ヨーネフの娘
初めての出会いは衝撃的だった。
喉が乾いて、お腹が減って、服も汚くて、体が痛くて…… もう次の魔物が出たら殺されてもいいかなと諦めていた時に私を抱きしめて助けてくれた。
綺麗な男の人…… まるで物語の英雄のよう……
私は目が覚めたらこの綺麗な人が消えるんじゃ無いかと必死だった。
————目覚めてもダンデスさんは私の側にいてくれていた。
私はダンデスさんの仲間として働けるようになれた。
冒険者パーティーになる為のダンデスさんからの要求は…… この世界の物語や歴史、それに国の名前や宗教について寝る前の時間にお話しする事だった。
しっかりしている人だから私なんかの話じゃあ飽きられるんじゃないかな…… と心配だったけどダンデスさんは子供でも知っているこの世界の事を「分からない」 と質問してきて、私の答えに併せて私の父や母はその話の事柄にどういう反応をしていたかを聞いてきた。
ひょっとしてダンデスさんは他の世界の人だったりして…… うふふ、 そんなわけないか。
今、私は護衛の仕事に成功して貴族のヨーネフ様の家臣の宿舎で泊まらせてもらっている。
農民の時の生活じゃあ考えられないわ。
フワフワのベッド、柔らかなお肉が出る食事…… はぁー…… 本当に贅沢……
これでもヨーネフ様はカツカツらしい…… ダンデスさんが言っていたから多分、本当。
こんなに水も綺麗なのに…… ホントかな?
それにヨーネフ様の王都への買い物も凄い高価な物だった。
ヨーネフ様の買い物はなんたって[ポーション]なんだからね!
ポーションだよ!?
出産に使う時にやっと買えるポーションだよ!?
それを大量に買ったんだって!
…… お嬢様に使うってダンデスさん言ってたから、もしかして…… お怪我でもされたのかしら?
部屋で大の字でベッドを楽しんでいたら扉のノック…… 多分、ダンデスさんだ。そうだったら嬉しい。
ガチャっと扉を開けると大好きなダンデスさん。
「シャティ、ヨーネフ様がお呼びだが…… どうする? 」
ダンデスさんは私の意思をまず聞いてくれる。
私はダンデスさんに抱きつきたいのをグッとガマンして頷く。
「はい! その方がダンデスさんが嬉しいなら! 」
ダンデスさんは困った顔で私の頭を撫でる。
嬉しいけど、違うの抱きしめて欲しいの。
きっと身長が足りないからだ…… またジャンプして身長伸ばすゲームをしなくちゃ。
ダンデスさんが言ってた[ばすけっとぼーる]の人はジャンプしてたら身長が伸びたらしいし、まだ私にも成長の余地があるはず!
ばすけっとぼーるって何?
私の恋心が届くように祈ってダンデスさんに精一杯、笑顔でお嬢様に会うと答えた。
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「ふわぁぁ…… メイドさん、これはなんです? 」
「ここはお嬢様のお部屋です。あまり大声を出さぬようお願い致します」
「ふぇぇ…… 」
私はヨーネフ様のお嬢様の部屋に入ると唖然とした。
何というか昔、私がもっと小さい頃の豊作だった時期に生活の潤いを察した商人さんが子供達に絵物語を用意してくれた事があった。
版画の絵が木に写されたもので、確か高名な錬金術師さんの話だった。
その錬金術師さんの研究所のようなイメージがそのままお嬢様の部屋にあった。
大きな木の桶が天井に吊るされ、そこから中身の液体が桶の下に設置した漏斗(ろうと)に溜まりゆっくりと流れ落ちるようにクルクルと螺旋に巻いた銅のストローに流れる
途中で赤く光る魔石…… 多分、火の魔石と光の玉…… 聖神魔法の魔道具かしら? それの近くを銅のストローが通り中の液体を温めて…… 猫足のバスタブに流れ落ちる。
この匂いは知ってる。
薬草臭くて魔力臭い匂い…… ポーションだ
高価なポーションを効果が下がる温めをして風呂に入れているんだ。
目線がバスタブに行くと女の子と目が合う。
その子は肌が人の色ではない紫色の斑点が顔にまであり目や唇は疲れてくすんでいる。
女の子の
「シャティ様…… 」
横にいて私を部屋に誘導してくれたメイドさんが動かない私を現実に戻す。
そうね失礼ね。
部屋にいる数名のメイドさんはバスタブに浸かり虚の女の子を甲斐甲斐しく介護している。
多分、この女の子がヨーネフ様の娘、お嬢様なんでしょう?
私はバスタブに近づき頭を下げる
「えっと、えっと、私は冒険者をしてますシャーンティと申します。えっと、えっとよろしくおねがいします。 」
ダンデスさんがいないのに私だけで高貴なる人と対面していると思い出しなんか…… なんか変な事を言っちゃった!
「そう…… よろしく。アナタが王都から護衛してくれた冒険者さんかな? ダンデスさんダンデスさんと楽しそうにしてる声は聞こえていたわ」
虚ろな目のままお嬢様はフフッと笑う。
「うへえぇぇ…… そんなダンデスさんって言ってないですよ! あれ? 言ってましたっけ? 」
「…… 羨ましいわ…… 恋ね…… 私にはもう無理なもの」
お嬢様は自分の肌を無感情に見る。
あぁ、この人は散々な目にあってきたんだな……
私がお父さんに棄てられた日もこんな目をしていたのかな?
私はお嬢様の手を握りしめていた。
「…… はじめて」
「はい? あ! すみません…… なんか…… なんか…… 」
可哀想で…… という言葉を飲み込む。
「私のこの肌を見て、私にすぐに触れたのはアナタが初めて…… 伝染病じゃないと知らされても握られた手は汗ばみ汚い物を触るようにすぐ引っ込められるのに」
「え? そうなんですか? 」
なんで? みんな普通に働いてるし
「お嬢様、可愛い顔しとるのにねぇ? 」
「………… バカに…… してる? 」
お嬢様が自分の頬にまで来ている紫色の痣をスッと隠すように触る。
「いえいえー、顔小さいし目なんて私より大きいし絹のような金髪だし胸だって私より大きくて…… 大きくて…… やっぱり男の人っておっぱい大きいのが好きなんですかね? 」
私の矢継ぎ早な質問に面を食らったお嬢様は大笑いした。
メイドさんは何が起きたか分からず私を取り囲み、私はお嬢様が笑い終わるまで何故か謝り続けた。
「あなた、シャーンティって言ったわね」
「はい! 長いのでみんなにはシャティって呼ばれてます! 」
「…… ねえ、私の愚痴にもっと付き合ってくれない? 普通の女の子同士の会話って初めてで…… 楽しいわ」
「はい! あ、でも私これでも13歳なんですよ! お姉さんですよ!たぶん! 」
「え!? 」
あーやっぱり私は幼く見えるかージャンプして身長伸ばすゲームをもっとしよう……
「そっかーお姉さんかー…… フフッ…… シャティそれでねーーー————————————————————————————————————————————————————…………
—————————————「というわけです」
「なるほど」
シャティの話を聞いてわかった。
ヨーネフ氏の領土が貧困なのではない、ヨーネフ氏
高価なポーションを買い集め、皮膚に呪いを受けた娘に文字通り湯水のように使い続けている…… そりゃあ金に困るわ。
王都に行っていたのも風呂用のポーションの買い付けと娘の診察…… 金貨一枚の俺たちへの報酬も惜しかっただろうに。
ヨーネフ氏は元々は騎士をしていて、領土を広げる際に陣頭指揮を執った————— つまり、この場所だな。
その時に、ここの土地を守る悪霊系の魔物に呪いをかけられたそうだ。しかし、そこは王都騎士で事前の斥候よりの情報で魔道具という物を首からぶら下げていたので呪いにはかからなかった。
そのまま、光の魔法がかかった剣で悪霊を一刀両断にすると喜び勇んで家に帰った。
王都の貴族邸に帰った時には火の消えたような静かさだった。只ならぬ雰囲気に焦り臨月の妻が寝る部屋にヨーネフ氏が走ると…… 全身の肌の色を紫色と緑色に変えた妻の亡骸と出産を終えた娘の寝息があった。
ヨーネフ氏は泣くのを堪え娘を抱こうとすると、娘を囲むメイドが顔を逸らすのに違和感を覚える。
「————— まさか! 」
ヨーネフ氏は娘の産着を剥がすと娘の腹に
《やあ、騎士どの呪いは家族に及ぶものだよ。楽しい人生を! 》
と紫色の文字が書かれていた。
「くっ! 」
ヨーネフ氏はこの妻と子供を不幸にした元凶が領土拡大の為に斬り消した悪霊と、こういう事態を想像出来なかった自分にあると後悔した。
「しかし、娘は幸せにしてみせる」
ヨーネフ氏は独り言を呟き生まれた娘を抱こうとしたら腹の文字がズリズリと動き変わる
《おっと! ダメダメ! 》
その文字はさらに移動して脚に行き妻を殺した紫色の斑点になって残った。
こうして、ヨーネフ氏は耐えきれなくなって泣いたのである。
—————————————————————————— よくそこまで聞けたな? 」
俺はヨーネフ氏の話を聞いてシャティに感心する。
「いえー、 お嬢様は暇で暇で仕方なかったようでメイドさんや執事さんを含めて色々な人間に自分の事を聞いていたようで…… 話して憂さ晴らしをしたがっているようにも見えましたから」
「そうか…… 可哀想にな」
憂さ晴らしではなく、聞いてもらい慰めて欲しかったんだろうよ?
「…… シャティ、どうしたい? 」
「ふぇ? 」
「ヨーネフ氏の娘をどうしたい? 」
「…… 治せるなら…… 治したいです」
俺はシャティに頷く。
娘を治したらヨーネフ氏の信頼を得れるだろう。
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