エリアルさん
ヨーネフ氏との会食は早かった。
万能薬を作った現場にいた執事が良い様に進言したのだろう。
すぐに万能薬を飲ませる事もできるが、報酬を約束した事柄なのでやはり見せ場が必要となる。
夕方、万能薬を作るのに使ったシャティの残り
「ふぅ…… ホントにダメだよシャティ」
「…… すみませんダンデスさん…… グスッ」
ただ、今回は実りもあった。
俺にもなけなしの幸運を自分に付与したらluck同士が反作用してシャティの幸運が運のめちゃくちゃいい人レベルまで落ち着いたのだ。
それはさておき、ヨーネフ氏との会食だ。
普通は冒険者風情が貴族様と同じテーブルで食事をする事なんか出来ない。
それが叶った理由である卓上に置いた万能薬をヨーネフ氏はジッと見つめる。
食事のテーブルは俺とシャティが並び4メートル程離れた場所にヨーネフ氏とお嬢様が座っている。
食卓の四隅から3メートルの所に格式ばった衣装を着た騎士が一人ずつ邪魔にならないように待機している。
俺とシャティの近くの騎士(ヤツ)は剣を携帯しヨーネフ氏の近くの騎士(ヤツ)はロッドを杖の様に床につき微動だにしない。
一見、荘厳な雰囲気を出すイミテーションに見えるが俺たちの方だけ近接武器ってのが意図が見えて笑えてしまう。
もし、万能薬が偽物かまたは俺達が抜刀をしようものなら一気に首を刎(は)ねるつもりだろう。
テーブルの長さは剣の先が余裕でヨーネフ氏とお嬢様に届かない距離にしているんだろう。
いや、そう牽制して俺達の本性を見たいのか?
「冒険者2人に乾杯」
「ありがたき言葉をお受け致します」
ヨーネフ氏の乾杯の後、簡素ながらも勢を凝らした食事がコースで順次運ばれてくる。
「これ、シャティまだ来るから焦らず食べなさい」
「ふぉ!? すみませんダンデスさん。とても美味しくて…… 」
まるでリスのように前菜から詰め込むシャティを小声で怒ると大声でシャティは謝る…… マナーの練習をせねば嫁がせれんなこりゃ……
「ぷっ! あははは…… 失礼、、つい」
お嬢様はシャティとの関係が良好なのか笑顔で和んでいる。
そのお嬢様には王都から帰る時に就いていたメイドが外科手術中の助手のように常にハンカチでお嬢様の顔や首を拭う。
ハンカチは銅製の盥(たらい)に浸しまた拭うを繰り返す。
そうかポーションか、ポーションを布に浸して塗布しているのか…… 王都からの帰還中どう対応したのかという謎が明かされたな。
「しかし…… シャティが自慢しているのも分かりますね。ダンデス様は本当に美しい」
「…… お、お褒めの言葉と思い…… 美しいお嬢様からの言葉ありがたく思います」
え? 美しいは…… 男への賛辞なのか?
いや、呪いの肌以外の部分を紅く染めてお嬢様は笑っているから…… 褒めてるのか?
人生で美しいと言われた事が無いので狼狽えてしまう。おい、シャティ大声で笑いなさんな。
少しヨーネフ氏の目線が怖くなり、デザートが運ばれて来ると談話が始まる。
シャティとお嬢様の事
リー・リー・リー氏の事
錬金術の部屋の事……
ヨーネフ氏は万能薬の事を匂わせながらも本題となる「万能薬」という言葉を出さない。
なるほど、強請(ねだ)るのではなく献上するという立ち位置をヨーネフ氏は望むようだ。
貴族とは面倒なものだな。
俺は机に置いた万能薬をついと持ち上げ
「ちょうど良かった、ここに万能薬があります。お嬢様にお試し頂く事は叶いませんか? 」
と白々しく部屋にいるヨーネフ氏やお嬢様だけではなく、騎士や女給にまで聞こえるように唱えた。
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冒険者、ダンデスが私の目を見ながら万能薬の言葉を発する。
彼は若く見えるのにどうも人生を長く生きているようで失敗がどういう事になるか理解しているようだ。
—————————長命、長く若い見た目のエルフとのハーフだろうか?
ダンデスは万能薬を女給に渡し、私の手元へ。
…… 確かクーのヤツは言ってたな
「もーー! 何回やっても万能薬にならない! 成分は合ってるハズなのになぁー! 気泡がある黄金の薬液にならない! 」
クーはエルフ族で知恵の木というスキルを神から得た女だったが万能薬を作る事が出来なかった。
小さな幼女のような見た目でプンプンと怒りながら王都へ万能薬の資料を漁りに行った姿を思い出す。
さて、ダンデスの渡した万能薬はまるで太陽の光が反射したひまわりのように黄金でプツプツと泡が立っている。
ワイングラス半分に満たない薬液は宝石やレアモンスターの魔石のような存在感がある。
「…… 飲ませるべきか…… 」
私の呟きを聞いたか娘のエリアルがジッとこちらを見る。
エリアル付きの女給など、ポーション塗布の仕事を忘れ息ひそめている。
「お父様」
「…… 毒…… の可能性もある」
「お父様」
「お前を……失うわけにはいかん」
「私は覚悟を決めています…… それに…… シャティに聞きました。お父様が私の死んだ後にしようとしている事」
その目はなんと妻に似ている事か……
ああ、なるほど私は毒や何かと言って怖がっているだけか……
「おしゃべり、 」
「ぶぶぁ! すみませんダンデスさん! お嬢様ぁ〜〜」
ダンデスとシャーンティの声にエリアルがクスリと笑う。
「飲んでくれるか? 」
「もちろん、絶対に大丈夫な予感がするんです」
エリアルは私から万能薬を受け取り、一つの気がかりも無いようにスルリと飲み込んだ。
キラキラキラと朝露の光のようにエリアルが光り輝く。
「……お! 」
エリアルが何か詰まったような言葉を発する
もしや…… 本当に毒が!?
私はダンデスの近くに控える騎士に目をやると騎士は柄頭にまで手をやる。
「おいしい! この万能薬おいしい! シュワシュワして! 」
ズリっとエリアルの言葉にコケそうになる。
…… 万能薬はおいしいのか
光が治るとエリアルの肌が……
「エリアル! 」
ハッとエリアルが自分の手を見る
「お父様! 」
涙を流すエリアルの肌は透き通るような白に変わっていた…… そうか、エリアルお前の肌は妻と同じ肌の色だったのか!
涙など人前で見せた事がない私が、、涙が止まらない
「まだです!!! 」
ダンデスが叫ぶ。 その目線はエリアルの上!
解呪した事で呪いが宙に浮き上がっていたのだ。
まるで嵐の日の雲のようなそれはエリアルにまた入り込もうと空をグルグルと回る
私に入らせれば良いのだ! それでエリアルは幸せになる!
私は呪いの雲に飛び上がりそれに当たろうとすると、パリーン!という窓の割れる音と共にカラスが呪いの雲に飛び込む。
ギャーーギャーーー
まるで人間のような叫び声でカラスはのたうち回る。
どういう事だ!
こんな偶然、ある訳がない…… 飛んでいたカラスが窓を破って娘にかかっていた呪いを身代わりに受けたというのか?
危機意識のあるカラスが…… ?
「ふぅ、なんとか間に合った……
「ダンデスさんさっすがです! 」
声の方を見るとダンデスが窓に手を向けシャーンティがそれを崇(あが)めている。
彼が、これを全てやったというのか?
私は震える娘を抱き寄せ、恐ろしい力を持っているかもしれない少年から目が離せずにいた。
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