第二一章 凍結

292.アキラ、誘われる。

 「宿主、今日はされるのですか? 」




精霊さんが、今日の行動について質問してくる。




「そうね~~、今日は木の実でも採りに行こうかなって考えてる。」




そう答えて、僕は森の奥へと入って、しばらく進む。




すると、どこからともなく甘い匂いが漂ってきて、鼻をくすぐる。その匂いに引き寄せられるように、どんどん森の奥へと進んでいく。




徐々に、光が差し込んだ場所に辿りつく。ふと顔を上げると、小さなベリーたちが色鮮やかに実っていた。




「はぇ・・・、嗚呼すごい・・・。 」




そう感嘆させるような数に、思わず声が出る。




それではさっそく、ベリーを摘んでいく。




『プチッ! プチッ! ブチッ! ブッ! チッ!! ブッ!! 』




ベリーは面白いほどによく採れていく。それから、次第に両手いっぱいになってきた所で、一旦収納の魔術にしまう。そして、また採り始める。その繰り返しである。






 そうして、気がついた時には、随分と奥へと進んでいた。辺りは、若干肌寒く薄暗い雰囲気であった。




だが、僕はそんなことにお構いなく、どんどんと小さき果実を摘んでいく。




最初の異変に気付いたのは、精霊さんであった。




「宿主、お取り込み中申し訳ないのですが、周りが少し静かすぎるような気がします・・・。」




と告げてくる。




言われてみれば、不思議なくらい動物たちの鳴き声は聞こえない。何かを感じとったハンターセンスは、微弱ながら警告を鳴らし始め、背筋を冷や汗がスゥーと伝う。




これりゃ、ただ事ではないことにこの時、やっと気付く。




急いで、その場から離れて家へと帰ろうと脳内マップを開くが、ノイズがかなりひどく、家の場所がどっちの方向かわからない。




とりあえず、自分がベリーを採り尽くした木を辿っていく。




戻っている最中も、ハンターセンスはひしひしと警告を発する。それから、しばらく歩いていたが、一向に景色は変わらず、鬱蒼と茂る森の中である。




段々と嫌な予感が、頭をチラつく。試しに、一本の木にナイフで目立つように傷を付けて、また歩いていく。




外れてくれ・・・、外れてくれ・・・。と頭で念じながら、真っ直ぐ森の中を歩き続ける。




やがて、予感は確信へと変貌する。




目の前には、先ほど傷を付けた木が立っていた。




「嘘だろ・・・。」




真っ直ぐ歩いていたはずなのに、いつの間にか自分は元いた場所に戻っていた。その瞬間、後ろから少女の笑い声が響く。




「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」




振り返ってはならないと、直感が告げる。しかし、なぜか振り向かずにはいられず、後ろを向く。




目の前に不気味な少女が立っていた。

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