもアニキと呼ばれるようになる。
悪い気はしないんだが……やっぱしちょっと恥ずかしいな。
因みに俺のパートナーだからか、セルシアはバーナー達から姉御と呼ばれるようになった。
その呼び方を気に入ったらしく、随分と嬉しそうにしている。
寮に戻り自室で特に何もするわけでは無く、のんびりと過ごす。
「ラガス坊ちゃまは随分と他の方から慕われるようになりましたね」
「いや、そう……なのか? よく分からないけど、今回は全く予想してなかった結果だった」
単純に俺が本当に強いのかどうか知りたいだけかと思っていたが、まさかアニキと呼ばれるとは。
「ラガス坊ちゃまは普通に接してくる相手には普通に返し、調子に絡んでくる相手にはそれ相応な態度で返す辺りが良い印象を与えるのではないでしょうか」
「今のところ学園でそういった面倒なイベントには絡まれてないと思うんだけど」
メリルの言う通り、こっちを馬鹿にした様な態度で絡んでくる相手にはしっかりとこっちも馬鹿にした態度で返すけど。
だって、どんなにそいつの親が偉かろうが、そいつ自体は偉くも何ともないんだし。
「それはそうとラガス坊ちゃま、遠くない内に行われる学園内の対抗戦には出場するのですか?」
「……ダブルスに関しては出ないといけないだろうな」
多少面倒に思うイベントではあるが、祭りみたいなもんだし楽しめる筈だ。
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