クリスタライズファンタジー―ソシャゲの世界に転移したのでチートガチャで世界を救います―

瀬口恭介

序章

第一話

 俺、有石ありいし来人くるとは17歳になる今日の今日までソーシャルゲームに手を出したことがなかった。理由は簡単。興味がわかなかったのだ。

 周りのみんながやっているのはストーリー性など皆無なパズルのゲーム。本を読むのが好きな俺には合わないだろうし、後から始める気にもならない。


 そんな中、『クリスタライズファンタジー』というソーシャルゲームを見つけた。ゲーム画面のスクショを見る限り、ストーリーシナリオがあり、尚且つバトルが前面に出ている戦闘システムだ。

 早速インストールし、アプリを開く。アプリゲーム特有のダウンロードが始まった。

 ダウンロード中に飽きさせない工夫なのか、ストーリーやキャラクターの説明、はたまたイメージ画像やイラストなどを鑑賞できるようになっている。主人公の目的は……世界崩壊を防ぐこと。つまり世界を救うことだ。なるほど、ありがちな目的だけどわかりやすくて理解しやすい。


 世界崩壊を言い伝えられていた騎士が主人公を仲間に誘い――――――と、もうダウンロードが完了しそうになっている。ストーリーをほとんど読むことができなかった。


97、98、99――――――100%


 次の瞬間、視界が白く染まった。


* * *


「おい! ボーっとしてんじゃねぇ! どけ!」

「え、あ、はい! ごめんなさい!」


 大声で怒鳴られ思わず返事をしてしまう。

 ここは、どこだ? 暗い部屋に、木箱やロープなどが置かれている。先程のおっさんたちは部屋にある物を外に運んでいるようだ。


「お前さ、今日召喚したか?」

「まだだけど……はぁ、最近は碌なもんが出ないから期待なんてしてねぇよ」


 混乱していると、男の二人組が部屋に入ってくる。茶髪の男と金髪の男、最初に喋りだしたのが茶髪の男だ。

 金属の胸当て、ブーツ、ごついベルト。さらに召喚という言葉。まるでファンタジーの中の住人のような出で立ち。さらに、俺の服装も似たようなものに変わっていることに気づく。どこかで見たことがある。


「これくらいしか楽しみなんてねぇだろうが。ところでさ、俺もまだなんだよ。ここでやっちまおうぜ」

「ん、そうだな……お、そこのお前、まだなら一緒に召喚しねぇか?」

「ばっかお前、こいつ例の無能だぞ」

「げ、マジかよ」


 無能、そう言われ無条件でムッとする。無能で無条件でムッ。ムムムだ。

 なんて考えている場合ではない。若い男ならば話しやすい、ここはどこなのか聞かなくては。


「あの、ここはどこですか?」

「あ? どこって、レフポ城の倉庫だろ」


 レフポ城。その言葉が聞こえた瞬間にハッとする。そしてそれは確信へ変わった。

 クリスタライズファンタジーの設定欄、主人公はレフポ城の兵士。目の前の男が嘘をついているとは思えない。

 つまり……俺はソシャゲの世界に来てしまったということになる。


「あの、すみません。ちょっと混乱してて。召喚ってなんですかね」

「おいおい、自分が召喚できねぇからってなにも忘れることはねぇだろうよ」


 茶髪の男はさっきからやけに俺に対する当たりが強い。俺のことを無能と言うが、設定にはそんな内容は書かれていなかった。ゲームの通りの世界ではないのかもしれない。

 だが、召喚。ソシャゲでいうとガチャのシステムはどうなっているのか。そこが気になる。


「まあまあ、見せてやればいいだろ。見てろ、こうやって精霊を使うんだ」


 金髪の男が自身の肩を見ると、肩の近くにいたであろう羽の生えた光球が姿を現した。

 茶髪の男も同じように精霊を呼び出す。色は人によって違うのだろう、金髪が赤で茶髪が緑だ。


「「召喚!」」


 二人の声が重なる。精霊の前に魔法陣が現れ、光と共に何かを出した。茶髪の光は白く、金髪は緑色の光だ。どちらも青をベースにした光を出している。

 実体化した召喚物は、やがて光が消え物へと変わっていく。


二星級にせいきゅうの銅の剣! 銅とはいえ剣なんて初めてだ、本当に出るんだな。欲を言えば鉄が良かったけども」

「俺なんて一星級いっせいきゅうの木の盾だぜ? ゴミじゃないだけマシだけどハズレもハズレだちくしょう。あーあ、どうせこれも使わねーし、お前みたいな無能に渡されるんだろうな。感謝しろよ、召喚もできねぇお前が生かされてるのは俺達のおかげなんだからよォ!」

「んじゃまあ俺達を見習って召喚できるように頑張れよ」


 二人組は暇だったのか立ち去ってしまった。金髪は普通にいい奴だったなと思いながらその場に立ち続ける。

 さてどうしようか、武器とかのの召喚がガチャなんだから今のがガチャなんだろうけど、見た限り石を使ったガチャとは思えない。レア度的にはフレンドポイントを使った友情ガチャと言ったところ。

 というか、あいつらの言い方を聞く限り俺は召喚ができないということになる。それ無理ゲーでは。どんなマゾゲーだよガチャ禁止縛りとか。


「やっと見つけたぞ! クルト、王様がお呼びだ、ついてこい」

「はい?」


 落ち着いて今の状況を把握していこうと思っていた矢先、今度はひげを生やしたおじさん兵士が部屋に入ってきた。王様が俺を呼んでいる?

 もしかしたら、騎士に仲間に誘われるのかもしれない。そう思いながら兵士についていき、王様の元へ向かった。


 豪華な装飾が散りばめられた玉座。そこに座る白髪に長いひげのおじいさん。間違いない、この人が王様だろう。レフポ城の王。つまりレフポ王だ。会ったことあるのかもしれないが初対面だ。


「お話とはなんでしょうか」

「なに、そこまで重要な話ではない。城裏の森に行ってきてもらえんか。あそこにあるリンゴや薬草の採取をお願いしたいんじゃ」

「城裏ですか」


 城裏、レフポ城の裏に森があるのか。そこにある薬草とリンゴ……リンゴ農家はいないのだろうか。

 森に生えているリンゴが特別美味しいという可能性もある。ガチャの引けない無能だから、採取とかの仕事しかできなかったのか。移動中に持ち物を確認したが、武器のようなものは持っていなかった。持っていたのは小銭と、宝石のように光る石が数個だけだ。


「なに、あそこは魔物も少なからずいるがこれを持っていけば問題ないじゃろう」

「これは?」


 別にアゾットな剣ではない。王様が取り出したのは、黒い袋だった。ツンと来るにおいが出ている。


「におい袋じゃ。魔物が嫌がるにおいが出ておる」

「ありがとうございます!」


 とりあえずお礼を言っておいた方がいいだろう。手ににおいがついてしまいそうで一瞬受け取るのを躊躇ったが、これで安全になるのなら安いもんだと思いなおし受け取る。

 ……受け取った瞬間、ニヤリと王様の口角が吊り上がった気がした。


「うむ。もう下がってよいぞ」

「あの、一ついいですか」

「なんじゃ」

「近いうちに、嫌なことが起こるかもしれません。この世界が危なくなるような何かが」


 この世界は近いうちに崩壊する。それを伝えたかったがはっきり言うと怪しまれてしまいそうで言葉を濁してしまった。結果的には正解か。


「根拠はあるのか」

「それは、占いで……」

「わしの機嫌が悪くなる前に去れ」

「は、はい」


 占いという咄嗟に思い付いた嘘がバレたのだろうか。機嫌が悪くなったらしい王様は立ち去るよう命令した。

 通りすがりの兵士に森に出れる裏口の場所を聞き、俺は城裏の森へ向かった。

 向かう途中で精霊を呼び出して召喚を行おうとしたが、精霊を呼び出すところまではできても召喚を行うことはできなかった。精霊の色が白色だったのは関係があるのだろうか。


* * *


「なんでっ!」


 森に到着し、奥まで歩いたのはいいが、なぜか突然イノシシの魔物が襲い掛かってきた。奥に来るまでは魔物らしき生き物は全く見かけなかったのだが……。

 におい袋を持っているのになぜ、そう思いながらイノシシの突進を間一髪でかわす。まるで闘牛士だ。

 ん? 闘牛士?

 思えば、このイノシシは俺めがけて、というよりにおい袋めがけて突進している。このにおい袋は魔物を寄せ付けなくする道具。なのに、魔物は襲い掛かってくる。


「くそっ! こんなもの!!」


 持っていても意味がないなら、捨ててしまえばいい。むしろこれが逆効果になっているようにも感じるのだから尚更だ。

 におい袋を投げ捨てると、イノシシは袋をめがけて走り、においを嗅ぎ出した。


「よしっ!」


 イノシシが夢中になっている間に逃げようとするが、食べ物ではないと判断したのかまたすぐに俺を追いかけ始める。さらに、爪が巨大化した熊の魔物が目の前に立ちはだかる。捨てたのに、どうして。

 そう思ったが、自分の指ににおいがついていることに気づく。しまった、これではもう逃げられない。


「おいおいおい、シャレにならないぞ……」


 一応熊に会った時の対処法である目線を合わせながら木の陰に隠れる戦法を試してみるが、魔物だからなのか全く効果はなかった。

 やめろ、来るな、来るな、来るな来るな来るな!!!


「グオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!」

「ひっ、嫌だ!! 来るなあああ!!」


 ザシュッと嫌な音が聞こえる。熊の爪が左肩を捉えていた。

 焼けるような熱、痛み。それを感じた瞬間に、それまで頭の片隅で思っていたゲームだからきっと大丈夫という気持ちが消え去る。現実だ。ここは、紛れもない現実。死が間近に迫っている。


「ああああああああああ!!!! あ、あああ!!! 熱い! 熱い熱い熱いいい!! ああああ!!!」


 立ち続けることができず叫びながら背中から地面に倒れる。ああ、一般人の俺がファンタジーの世界で生き抜けるわけなかったんだ。そう思っていると、涙でぐしゃぐしゃにぼやける視界の隅で白い光がぽわっと現れた。


「せ、精霊か……?」


 僅かに射す木漏れ日のように、淡く光る精霊。その光は今の現状のように本当に僅かなきぼうで、それでも俺はその光を掴みたくなった。


『はい、なんでしょうか』

「お前喋るの!?」


 死の直前に知った衝撃の事実。肩の痛みを忘れてしまいそうになるほどだ。


『召喚をしますか?』

「で、できるのか……? なら頼む! 死にたくない!!」

『召喚を開始します』


 無機質な声だが、心強い。それが今の唯一の希望だから。突然光った精霊を警戒したのか魔物はそれ以上近づいてこなかった。血が流れ出る肩を抑え立ち上がりながら召喚を見届ける。


 最初に見た召喚のように、魔法陣が現れる。すると、俺の腰についていた革袋から綺麗な石が三つ飛び出してきた。その三つの石は魔法陣の上に浮遊し縦に三つ並んだ。三つの石からさらに光が放たれ、辺りを白く染める。

 その光は青になり、そこからさらに変わり虹色になった。まるでレアガチャの確定演出のように。


 光はやがて収束し、一つの塊となる。塊は少しずつ形を変えていき、そして――――――。


「召喚に応じ参上しました、マスター」

「…………え?」


 虹色が混ざった光の中から現れたのは、青い雷光が迸る雷の槍を持った髪の青い少女だった。

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