198.アキラ、寝る。

 空腹で覚醒する。僕はベッドに横になっていた。


「ここは・・・。」


状況が飲み込めないでいる僕に、精霊さんが語りかける。


「宿主、ここは教会ですよ。宿主が、意識を失った後、ここに、運んでもらったんです。私達は、生き延びたんです。」


その言葉で、やっと自分の置かれている状況を理解する。そして、洞穴の下から、脱出したことを実感する。すると、腹が飢餓を強欲なほど、主張し始める。


その強烈な主張が痛みとなり、僕が苦悶する。その時、


『ガチャ』


とドアが開く。現れたのは、司教さんであった。


「おお、お目覚めになりました! 」


と驚いた様子で、僕に駆け寄ってくる。


「ええ、まぁなんとか、助けていただきありがとうございます。あの宜しければ、食事などをもらえますか?」



空腹で死にそうになりながら、司教さんに頼むと、すぐに食事を持ってきてくれた。


出てきたのは、粥みたいなものであった。


「何日も、ものを食べていなかったでしょう。ゆっくりと良く噛んで、食べてください。」


と司教さんが言うのを待たずして、僕は食べ始める。


口の中に、粥が運ばれる。噛むと、そこに広がる粥の味に脳が震える。それを味わうかのように、噛みしめる。


今、この瞬間生きていることを感じる。うまいとか、そういう次元を超えている。生という味に、身体が喜び上げるのであった。


食事を終えると、僕に睡魔が語りかけるように眠りに誘うのであった。


 目が覚めると、外を月明かりが照らす。


「宿主、目が醒めた様ですね。丸一日寝ていましたよ。」


と精霊さんが教えてくれる。かなり寝ていたようだ。身体を起こして、強張った身体を解す。すると、


「宿主、今回の経験で異能がすべて向上しました。」


と事後報告してくれる。まぁ、そうなるよなと思いながら、置かれていた食事を食べ始めるのであった。


そうして、食べ終わるとすぐさま、部屋を出て、司教の元へと急ぐ。まだやり残したことがあるのだ。


「おお、アキラ殿! 」


あまりの回復速度にびっくりした様子である。そんな司教さんを捕まえて、単刀直入に質問する。


「司教さん、つかぬことをお聞きしますが、アクリバートンは、今どこでしょうか。」


「は、はぁ・・・。アクリバートンなら、2日前、この街を出たと聞きましたが・・・。」


と司教が答える。


「どこに向かったか、検討は付きますか?」


「た、多分ですが、隣国のポスタニア経由して、アルトリア王国の王都に向かったのではないでしょうか。ポスタニアはアクリバートン支持者が多いと聞き及んでいます。まさか、今から、追いかけるつもりでは、ございませんよね!? 」


と困惑しながら、僕を止めようとするが、


「そのつもりですが。」


と言うと、もう止めても無駄とわかったかのように、


「それでは、行きなさい。アクリバートンは、シカ教のシンボルを掲げた馬車でポスタニアに向かっていると思います。それには、馬が必要でしょう、すぐに準備します。」


司教は僕に手助けをしてくれる。


すぐに、部屋に戻り、荷物をまとめていると、


「ワン! ワン! 」


と聞き覚えのある声がする。ハチだ! 


「おお、ハチ! お前には助けられたな! 」


そう言って、駆け寄ってきたハチに感謝の気持ちで撫でまわす。ハチも尻尾を振り、喜んでいる。


「ハチ、お前もう一度、力を貸してくれるか?」


と聞くと、


「ワン! 」


と力強く答える。そうして、準備を完了し、司教が連れて来てくれた馬にまたがる。


「司教さん、いろいろとありがとうございます。」


そう言って、いろいろと助けてくれた司教さんにお礼を述べる。


「アキラ殿、危険な旅と思いますが、御武運を! 」


そうして、別れを告げて、真夜中の街を駆けてゆき、ハチがそれを、追いかけるのであった。

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