旅中


海外の旅行に行った時に現地で金銭感覚がおかしくなる時は無いだろうか?


———この人形は10ドルデス

———ああ、そうか10ドルね、はいはい

と円換算を端折る場合が俺にはあった。



この世界に来てからもそれが続いている。


心の底では現実味がまだ無くフワフワしているんだろう。危機感をもっと持たないとな。




「すまんな…… 地方の貧乏領だから金一枚しか報酬が出せん」

「いえ、」

仕事始めに集合場所でヨーネフが馬車の窓から顔を見せ謝罪をする。


————————— 金貨一枚


注文書の通りの報酬だが円にすると幾らぐらいだろうか?

物価指数とかがないし現地調査とかする暇が無いでな。


もちろん平民の俺には多額の報酬だとは思うがそうか、この世界の富裕層では平民に謝罪する程の金額なのか。




この貴族サマの申し訳ないような対応はおそらくジジイゲルハルから[人脈を作る為]と伝わっていない。

益々ますますジジイには感謝しなければならないな。


商材は弱みが少ない程、自由が効く

ヨーネフ氏は俺に報酬の安さで恐縮している。

乗っている馬車は体裁(ていさい)を保(たも)つ程度に綺麗だが車輪が回る6分の1毎に軋みの音が鳴る程に金が無いんだろう。


メンテナンスをする領民がいない

メンテナンスをする金がない

メンテナンスを強制させる悪政ではない


そのどれか…… か?


金貨一枚しか・・という言葉を信じるならば答えは見えるが……


貧乏貴族でも貴族は貴族、ここから人脈を広げる足掛かりにすればいい…… か?



————いや、早合点はダメだ。老いた人間の悪い癖だと考えを心にしまう。




「いえ、若輩者ですが随行(ずいこう)させていただきます。どうぞよろしくお願い致します。 」

「…… ほう、よろしく」

「————— なにか? 」

一瞬の疑問顔をするヨーネフからの返答はなかった。


道中はじめの休憩までに御者から何度も[ブルーオーガ]を倒したのは本当かと聞かれたがなるほど、俺の見た目と態度が旅中の安全を不安にしたか?



20人に満たないがヨーネフの部下全てに言われるのだから鬱陶しい。


俺の見た目はなんとかならんもんか。

この異世界では弱く見られるのは害にしかならんわ。



「ダンデスさん! お水をもらってきましたよ! 」

「ああ、ありがとう」

両側が森の中という地味に危険な街道の安全帯とされる開けた場所での昼休憩中、シャティは良妻のようにテキパキと動いてくれる。


この世界の文化はまだ女権拡張論フェミニズムが確立されておらず、また俺とシャティの力関係はハッキリと覚えられたようで俺への用事を言い渡されシャティは小間使いとなっている。



「シャティは対等・・な冒険者仲間なんだから休みなさい」

「…… はい」

シャティは俯きながら嬉しそうに微笑む

「こんな風に言われた事が無かったので…… 」

目線に気付いたシャティが言い訳をする


元の農家での生活が想像できるな。

嘆かわしい事だわほんと。



2人でギルドから冒険者用に支給されるカチカチのパンと破片肉を草叢(くさむら)の上でガシガシと食べていると周囲の森のガサガサという音に続いて悲鳴が聞こえた。


「魔物だ! 」

「冒険者さん! 」


…… 出だしが最悪な旅だなと腰を上げて騒ぎの方へと走った。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


結果から言うと魔物の出現は俺にとっては良かった。


襲って来たのはダークウルフという魔物だった。

大きさはゴールデンレトリバー程の体躯で体から黒い靄(もや)を垂れ流し23匹の数で襲って来よる。


俺はこれは良いなと〈luck Key〉モードを発動する。


ジジイゲルハルとの戦いの後、進んでluckを貯めているのだ。

運はあればあるほど安心感が増すでな。


俺は数がいるダークウルフの運を奪い貯め、勝手に滑り転ぶダークウルフをシャティがミドルソードでとどめを刺す———————



——————————————————————————……


「シャティさん、お水をお持ちしました」

「あ…… あ…… ありがとう…… ございます…… 」


シャティは再開した昼食の始めに女性給仕メイドから水を受け取る。


本人はおっかなびっくりな態だが[魔物を無傷で殲滅した剣を持つ少女]と箔がついたのだ。


俺も両手を広げ魔法援護してるように見せたので、将来有望の少女剣士と魔法使いと思われ、ヨーネフも含めて見下げるような視線が無くなった。



全く、人とは現金で思い込みが激しい生き物だな……



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その後も度々、魔物の襲撃はあった。

野山に餌が足りないのか…… ? やはり夏が暑すぎたのだろうか?


とにかく、luckの貯蓄とヨーネフの信頼、それに魔石の備蓄も出来た。


ただ、ヨーネフ氏の後ろに走る馬車の中にいるお嬢様を拝顔する事は出来なかった。


出来た事と出来なかった事のバランスが良い方が多くので良しとしようか。



お嬢様の馬車は寝台付きの物らしく、付き添いの女給メイドが肩を落とし涙ぐむ様子を何度か見られた。


—————— 立ち聞いた話を統合するとお嬢様は病気らしい。


流行りなら旅行には来ないだろう

女給は1人なので伝染でもない

風土病か遺伝的な何かと推察出来る


さて、これをどうするか・・・・・だな…… と考えて移動をし、出発から3日の昼にヨーネフの館がある街にたどり着いた……

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