リーリーリー



人は信頼を置ける場所に拘(こだわ)る。

薬を飲ませてハイそうですか治りましたか…… では済まない。


冒険者が作った万能薬なるものを飲んでお嬢様の呪いが解かれたと見た目にも体調的にも分かるが、人の噂やしがらみ、親の思いはそれを許さない。



「王都の掛(か)かり付け医に診断を願う。もし王都に帰るなら追加の費用を出すので護衛を頼めないだろうか? 」


これで完治との診断を得れば貴族界でもヨーネフ氏の娘であるエリアル様がデビューして問題ない事になるだろうし、何よりヨーネフ氏がエリアル様の呪いによる病が再発しないか知れる事になる。


俺は快くその護衛依頼をシャティと受けた。


何より、ヨーネフ氏と同じに王都へ帰るとなると一段、意味が違う。


俺とシャティだけが帰るならただの・・・護衛クエストを終えて帰還した冒険者


クエストの護衛を受けた貴族との帰還となると門兵や貴族の受付、果ては冒険者ギルドからの覚えがよろしい。


貴族にそれ程に頼られる冒険者となると仕事の質も変わる可能性がある。


しかも王都へ帰りの道はエリアルお嬢様がシャティと話したいとの希望があり、シャティとヨーネフ氏、お嬢様が車中で俺は御者台の端に座れる事になった。

徒歩による疲労もなし、道中に魔物が出れば目減りしたluckを吸い取る事もできる本当にありがたい話…… だと…… 思っていたのだが……


「ダンデスさん! あれは何ですか!? 」

「あれは湖ですよエリアルお嬢様」

産まれてからすぐに呪いにかかり病弱で外を寝床から見た事が無かったエリアルお嬢様がやたらと御者席に話しかけてくるのだ。


せっかくなので御者の馬の捌き方を勉強したかったのだが。



休憩中も何故かエリアルお嬢様は俺の側に寄り添いあれやこれやと頬を染め恥じらいながら質問をする。


理由は分かる。

シャティだろうな…… 彼女がお嬢様と一緒にいる間、俺の事を話しまくったのだろう。


貧困農家の娯楽も少なく過ごした娘

病魔に冒され動く事もままならなかった娘


その2人が俺の話題をすると、異性として興味が湧くのは当たり前かのぅ。

まぁ…… 貴族サマは貴族サマ、これから様々な縁談も持ち上がるだろうし一時の思い違いといつか思う日が来るだろう。


それに彼女はクライアントの娘、せいぜい優しくしてやるさ。

…… 何故にヨーネフ氏はそんなに睨むのだろうか?


…… こらこら、シャティ嫉妬で泣くんじゃありません



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


王都に帰りつきそのままヨーネフ氏と同行する事になる。


氏は先触れを出していたので王都の入門と関税の問題は済ませた後だったので楽だ。


やはり貴族の既得権益は素晴らしい。

「エリアルお嬢様、これよりは王都です。我々は市井の者らしく下車して随行しますので…… その…… お離れ下さいませんか? 」

馬車の御者台にいた筈の俺の席は今は馬車の中で…… 俺の両手には花があり、向かいには元騎士のガタイが良い鬼神の如く面構えで睨みを効かしている。


狭い馬車の中でこの状態がしばらく続いているので俺の背中はとうとう脂汗を過ぎて冷たく震えさえ始まっている。


いや、ヨーネフさんよ流石(さすが)の俺も貴族サマの娘に手を出しはしませんよ?


「いえ! ダンデス様は私の命の恩人! 歩かせるなんてそんなそんな! 」

「…… ダンデスさん、いいですね馬車を降りてゆっくり歩きましょう」

「…… チッ! 」


ヨーネフ氏は御者台への馬車壁をトントンと叩き車輪を止めさせて、貴族らしくなく自ら馬車の扉を開き俺を降ろすと少し早めに馬車を走らせる


ありゃ? シャティは歩かんのか……

「全く、色男の顔は要らんな…… 」

ゴンと拳で己の顎を殴るが慰めにもならん。

銘肌鏤骨、娘親を嫉妬させてはならぬ…… というところか



ため息しか出んわこりゃ……

俺は拗ねたようにイヤイヤと馬車に遅れながら追跡をした——————————————————————————……

……—————— たどり着いた場所は貴族街の中央、貴族用の商業区という風な場所だった。


[リー・リー・リー診療所]


看板にはそう書いてあり、つまりここはヨーネフ氏の家にあった錬金術師との繋がりを分からせた。


「しかし…… ファンシーな…… 」

「あ、ダンデスさん! やっと来ましたか!? 」

診療所の見た目はまるでスペインのガウディ建築のようにクネクネとした意匠を凝らしていた。


あまりに面白い建築なのでぐるりと観察していたらシャティが少し怒り顔で駆けつけた。


「—————— ヨーネフ様に聞きましたよ? 私、ダンデスさんから離れる気はありませんからね! 」


俺を蹴落とした後の馬車の中でヨーネフ氏の希望・・を聞いたのか。

「しかし、シャティよ貴族様の家臣になれるなんて夢の中の夢なんだぞ? 」

「それでも、です」

顔を真っ赤にして俺の腕にシャティはしがみつく。

その態度で断る理由を表しているようだが…… うーむ…… とにかく今は保留だな。


それより……


「何ですってーーー! ば…… 万能薬を飲んだですってーー! 」

診療所内から幼い女の子の叫び声が聞こえる。

厄介な事にならねば良いが……


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