鍵屋なんてダメな能力と裏切られたけど、ちょい待ってこれは使えますよね?
@ais-
年取ってから生き方を変えるのは簡単ではないよね?って事
なんなんだよ!
ちくしょー!
俺は泣きながら店舗を閉める。
ガラガラと降ろした店のシャッターには山田鍵万屋(やまだかぎよろず)と書かれている。
俺が今まで20年守り続けていた店だ。
くそっちくしょう……
50歳を過ぎてどこで働けばいいんだよ
嫁さん子供もいない独り身だった
たまに行く風俗や飲み屋で楽しみまあまあな日々を過ごしてきた。
少子化過疎化ってなんだよ日本
気づけば客は減り、シャッター商店街が増えて生きていけないようになっていた。
目減りする通帳の金、ハローワークに行っても紹介されるのは俺がやってきた経験が活きない仕事、大手の鍵屋に入り込もうとしたら年齢制限ときた……
はぁー泣けてくんぜ。
最近は金がなくて酒も女もナシ。
仕事も無えから、ただで読めるネット小説やら図書館での暇つぶしで一日を乗り切る。
ネトゲとかもスマホで出来るからなスマホ万々歳だわ。
社用車で広めの駐車場のコンビニに車を入れて昼飯を買ってコンビニWi-Fiでネトゲとか……
そうだよそんなんだから仕事が無くなったんだよ
仕事は頑張らないと手に入らない。
クソ! その社用車も借金のカタに取られたわ。
そんな借金までして自転車操業してた店も今日で終わり。
店舗兼住居だったから
ホームレスかよ…… 50過ぎてホームレスか今は普通なのかもしれないが…… 一度、田舎に帰るかな
「はぁ——————…… タバコ吸いてぇ…… 」
「あの…… 」
「うわっ! 」
「えぇ!? 」
店のシャッター前でため息をついていたらタバコの事を考えていたら不意に後ろから話しかけられる。
振り向くと40代ぐらいの男が俺の大声で驚いていた。
紺色の仕立てのいいスーツに不似合いな大きなリュックサック…… 何もんだ?
「な…… なんだい!? 」
「あ、あの鍵屋さんですよね? 」
「あぁ…… 今日で倒産する鍵屋だがどうした? 」
100均で買った腕時計を見ると23時を回った所だった。
まだ、鍵屋だよな…… うん。
俺の肯定の返事に男はパァーッと明るい顔をする。
「よかった! こんな時間なんでどこの鍵屋さんも空いてなくて! 」
「まぁ、この時間なら普通の店は閉店してる時間だな」
「あの、開けて欲しい鍵があるんですがお願い出来ませんか? 」
男は急くように俺に依頼を話し出した。
ここから近い家の玄関錠を開けて欲しい……
なんて普通な依頼なんだ。
でもまぁ現金が要る生活になるんだからいいかと男の後ろをついて行った。
ちなみに、鍵屋の厳選した道具は背中の大きなカバンに入れている。
値段のつく物品の持ち出しは店舗の差押えではダメなんだろうが知るか! 俺が集めに集めた道具なんだし、もう身分や住所が不定になるんだ全て入るだけ入れてきてやった!
「徒歩で大丈夫なのか? 近いのかい? 」
「はい、近くです。本当に助かります」
男の話では翌日には解体される実家に入りたいらしい。
持ち家だったのだが、ずいぶんと久しぶりに田舎に帰ると姉が勝手に権利を主張してその実家を手に入れていた。
姉は弟が帰ってきて焦ったのか知り合いの土建屋に連絡して…… という理由らしい。
どこも金が関わると腐るなぁ……
俺も歩きながらの田舎道だ暇なので身の上話をベラベラと喋ると一緒に来ませんか?
という気持ち悪いお誘いを受けた。
まぁ、どこかに泊めてもらえるならな…… 金なし宿無しなんだし2、3日テレビと屋根があるなら良いかなと頷いておいた。
「ここです」
「…… こりゃあ随分と…… 」
「はいボロいでしょう? 」
男は俳優のように整った顔で苦笑して俺を誘導してボロ屋の周りをぐるっと隠れるように動く
隠れながら近づくと重機がいくつか並び、いつでも解体作業が出来るよう手筈が整えられたような状態で、警備員が配置されて家に近づけないように監視されていた。
「おい、本当に違法じゃないのか? 」
「えっと厳密に言うと登記が姉さんに行った時点で不法侵入ですね」
「…… あのなぁ…… 」
迷う俺に男は財布ごと俺に渡す。
財布の中にはざっと確認すると50万円ほどの札が入っていた。
「もうその財布は要らないので」
「要らないって…… カードも入ってるぞ? 」
クレカにキャッシュカード……
「はい、それを代金としてお願いできませんか? 」
「うむぅ…… 」
日雇いの安宿に泊まって酒を呑んでタバコを吸って……
俺は目先の欲望に負けて男…… 財布の免許証には松本と書いてあるな。松本に親指と人差し指をつなげOKのサインを出す。
松本の家は広い空き地に建っていて、解体工事の作業内容の張り紙にはショッピングセンター予定地と書かれていた
なるほど、松本の姉は土地を転売せずにショッピングセンターを建築しようとしている不動産代理店に、より高く買われるように焦らしていたんだろう。
だが松本が帰って来て焦った。か?
つまらんなぁ…… クソだな。
俺と松本は荒れ野に近い草がボーボーの中を隠れながら裏手に回る。警備員がバレないように勝手口に回ると鍵穴を確認する
「大丈夫ですか? 」
「ああ、これならスグだ」
田舎の古い屋敷だったから鍵自体も旧式でキーピックだけで開錠できる
「…… 早い」
「そりゃな長い事この仕事してっから」
開錠してスグにドアを開き俺と松本はスルリと家に入り込んだ。
しばらく息を殺して外を警戒すると警備員が勝手口の前を横切っていく…… ヤバかった……
屋敷の中は老朽化が進み床は抜け落ち人が生活していないと簡単に想像できる。
先を行く松本は無言で俺をチョイチョイと手で呼び寄せる
屋敷は広く不気味だ。外の警備員にバレるとダメだからスマホで明かりも灯せない…… 月明かりが届かない場所は真っ暗だぜ…… 幽霊いねぇよな?
怖ぇーと思いついていくと階段を上がっていく松本。
おいおいマジで怖いんだけど……
三階の天井裏に辿り着いた時に松本がガラケーの画面をパカっと開けて明かりをつけて話す。
「山田さん、この日本に未練はないですか? 」
「ん? まぁ…… な…… 俺が未練ないというか、世間が俺を必要としなくなったんだけどな…… いずれは金も無くなって野垂(のた)れ死ぬかもしれん。 未練というのはないな」
「ではついてきて下さい」
松本は屋根裏にある何かを隠す汚い布を丁寧に剥がすとそこには平たく大きい一枚鏡があった。
大人の男が2人横に並んでギリギリの大きさの鏡に疲れた顔色の悪い俺が映る。改めて見ると俺…… 老けた生きている世界への入り口です。 本当に日本で生きるのが嫌なら一緒に行きますか? 」
暗闇の中で松本は俺を見る
「嫌ならいいですよ。明日になれば家は潰されてこの鏡は無くなりますし、私はこの日本にも未練がないので私だけで行きます」
「まてまて、これは何だ? 」
「…… 時間が無いみたいですよ? 」
階下に人の気配がする。
俺と松本が家に入り歩いていた人影を外から見られたんだろう。
警備員め……
松本は鏡に半身を入れてもう一度こっちを見る。
どうする?
いや…… 迷う事はないな日本にいてもホームレスまでスグだろう。田舎も代替わりしていて俺の居場所はない。
俺は鏡の中に体を滑り込ませた。
その直後、松本が鏡の内側から重そうな石を取り日本に向かって投げると鏡のあった屋根裏部屋の荷物に当たり、それが倒れこみ鏡の方へ……
パキン!
鏡は粉々に砕け散った。
「日本に帰れなくなったわけだな」
「山田さん、後悔してます? 」
俺はその言葉を一度飲み込み首を横に振った。
「いや、もういいわ」
しかし体が軽いなと背中を確認すると背負っていたバッグが無くなっていた。
「おい、俺の商売道具はどうなった? 」
「あぁ、山田さんも荷物が吸収されましたか? よかったですね? 」
「いやいやよかったってなんだよ! 」
まぁまぁ、任せてくださいと松本は土壁の洞窟の奥にあった階段を登り出す。
置いていかれたらたまらんので俺も仕方なくそれについて行くと階段の上に扉があり外は一部屋だけのプレハブのような小屋だった
「とりあえず、今日は休みましょう」
「ここは? 」
「地下の洞窟を含めて私の所有物です。毛布はあるので床にでも寝ましょう」
外は真っ暗で月明かりもない。
この場を知る人間が寝ると言うなら仕方がないと木の床に尻をついて両手で顔をゴシゴシとしごく。
たしかに眠いな。
この歳だし無一文だ。荷物も無くなるしなるようにしかならんな。
「山田さん、早く寝たほうがいいですよ」
「あん? 」
「一晩でも寝るとこっちの世界に体が慣れるんで、明日を楽しみにして下さい」
「なんか分からんが…… あと、もう敬語やめろ。何がなんか分からんが俺はどうやら松本に頼らないとならんようだしな」
松本はチラリとこちらを伺いニコッと笑う。
「ああ、よろしく山田」
「おうよ」
挨拶をして横になりスマホを確認しようとするが
「ああ、背なの荷物に入れてたか…… 残念だ」
少し不貞腐れながら眠りについた。
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