235.アキラ、届かない。

 イノシシの巣窟はわかった。あとは、木の上に登って張り込み、そこからじっと巣穴を見つめてチャンスを窺う。




辛抱強く待っているとゾロゾロと列を成して、イノシシが出て来る。そして、その中でも一際大きい大猪が、最後に現れてくるのであった。その体長は普通のイノシシの5倍はあろうかという大きさであった。




まさに、文字通りの大猪。




そいつは、堂々たる姿から異様な存在感を放つ。その姿に圧倒されそうになるが、スキル【平常心】でなんとか持ちこたえる。




それでも、弦を引っ張り狙いを定めるが、張り詰めた弓は、震えていた。この時、初めて動物対して恐怖を感じる。




この矢は奴に届くのか。間合いも矢が一番威力を発揮する場所で、風も無風、すべてが自分に有利に働いているのに、なぜかそんなことを考えてしまう。




嫌な予感を振り払い、今は目の前の獲物に集中する。気持ちを落ちつかせて、渾身の一発を放つ! 




矢は次第に加速していき、そして最高速度に達して大猪の身体に突き刺さる。手ごたえを感じて、イノシシを見るが奴は怯むどころか、こちらに向かって突進してくる。




命中しなかったのかと確認するが、頬の部分にしっかりと、矢は突き刺さっている。それが物語るのは、圧倒的、貫通力不足。今の弓では、大猪に致命傷を与えることはできないと悟る。




 その間にも、大猪はこちらに向かって突進してきている。咄嗟に木にしがみつく。そして、




『ドォーーン!! 』




と轟音を立てて大猪は、木に体当たりする。




『メキメキ』




木は音を立てて、じょじょに斜めになっていく。




「おいおい、まじかよ・・・。」




下を見ると、木の幹が痛々しくも抉れていたのであった。木をも破壊する突進をまともに喰らえば、確実に死ぬ。地上に落ちてしまえば、足の速さであいつには、敵わない。




それから、導かれる選択は下には逃げず、別の木に飛び移ること。




「いくぞぉおおおおおおおおおおおお!! 」




叫び気合いを入れて、決死の覚悟で倒れていく木の枝を駆けて、羽ばたく様に大きくジャンプする。




空を飛ぶ、刹那、脳内にアドレナリンが大量に流れ込んで、飛んでいる間、周りの景色が遅く感じる。冷静にその光景を脳が判断して、このままでは後少しのところで、枝には届かないと予測する。




化物はほくそ笑むように、落下する僕に突進してくるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る