78.アキラ、茸神と化す。

 十分泣いた後、少女は泣きやみ気持ちを少しずつ述べてくれる。




「まゆきねぇがいなくなるのは、淋しいよ。だけどね、あんなに楽しそうなまゆきねぇは見たことないの。お兄ちゃんなら、まゆきねぇを幸せにできると思うの。だから、私は大人にならなくちゃいけないと思ってるの」




少女は自分の思っていることを言ってくれる。そして、少女の目には固い決意が見られる。




アキラは、一人の子供が大人への階段を駆け上がっていくのをこの目に焼き付けた。誰かの幸せは誰かの力によって作られる。そう思えるような光景であった。




この少女の決意を無駄にしないと誓い、自分を慕ってくれる少女たち全員を幸せにすると自分も決意するのである。




しばらくの後、少女は涙を拭き自分の足で来た道を帰っていく。その後ろ姿を僕は見守りながら歩くのであった。




 こうして、皆の元に戻ると待ちわびていたかのように、皆待っていてくれた。老婆が




「主賓が到着しましたぞ。ささやかながら、婚約祝いと致しましょう。」




と景気よく祝ってくれる。花嫁のまゆきは少し化粧をしており、たまらなく美しいと感じた。




そして、そのまま宴会が始まる。その席には、まゆき姉妹の両親も参加しており、父親らしき人から




「娘をどうかよろしくお願いします。」




とご丁寧な挨拶があり、




「いえいえ、こちらこそ。」




と双方、頭を下げるのであった。




ちなみに、ましろちゃんは、自分の左に座っていた。まるで、姉妹をもらうみたいじゃないかと思いながら楽しく過ごす。ああ、こういう宴会、自分好きだわと思うのであった。




 しかし、奴は唐突に現れるのであった。




皆、忘れてないだろうか、こういう席に欠かせないあの代物を、僕も存在を忘れていた。




誰かが、ドンと例のあれを差し出す。【マゴナ】だ。絶対に飲まない方がいいと精霊先生から言われたマゴナである。




それを見た瞬間、血の気が引く。こういう祝いの席では、飲むのが恒例となっているのだろう。隣のまゆきやましろ達が心配そうに僕を見つめているのが、わかった。




男には、逃げられない戦いが時には訪れる。今がその時だと、わかる。しかし、そんな勝負事でも冷静さを失ってはならない。全力で頭をフル回転させる、突破口をなんとしても見つけるのだ。




そして、解決の糸口を閃く。精霊さんにそのことを相談すると、




「はい、可能かと思われます。存分に披露してあげましょう。」




いつにもまして、やる気まんまんの精霊さんである。




 そして、マゴナが注がれる。マナたっぷりの僕にとっては毒物だ。




そして、その策を実行する。出されている料理のきのこっぽいものに、手をかける。いちかばちかだ。




まだその中に、生命が残っていることにすべてをかけて、マゴナを飲む。口に含みながら、きのこらしきものに、電流を流しこむ。




しかし、反応がなく、どんどんと気分が悪くなっていく。駄目かと思われたその時、きのこが反応し、増殖する。




そうすると、少し電流が消費されたことにより、口に含まれているマゴナのマナが消費される。多すぎるなら、使ってしまえばいいのだ、そう逆転の発想である。




その後もきのこらしきものに電流を流し続け、増殖させていく。




しかし、気分不振は思ったよりも進行がはやい。口にマゴナを含んだまま、立ち上がり客人たちにきのこ(仮定)を振舞っていく。




そして、外で出て見物している、村人たちにも振舞う。きのこが安価になったのは、近世以降であり中世では栽培方法の面で大量生産ができず、高価なものであった。




そのきのこ(仮定)が神の使いらしきものから、送られるのだ。村のボルテージは最高潮に達する。




僕の残った意識をフル動員し村の真ん中に陣取り、きのこを大量増殖させる。今、僕はきのこの神だ!!茸神をこの時だけは自負する。




(村人よ!!茸神からの選別だ!!)




と言わんばかりに増殖させる!!キノバベルの塔が完成しようかと言うほど増殖する。




 そして、だんだんと口のマゴナのマナが消費されていくのを実感する。それが気分不良に繋がらないまでに、薄まったことを確認し、ゴクリと飲み込む。




ここに、マゴナとの壮絶な戦いが終わる。村人たちが、きのこの神様の雄姿を称え、声援を送っているようだったのをこの時の僕は感じるのであった。




「さぁ、茸神終了。」




と割り切り宴会の席へと悠々と戻るのであった。

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