・・・・・・弱
時間が十二時となり、訓練場には決闘を行う俺とアリクと審判の父さん以外に兵士さん達や母さんにロウド兄さん、そしてクレア姉さんと新しい家族である双子の兄妹。使用人の人達もちらほらいる。
そしてアリクが恋をしているメリルも当然この場にいる。
母さんとクレア姉さんは俺の事を応援している。
ロウド兄さんは中立の立場を取っているのか、無言で立っている。
弟のレアードと妹のセリスも舌足らずな声で俺を応戦してくれている。
使用人達と兵士の人達は俺とアリクのどちらかが勝つか、金を賭けているみたいだ。
割合は俺が七でアリクが三。
こいつ・・・・・・本当に信用と言うか、そういうのが無いんだな。
「よし、十二時になった。これからアリクとラガスの決闘を行う、賭けの内容はアリクが勝てばメリルをアリクの専属メイドに。ラガスが勝てば望みを俺が叶える。異論はないな」
「「はい!!」」
自身が勝てば貰える賭けの対象を聞いたアリクはチラッとメリルの方を見ていたんだが、お前・・・・・・とんだマセガキだな。
体格差では確かに俺が完全に負けている。剣術に関しても今のところ経験の差でアリクが上。
ただ、それだけで俺に勝てると思っているなら、随分と下に見られているみたいだな。
お互いの武器は木剣のみ。
だが、父さんは木剣以外を使用してはならないとは言っていない。
それなら俺の勝機は十分にある。
「勝負の判定はどちらかが戦闘不能、又は俺の判断で危険だと思ったらその場で止める。それでは・・・・・・始め!!!!」
父さんの掛け声と共にアリクが俺に向かって駆け出してく
「はあああああああ!!!!!」
構えは上段。狙って来る箇所は・・・・・・脳天? こいつ、もしかして俺を殺す気でいるのか?
俺とアリクの距離はおよそ十メートル。今すぐ倒す事も出来るけど、それは止めておくか。
距離が近くなるにつれてアリクの口角がどんどん上がっていく。
俺が未だに指一つ動かしてないのを見て、怯えて動けないとでも思っていそうだ。
そんな事ある訳無いのにな。
「・・・・・・」
無言で右腕を上げ、銃の形を作って人差し指に魔力を集める。
まず狙うのは木剣。
「魔弾」
放った魔力の弾丸は上段に構えながら走るアリクの木剣に命中する。
「っ!!! な、なんなん」
「決闘中に相手の姿を見失うならともかく、自分から目を逸らすとか・・・・・・舐め過ぎだろ」
もう一発、あるところに向かって魔弾を放つ。
「ぬあッッッーーーーーー!!!!! ・・・・・・・・・・・・」
俺が放った魔弾はアリクのがら空きな股間に一直線に向かい、睾丸に直撃した。
・・・・・・周りを見れば男性陣はみな股間を抑えている。
もし自分が魔弾を股間に喰らったら・・・・・・そんな事を想像してしまったんだろうな。
母さんとメリルは口元を抑えて引き攣っているのか?
クレア姉さんは大爆笑しているな。レアードとセリスは・・・・・・何が起こったのかいまいち理解していない感じか。
睾丸に魔弾を喰らったアリクは地面に倒れ伏してピクピクと動いている。
・・・・・・死にかけのカエルみたいだな。
「・・・・・・これでチェックメイト、だ」
左持っていた木剣を後頭部に添えて勝利宣言をする。
「父さん、これで俺の勝ちですよね」
「・・・・・・あ、ああ。そうだな。にしてもラガス・・・・・・お前中々にえげつない攻撃をするな」
確かにえげつないと言える攻撃かもしれないけど、弱点を狙うのは当たり前の行動だからな。悪いとは一切思わない。
俺は喰らいたくはないけど。
「単純に弱点を突いただけですよ。それに・・・・・・戦いの最中に視線をそらすこいつの方が悪いんですよ。睾丸は、心臓とかと違って骨や筋肉に守られていない。それなのに攻撃を貰えば激痛が走る。そんな部分への攻撃を警戒しないなんて信じられないです」
「・・・・・・うん、確かにお前の言う事は間違っていない。ただな、それをまだ七歳のアリクに常に気を付けろと言うのは少し無理があると思わないか? 五歳のお前に言うのも少しおかしい気がするが」
「確かにそうかもしれないですね。ところで父さん、俺の勝ちだと宣言して貰ってもいいですか」
アリクがここから逆転できる可能性はゼロだけど、これは決闘な訳だから審判の父さんに宣言して貰わないと。
「おっと、それもそうだな。この勝負、ラガスの勝ち!!!!!!」
父さんの宣言により決闘を見ていた観客の声が上がる。
賭けに勝った人は喜んで、負けた人は落ち込んでいる。
俺の勝ちが決まった事でメリルの表情が柔らかい物になってる・・・・・・もしかして俺が負けるもって思っていたのか?
まぁ・・・・・・アリクが俺と同じく奥の手を持っているのなら話は別だけど、様子を見る限りそんな物は無さそうだ。
用事が終わったので俺は訓練場から出て行こうとする。
「ま、待てよ・・・・・・お、俺はまだ戦える。だ、から。逃げるんじゃ、ねぇ・・・・・・」
「・・・・・・はぁーーーー。足プルプル振るわせて何ほざいてんだよ。お前が蹲っている間に俺はお前を殺す事だって出来たんだぞ。それともなんだ、木剣以外の攻撃は反則だって言いたいのか? そんな漢らしくない奴にメリルを譲るとか・・・・・・絶対に無理だ」
ほんっと・・・・・・いくら何でも諦めが悪すぎる。
・・・・・・結構イライラしてきたな。
「真剣に努力しない雑魚が吠えてんじゃねぇよ」
多分、こんな低くて冷めた声を出したのは前世も含めて初めてだと思う。
「あ、あああ、ああああ・・・・・・・・・・・・」
ん? このアンモニア臭・・・・・・もしかしてこいつ漏らしたのか?
理由は分からないけど、大勢の前で失禁って。恥ずかしいにも程があるだろ。
「全く、お前は本当に凄いな。ラガス、今かなりイライラしているか?」
「・・・・・・そうですね。今までで一番イライラしています」
「そうか。後で自分のアビリティを確認してみろ。何かしら増えている筈だぞ」
アビリティが増えている? 特に何か新しい感覚を得たって気はしないんだ、父さんが言うなら何かしらのアビリティが増えてるのかもな。
「ラガス坊ちゃま、お疲れ様です・・・・・・とは言っても、汗一つ流さずに終わりましたね」
「まぁ、アリクが相手だからな。隠し玉でもない限り負ける可能性は殆ど無い」
「確かにラガス坊ちゃまの実力を考えればそうかもしれませんね。それとラガス坊ちゃま・・・・・・」
急に視界が真っ暗になる。というか・・・・・・顔に少し柔らかい感触が。
「私を守ってくれて有難うございます」
「・・・・・・メリルは俺の専属メイドだから守るのは当たり前だろ。というか・・・・・・少し恥ずかしいから離してくれないか」
大勢の人前と言う事もあって、普通に恥ずい。
というか、横から走って来るような足音が・・・・・・。
「良くやったわラガス!!! 流石私の弟ね!!!」
「むぐ!!??」
メリルの抱擁から解放された思ったら今度はクレア姉さんに抱き着かれた。
姉さん、喜んでくれるのは嬉しいんだがそろそろ苦しいから話してくれ。
折角決闘に勝ったに窒息死してしまう。
「あら、ごめんなさいラガス。少し興奮していたわ。メリルも良かったわね。あんな欲望丸出しの男の専属メイドにならなくて。私なら死んでもごめんよ」
「それは流石に言い過ぎな気がしますが・・・・・・ですがクレアお嬢様の言う通り、ラガス坊ちゃまが勝利して本当に嬉しかったです」
メリル、褒め言葉はありがたいんだが出来れば本人のいない所で話してくれ。
一先ず決闘は十秒程で蹴りが着き、俺は自身の望みを叶えて貰う権利と新しいアビリティを手に入れる事が出来たようなので、最初は面倒と感じていた決闘だったけど結果オーライな形で終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます