244.アキラ、風を切る。
その巨体は猪突猛進で差し迫ってくる。突然の出来事に不意を突かれて、一瞬対応が遅れる。
その間にも巨体は突進して迫ってくる。焦る気持ちと平常心が激しい攻防を繰り返し、手元を狂わす。
なんとか気持ちを持ち直しながら、巨体に狙いを定めて矢を解き放つ。解き放たれた一閃は、風を切り、巨体の肉を抉っていく。
『ブギィィィィィイイイイ!!』
巨体から悲痛な悲鳴が聞こえたと時には、大猪は身体のバランスを崩す。
『ドシーン!! 』
大地に響く音に、他のイノシシたちが、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。空かさず、そのイノシシ達に狙いを定めて矢を射る。
逃げ遅れた一頭に、命中する。そのイノシシは踵を返したように巣へ引き返す。
一方の大猪の目には、まだ闘志が残っていた。肉が痛む前に止めを刺す。そこには、戦士を称える余裕などない。あるのは、この感覚に慣れてしまった自分の感性だけだった。
ナイフを巨体の喉元に突き刺せば、そこから堰を切ったように、止め処なく血が吹き出てくる。そうして、血の勢いが弱まり、止まる。
そうして、仕留めた大猪の死体を、覚えて間もない収納魔術の空間に入れる。これは思ったほど便利なものだと実感する。
しかし、なんだか肩に異様な重たさを感じるのは、なぜだろうか。なんとなく予想がつく。
「はい、宿主のご察しの通り。魔術による影響です。」
当然のように精霊さんが答えてくれる。
「ああ、やっぱりか。ちょっと肩が重くなった。でも、成長していけば背負える重さも増えるんでしょ。」
と質問すると、
「その通りです。」
精霊さんはそう答える。
「今後成長していけば、テラさんの家くらいなら背負えると思われます。」
はぇ~~、それマジ? と精霊さんの言ってることが信じられなかった。
それはさておき、先ほど巣穴に逃げたイノシシのことを思い出す。
早く絞めないと、肉が痛んでしまう。そうして、イノシシの住処の洞窟の中へと入っていく。
中には、射たイノシシが瀕死の状態で、こちらに対し
『プギィ・・・、プギィ・・・ 』
と弱々しく最後の抵抗を見せる。すばやくイノシシの喉元に、ナイフを突き刺す。
『ぷ、プギ・・・ィ・・・』
そうして、イノシシの目は黒い眼へと変化する。血抜きの最中に、ふと洞窟の壁を見る。何気ない洞窟の壁画かと思い、目線をまたイノシシに戻す。
「ん? 」
思わず二度見すると、そこには何やら絵が描かれているのであった。
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