バケモノだらけの異世界を雷精霊さんと狩っていきます!

なんよ~

異世界が呼んでいる。

カムイラクル、炎熊を狩る。

 真っ赤にもえる大地の片隅を駆け抜けていく。その先をまだ熱を帯びて赤く爛ただれる炎が僕を導いていく。




その残火は森の猛者に近づくごとに勢いを増していき、居場所を語りかける。




それに比例するかのように、死の恐怖と狩人の血が鼓動を高鳴らせる。その感情が最高に滾る!! その時、異能のスキル:ハンターセンスが危険を知らせる。




鬱蒼と茂る森の中を、真っ赤な炎を纏いながら悠然と歩く炎熊をついに捉える!!




猛り狂うその炎は道を遮るものすべてを焼き尽くしていく!!




『!!! 』




その圧倒的な姿!! その圧倒的なデカさ!! その圧倒的な迫力に!!




その強者の風格に思わず我を忘れていた僕を、身体の中に宿る精霊さんが、




「宿主、見つかってしまいます。すぐに身を隠してください!!」




そう警告をする。その声に慌てて、木々の陰へと身を隠す。




そして、物陰から先ほどの炎熊の隙を窺う。奴は、バリバリと巨木のブナの幹を噛み砕いていく。まるで、木の実を食べるが如く簡単に。




弓を構え、矢を手に取り、だが、まだ射る時ではない。安心しきった炎熊の後ろ姿は黙々と木を食べていく。ついに、ブナの木は自分の支える土台を失ったことにより、




『パキ・・・パキパキ・・・バキバキキキキキキキ!! ドォオオオオオオオオオオオン!!! 』




巨木が音を立てて炎熊に向かって倒れる。奴は倒れてくることを感じとり、全身から紅蓮の如き炎を纏いて、それを防いだ!!




そうして倒れた巨木を嬉々として貪り喰らう。そして、姿勢をこちら側に向けて夢中で食べている。




その時、弦を渾身の力で引く!! そして、全身全霊の万雷を付随され、解き放つ!! 




雷光は、一直線に炎熊の目元を捉えるが如く駆け抜けていく!!




だが、奴はその微かな殺気と異変に気付いたのか、身体の向きを変える。




その僅かな変動により、矢は目という絶対的急所から、逸れて炎熊の左肩へと引き寄せられて、




一矢は燃えさかる炎の中に飛び込んで肉を抉る。内包する電流を奴の身体に流し込む!!




炎熊の身体は一瞬、震える。だが、それで奴はへばるようなものではなかった。




『ブォォォゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!! 』




低重音の恐怖心を抱かせる吠音を轟かす。直感で、それが威嚇音だとすぐに理解する。




炎熊は、どこかに潜む敵の気配を少し感じたのか、右肩から炎が噴き上げていく・・・。そして、手で地面を抉るが如き動きで、炎波を繰り出し辺りを焼き尽くす!!




一瞬にして、炎熊の目の前は焼き尽くされる!!! 奴はそれに満足したのか、再びブナの木に齧りつくのであった。






∴ ∴ ∴ ∴ ∴






一方の僕は、遠く離れた場所でなんとか生きていた。あの瞬間、ハンターセンスが事前に危険を察知してくれたおかげで、脱兎の如くその場から全速力で離れてなんとか難を逃れたのだ。




そうして、ハンターセンスが警告音を完全に発しなくなったことを確認した瞬間、一気に緊張感が緩み肩の力が抜けるのを感じる。




「あっ・・・生きてる。」




一秒でも、反応が遅れていたら死んでいたかも知れなかった・・・。しばらくの間、


生きた心地がしなかった・・・。




 その後、周辺に熊の気配はなくなっていた。




このまま、炎熊を逃していいのだろうかと考える。これは千載一遇のチャンス!! 




熊の胆嚢や毛皮、肉は高値で取引されている。そして何より、火を纏う炎熊は普通のクマの倍の値段で取引される。このチャンスを逃していいのだろうか・・・。




しかし、もし仕留めれなければ死を招くと本能が語りかける。




結果、僕の中で、追うか追わないかという選択肢で揺れ動く。




「宿主、危険は承知で炎熊を追うというのなら、私も全力でサポートします。」




精霊さんが僕の背中を後押ししてくれるとのこと。僕も奴を仕留めることを決意する。




そうと決まれば、あの炎熊の痕跡を追っていく。




∴ ∴ ∴ ∴ ∴




痕跡を追っているうちに、松らしき樹木が生い茂る森の中で




よく見ると、奴はそこにいた。体長は並みのクマよりも馬鹿でかい!! そして、猛者の風格漂わせて燃え盛る毛皮からメラメラと陽炎が見える。




足音を出さぬように匍匐前進でゆっくりと風向きを気にしながら、だが確実に狙える位置を縮めていく。




炎熊も何かを感じとったのか、頻りに周囲の様子を警戒し始めている。




 ここらが限界と察知し、矢袋から矢を取りだし、電流を込める。呼吸を整え、弦を引く。奴の眼、目掛けて狙いを定め、矢を射る!!



閃光は大地を駆けて、熊の目玉に喰らいつく!! 




「やったか!! 」




尚早だった・・・。熊から激痛の声が出るが、まだ生きていた。そして、残った右目は血眼になって、僕を探し出す。




「くそ、逸れたか!」




「宿主、すぐに退散を!! 」




「大丈夫!! やつのもう片方の腕は、さっきの矢撃で頭の神経がイカれたみたいだ!! だけど、それでも走るスピードは速いッ!!! 」




「宿主! 今度は炎熊がまっすぐこっちに来ます!! 」




やばい・・・このままじゃ、追いつかれて殺される。




しかし、生きたいと願う本能と会得していたスキル【ライオンハート】が、その恐怖心をかき消していく。




 そして、自然と心が落ちついてくる。炎熊の鋭く尖った牙が大きく見えるが、それでも、心は落ち付いて、矢を構える!!!




「精霊さん、僕を信じて。」




「何時だって、信じてますよ!!」




その閃雷を、解き放つ!! しかし、それは炎熊には向かわず、近くの巨木へと向かっていく。




だが、それは突き刺さるどころか、回転して




『ガリガリガリガリガリガリガリガリ 』




木を一瞬で抉る!! その直後、炎熊に向かって倒れ込む!! 




炎熊もその事に気付き、すぐに全身から紅蓮の如き炎を纏いて、それを防ぐ!!




その瞬間を待っていた!! 神速の早業で、再び矢を射れる態勢になり、狙いを定める!! さぁ!! 王手!! 矢は放たれた




それと同時に炎熊を纏っていた炎がなくなる。その瞬間に一矢は、炎に威力を邪魔されることなく、奴の口腔目掛けて喰らいつく!!




∴ ∴ ∴ ∴ ∴




一瞬の出来事が終わった瞬間、僕の足もとに茶色の大きな塊が横たわる。




その顔は険しく今にも動き出しそうで、念のために止めを刺す。




まだその周囲は、熱を帯びていて近寄るのは容易ではないが、ギリギリの場所から、槍で止めを刺す。炎を纏う化物でも、血は流れていて、それは赤いものだった。




次第に、火は燃料を失ったかのようにどんどん勢いがなくなっていく。




「宿主、熊を仕留めましたね。おめでとうございます。」




精霊さんが苦労を労ってくれる。




そして、放った矢を見ると、一発目は熊の左肩の肩甲骨辺りに刺さっていた。二発目は、眼輪の上部分から、左脳にまで達していた。




最後の一発は口腔部分から、延髄を貫通していた。



その瞬間、僕がこの熊を仕留めたことを実感する。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



さっきまで生きていた生物をこの手で殺めることに、今では何も感じない自分に気付く。どうやら、この異世界に馴染んでいっていることを嫌でも痛感させられる。




しかし、そんな感慨に浸っている暇はない。




すぐに解体をしなければ肉や毛皮が血で痛んでしまう。




そして僕はまだ生温かい死体にナイフを突き立てて、その紅蓮の鮮やかな毛皮とを白銀の様なきめ細かい脂を慎重に分けていく。そうして、手際良く黙々と炎熊の手足、胆嚢、内臓肉、内臓、赤身などを解体していくのであった。




この物語は、異なる世界からやってきた少年が、精霊と共に成長し生きていく記録である。

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