作品の説明

思ったよりも散らかっていなかったな。

確かに無造作に本や書類が重ねられているが、別に邪魔とは感じない。


「さて、この部屋には防音の効果が付与されているからどんな内容も私以外の人間が聞くことは無いわ」


「分かりました。造った作品はこれです」


予め持ってきていたケースの中から手甲を取り出し、ヴィーネ先生に渡す。


「手甲の魔道具……また珍しい物を作ったのね」


「そうかもしれませんね。サイズは自動調整されるので付けてみてください」


「分かったわ。……うん、しっかりと機能している」


そこは何度も確認したからな。

まずは使い手によってしっかりと合わせられなきゃ意味が無い。


「そしたら手甲に魔力を流してみてください」


「魔力を流して……へぇ~~、なるほどね。もしかしてこの手甲は後衛職用に作ったのかしら?」


「そうですね。前衛後衛関係無く使えますけど、自分はそっちをメインに考えて造りました」


防御とカウンターが同時に行えるのがメイン機能。

まっ、しっかり相手の攻撃を防御出来る反射神経と技術が必要だろうけど。


「でも、結構見た目が普通というか……後衛職が付けるには似合わないね」


「今回は性能を重視してましたからね。というか、そのセリフは俺が造ったその手甲を完全に使いこなせる人だけが言える言葉ですよ。先生は別だと思いますが、二流止まりの後衛職が装備のデザインを気にするなんて百年早いかと」


「……ふふふ、確かにそうね。デザインなんかに拘っている戦闘職の大半は一流になれない半端者。その歳でそこまで解ってるのは凄いわ」


自分で思ったんじゃ無く、他人から与えられた知識ですけどね。


「結界タイプの魔道具を造ろうと思わなかったのは何故?」


「造ろうと思えば造れると思います。ただ、結界タイプの魔道具は使用者の危機察知能力を衰えさせると思ったので」


「……話を続けて」


「結界を張ればとりあえず一安心、使い続けていればそんな感覚を常に抱くと思うんですよ。結界が強固であれば強固であるほど。ただ、本人が相手の力量を瞬時に見抜ければあれですけど、それほどの観察眼が無いのなら結界を超えるパワーで潰されておしまいです」


モンスターは、人は相手の予想を超える手札を隠し持っている。

俺もその例に当てはまるだろう。魔弾なんて、その言葉から解る以上の能力を持っている。


「だから、相手の攻撃を直接防ぐタイプの魔道具を造りました。物理攻撃に限定されますけどね。その点を考えれば結界タイプの魔道具の方が有能かもしれません。あっ、後その回転する刃はただの魔力だけでは無く、他の魔力でも起動出来ます」


「あら、本当ね。確かに物理攻撃に対して有効な魔道具かもしれないわね。でもあなたの歳を考えれば十分過ぎる。百点中、百二十点ね」


「ありがとうございました」


予想外の高評価。

良くて九十点ぐらいかと思っていたが、確かにヴィーネ先生の言う通り俺の年齢を考えれば妥当なのか。


「それに、あなたの戦いに関する思考も百二十点ね。もしかして学園に入学する時間まで暇な時間はモンスターを倒してたりしていた?」


「はい。特にめんどい事を勉強する必要は無かったんで、大抵の時間は訓練とモンスターを倒すのに使っていました」


「……冗談のつもりだったのだけど、本当だったようね。それならあの強さも納得よ。レックス先生の自慢話もね」


「れ、レックス先生が何を話していたんですか?」


あんまり話さないで欲しいんだが……教師になら良いか。言いふらさないだろうし。


「タダで良い試合を観れた。絶対にラガスの名はハンター界に轟くだろうって嬉しそうな顔で話していたわよ」


「普通に恥ずかしいです」


一つ目は良い。そう言ってもらえて光栄だ。

ただ、二つ目に関してはマジでホイホイと言って欲しくない。


俺はのんびりとハンター人生を楽しめれば良いんだから。


「あまりそういう話はしない方が良いと私の方から伝えておくわ」


「ありがとうございます」


「ねぇ……一つ、聞いて良いかしら?」


「はい、大丈夫ですよ」


今回の手甲にどんな素材を使ったかか?

でもヴィーネ先生なら大体解ってそうだよな。


「あなた、おそらくこれ以外にもしっかりとした……誰にも真似されない様な作品を造ったことがあるわよね」


……先生ってもしかして本業は錬金術師じゃなくて探偵なのか?

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