233.アキラ、覚える。

 思わず、僕が避けてしまったことにより、本は壁に直撃する。いったい今のは、なんだったんだろうかと皆が首を傾げる。




「旦那様、あの本に異様なマナを感じます。」




とまゆきが訴える。ええぇ・・・やだ、怖い。と心霊系が苦手な僕は慄く。




「宿主、異世界来ていまさらですよ。」




と精霊さんがつっこむ。




「いやぁ~、どうもオバケ系は物理無効なイメージがあって、どうも苦手なんですよ。」




そんな言い訳をよそに、魔術書はまたひとりでに浮かび上がり、こちらに向かってくる。皆が一斉にその場から逃げる。自分もそれに続いて逃げるが、明らかにこちらに向かってくる。




「これ、なんか僕の事、狙ってない? 」




と呟くと、精霊さんは冷静に




「そのようですね。」




と答える。ついには、部屋の隅に追い込まれる。ジワリジワリと魔術書が向かってくる。今度は逃がさないぞというような勢いで、突っ込んでくる。




今度も避けようとするが、魔術書はそれを予測していたかのように、軌道を変えて、僕の胸の中に飛びこんでくる。




そして、本だけに本当に、身体の中に物理的に入ってきたのである。




「入っちゃった・・・。」




思わず驚愕の声を上げてしまう。しかし、次の瞬間、




「宿主、やっと新たな魔術を習得しましたね。」




と精霊さんが報告されて、脳に新たな魔術のイメージが入ってくる。手を合わせてると、空間にぽっかりと穴が開く。




その奥は真っ白な空間だが、それは自分が作り出したものだと感じる。




「収納って、そういう意味か。」




と魔術書の意味を理解する。これは確かに便利な魔術だと思っていると、また知らない声が聞こえる。




「気に入ってくれたようで、安心した。その穴は、お主だけの空間で他のものの干渉は受け付けないぞ。




しかし、生きた動物などはその中には入れられないことを覚えておいてくれ。それと、その穴での時間は同じように流れるので、注意が必要じゃぞ。




今はまだ小さくとも、お主の成長により何倍にも膨れ上がる代物だ。」




と補足説明を言ってくる。それで、収納の魔術を大体把握する。今のところ穴の大きさは1立方メートルほどで、それほど大きくはない。




しかし、まぁ使いこんでいけばどんどんと体積が増えていく気がするので、気長に使っていこうと考える。




それにしても、この魔術、相当便利なものである。なぜなら、いつでもどこでも好きな時に開けるというのが、いいところだ。しかし、それにはけっこうな量のマナを消費するらしく、1日5回が限度と言ったところだ。




そうして、僕は収納の魔術を本が物理的入ってきたために、短期間で覚えることができるのであった。

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